野宿
俺たちはコモドリザードから救った少女マリアと共に、川辺で夕飯の支度をしていた。
あのまま放置するのはさすがに罪悪感半端ないからね。
夕飯はもちろんコモドリザードの肉だ。あの巨体だが、何とか輪切りにしてポーチと鞘に分けて収納することができた。ホープは肉が無くなるまで鞘に入りたくないとか言って、俺の片手を塞いでいる。焚火はそこら辺に落ちている木々や葉を燃料に、着火はホープで行った。
『おい、ケント』
「なんだよ」
『そろそろあの子の見てくれどうにかしてやれよ』
マリアの方をちらりとみる。そこら辺にあった切り株に腰を掛け、体を隠すように腕で覆っている。
「・・・忘れてたわ」
『おまえなあ・・・』
ホープはわざとらしくはぁーとため息を吐いてから続けた。
『そんなんじゃ嫁も見つからねえぞ』
「まだ成人したばっかりなのにそんなこと考えたことも無いよ」
『とにかく、どうにかしてやれ』
俺はやれやれと肩をすくめながらマリアの方へ歩み寄る。
「えっと・・・マリアって言ったっけ」
「はい。申し訳ありません。護衛をしてもらってしまって・・・」
彼女は心底申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。
「いや、それはいいんだけど、服破れてて大変じゃない?」
「それはそうですが、これ以外の服は馬車の中でしたので、これよりもひどいことになっているかと」
彼女は馬車でスミスの町に向かっていたらしいのだが、その途中でコモドリザードに襲われてしまったらしい。一緒に来ていた人もコモドリザードにやられてしまったみたいだった。
「俺の予備の服で良いなら貸すよ」
ポーチから白いシャツと短パンを取り出す。ほとんど俺と同じ背丈だしちょうどいいと思ったのだ。
「えっと・・・よろしいのですか?」
「そのままよりかはましでしょ?」
彼女は少し考えた後に、そっと服を受け取り、再度頭を深く下げた。
「何から何まで申し訳ありません。ありがたく使わせていただきたいと思います。あの・・・図々しいお願いだと思うのですが、湯浴みをさせてもらえませんか?」
「そういえば俺もしばらく入ってなかったな。じゃあ用意するよ」
俺は近くの川へ行くと、少し大きめの石を円形状に並べていった。石で囲まれた場所は水の流れが完全にせき止められて隔離された。そこにホープを差し込んで、火をつける。足を浸けて温度を測りながら水を温めていき、良い感じの温度になったら、ホープを引き抜いてまた焚火に差し込んでおいた。
『お前結構頭いいな』
「だろー?」
少しどや顔をしてやった。
俺はマリアのところに戻り、準備ができたことを伝える。
「できたぜ。どうせだったら一緒に入る?」
「い、いえ。それは遠慮しておきます」
マリアは少し複雑そうな表情で断ってきた。冗談のつもりだったんだけどな。
『デリカシーのデの字もわかってねえのなお前』
「なにかあったら叫んでねー」
「はい。その時はよろしくお願いします」
マリアにタオルを渡し、先に入るように促し、俺は肉の準備にかかる。なぜか調味料の類を持ってこなかったので、そこら辺の木の棒に突き刺して焼くだけだけど。タオルは持ってきたのになあ?
その後何事もなく、マリアが戻ってきた。俺の服を着たマリアは、シャツをズボンに突っ込んでお腹が出ないようにしていた。胸のふくらみのせいかシャツがぱつぱつのようだった。
少し考え無しだったかもしれない。
「汚れを落とすことができました。ありがとうございました」
「服が少しちっさかったかな。ごめん」
「いえ、さっきのズタズタの服よりも断然良いですよ」
「それならいいんだけどさ。じゃあ、俺も入ってくるよ。肉が焦げないように見といてくれる?」
「はい。わかりました」
『おいおいおいおい・・・あれじゃあまるで痴女みたいじゃねえかよ』
「痴女?」
『いや、なんでもねえ。お前が何とも思わねえなら俺はなんも言わねえよ』
ホープが何かよくわからないことを言っていたが、ホープの言う通り、気にしないことにした。
肉はもうそろそろ焼けるかなと言った頃合いだったが、せっかくのお湯が冷めてしまってももったいないので先に風呂に入ることにした。風呂といってもただの温めた川の水だけどな。
しかし、人はお湯につかるとどうしてこうも気持ちが良いのだろうか。人類最大の謎かもしれない・・・。
風呂からあがって戻ると、肉が焼けたいい匂いが漂っていた。
『おかえりケント』
「おかえりなさいケントさん。お肉はもうとっくに焼けていますよ」
なんだかマリアの雰囲気が少し変わっているような気がする。なんというか、さっきよりも砕けた感じに接してくれているような。あと、シャツをズボンにつっこむのをやめたようで、お腹が少し見えていた。お腹が冷えてしまわないか心配だ。だが今は肉だ。
「肉!」
俺が焼けた肉に齧り付くと、歯で繊維を断ったところから肉汁がこれでもかと染み出てくる。そして味は豚肉に似た味なのだが、あっさりとした軽い感じの味の中にあのでかい図体のようなジューシーな肉汁の味があわさり、なんとも美味であった。
「うっっっっっっっまあああああああああいいいいいいいいい!!!」
久々の肉ということもあったのだろうが、これまで食べたどんな肉よりもうまかった。これで下ごしらえをしていないのだから、しっかり調理すればもっと旨いのだろう。
マリアも小さめに切り分けて焼いたものを小さな口で上品に食べていたが、一口食べた後に口を抑えて驚いたような顔をしていた。
「本当に美味しい・・・。コモドリザードは怒らせてしまうと非常に危険な生物でしたから、あまり肉が市場に出回ることは無かったですが、これほどまでに美味しいとは・・・」
ぱくぱくと頬張って食べる姿はなんとも微笑ましかった。俺はガッツガッツと無我夢中で食べてたけどな!
「食った食ったー!」
腹をぽこんと叩き、満足感をアピールする。
「ごちそうさまでした。こんな美味しいご飯が野宿の時に食べられるとは思っていませんでした。本当にありがとうございました」
「いいってことよー!」
腹も膨れたところで寝袋に入って眠ることにする。森の動物たちは火に近寄ってこないので、火を消さない限りはだいたい安全だ。火もホープがいれば消えることは無いしね。
「はい。マリアのぶんの寝袋」
マリアに寝袋をぶん投げて渡す。実は食ったらめちゃめちゃ眠くなってしまったので、すぐにでも寝たいのだ。
「じゃ、おやすみー!」
俺はマリアの顔も見ずにそう言うと、意識を手放した。




