前日
あれから、なんとかビガンは場をおさめて、誕生祭が始まった。
俺は父さんと母さんと一緒に行動し、色々なところに挨拶に行ったり、飲んだり食べたりして、誕生祭を大いに楽しんだ。
そして次の日、俺は当初の予定ではもう旅に出るはずだった。だが、ビガンがそれを知ってから、あと1日待ってくれと言って聞かなかったので、今日は明日の最終確認をしていた。
「ケント、ほんとに行くんだな?」
「うん。ホープを見つけたのは俺だしな」
「道中の食料の確保とかは大丈夫?」
「まあ、ホープがいるから焼いて食べることはできるよ」
「これはお前が決めたことだから行くなとは言えないが、父さんも母さんもお前と離れるのは寂しいし、心配でもある。自分たちの知らないところで可愛い一人息子が死んだりしたら、悔やんでも悔やみきれない」
父さんは真剣な表情で続ける。
「でも、同時に誇らしくもあるんだ。立派に育ったお前が、自分で決めたことを貫き通す姿は、親としても嬉しいし、応援してやりたいと思っている」
それから少し笑って、言った。
「まだ最後じゃないが、抱きしめさせてくれるか?」
「いいよ」
俺が両手を広げると、母さんも一緒に俺を抱きしめた。その抱擁はいままで味わったどの抱擁よりもきつく力強かった。
「父さん母さん……苦しい……」
「ああ、すまない」
「ごめんなさいねー」
そう言いながらも、離れる素振りは見せず、しばらく2人に抱きしめられたままだった。
やれやれ、2人とも寂しがりやなんだから。
一応ビガンの家、領主の館にも顔を出しに行った。領主の館は二階建ての豪勢なものだ。貴族の館にしては土地が少ないらしいが、この町から出たことがほとんどない俺からすれば十分でかいし広い。
「いらっしゃいケントくん」
領主のキカンおじさんが出迎えてくれた。
「こんにちはおじさん。忙しいのに大丈夫なの?」
おじさんと父さんは昔からの友人らしく、俺の小さいころから付き合いがある。昨日の誕生祭でも一緒に酒を飲み交わしていた。今日も黒めの服を着ている。昔から黒が好きなのかもしれない。
「誕生祭も終わったからな。通常業務だけなんだ」
それからキカンおじさんはため息をついた。
「それなのにビガンのやつは私と話もせずに仕事仕事と・・・」
「ビガンは忙しいの?」
「ああ、明日の・・・」
そこまで言ってキカンおじさんは慌てたように口を噤んだ。
「おっとこれは言ってはいけなかったな。失敬失敬」
はっはっはとおじさんが笑う。そういうときは割としょうもない隠し事であることが多い。
「またしょうもない秘密じゃないの?」
「そんなことはない。これは国家機密にも匹敵する内容だぞ」
「ほんとかよ」
キカンおじさんは口元に手をあてて可愛らしく内緒のポーズをした。もう30越えのおじさんがやると吐き気がしてくるけど。
気を取り直して今日の用事を済ませることにする。
「明日でこの村とはしばらくさよならだから、挨拶に来たんだ」
「おお、そうか……寂しくなるな」
「そうだね……」
なんだかんだ言っても俺だってみんなと離れ離れになるのは寂しい。
「お前にはこの村を救ってもらった礼もある。先立つものは用意させてもらうぞ。というか、本当に勲章授与式まで待ってはくれないのか?」
昨日、魔物退治をしたことで、領主として勲章を授与したいと申し出があったのだ。俺はめんどくさい式は嫌いだったから断ったんだけど。
「元々今日出発する予定だったからね。ビガンにせがまれて明日の朝一に出ることになっちゃったけど」
「そうか」
そこまで話して、用も済んだので館を後にする。
「じゃあ、俺はこの辺で。またいつか」
「ああ。またな」
俺は手を振りながら、館を出た。




