誕生祭
俺と母さんと父さんは広場に来ていた。広場は宴会が今にも始まるぞといった雰囲気で、みんなそわそわしていた。出店を出して小金を稼ごうと画策している人、無料配布のお酒とご馳走の準備をしている人、それの前でたむろしている人。みんな領主の挨拶を待っていた。
誕生祭はいつも領主の挨拶から始まるのだ。
「なかなか賑わっているな」
「遅刻してなくてよかったわー」
「そういえば、今日は御神体も持ってきたけど、どうして?」
俺はホープの他に、御神体の木刀も持ってきていた。前回までの誕生祭には持ってこなかったため、今回は不思議だった。
「お前の成人式だしな。それに、守り神様にもこの村の宴を体験しておいて欲しかったんだ」
「ふーん……」
少し腑に落ちなかったが、父さんはたまによくわからない行動もするから疑問に思っても仕方ないか。
『その行動、きっと守り神にも影響を与えてるだろうよ』
「あらホープちゃん。守り神様と知り合いだったりするのかしら?」
「なんだって?ホープ、知ってるなら守り神様のこと教えてくれないか?」
父さんも俺が寝ていた間に母さんと一緒に剣に触ったらしく、ホープと会話することができるようになっていた。
『いや、精霊としての勘みたいなもんだ。そいつのことを知っているわけじゃない。精霊ってのは人の思いが集まってできるもんだから、そうやって大事にしておけばいつか話しだすかもしれないけどな』
そんな話をしていると、ゴホンといった咳払いが聞こえた。広場の中心を見てみると、壇上に領主が立っていて、風魔法がかけられたマイクにむかっていた。
領主は落ち着いた黒の服を着ていた。しかし、俺達の着るようなものとは違い、しっかりと貴族らしいデザインの物だ。派手な装飾が無いのは、貴族としては一番位が低いからだろう。
「えー、マイクテストーテステスー……」
マイクテストが終わると、領主が挨拶を始めた。
「大丈夫のようですね。では改めまして。皆さん、今年も誕生祭にご参加いただきありがとうございます。今年の誕生祭は問題も起こりましたが、我が村の将来ある若き者たちによって、その問題も鎮圧することができ、無事開催することができました。ここで、その者の名を皆に知ってもらっておきたい。ということで紹介します」
領主がそこまで言うと、ビガンが壇上に上がった。
「まず、我が息子ガンツ=ビガンだ」
挨拶を促すように、ビガンにマイクを渡す。
「ありがとうございます。領主様。先程ご紹介があったと思います。領主様の息子のビガンです。このような場で、私の功績をお褒めに預かること、大変名誉なことであると喜びの意を隠しきれません。ですが、私よりもより高い功績を残した者がいます」
そういうと、ビガンは俺の方を見た。
嫌な予感がするな……
「キリツグ・ケントです」
そういうと共に俺に光が降り注ぐ。光を発する魔導具を用いたものだろう。周りが薄暗いが故にできる演出だ。だがしかし、俺はひどく動揺していた。
「行ってこいケント」
父さんが俺の背中をバシンと叩いて促す。
なんて日だ……こういうことには縁がなかったから、めちゃめちゃ緊張するぞ……
頭の後ろをぽりぽりとかきながら、えへへと変な笑みを携え、壇上まで歩いていく。壇上に上がるとマイクを渡された。
「適当に挨拶しろ。いつものお前で大丈夫だぞ」
ビガンが小声で俺に囁く。俺は一度深呼吸をしてから、口を開いた。
「みんな、こんばんわ。キリツグ・ケントです。俺は小さいときから銃を扱えない落ちこぼれだったけど、代わりに剣の訓練を独学でやってきて、今日、魔物を倒すこともできた。といっても、ビガンの協力が無かったらどうなっていたかわからなかったけど……」
俺は続ける。
「俺が今ここで言いたいことは、どれだけ才能がなくても、頑張って、努力して、自分を信じて頑張り続ければ、いつかは実を結ぶってことです」
俺は一礼してからビガンにマイクを返す。
「なかなかいい演説だったじゃないか。見直したぞ」
そう小声で言ったあと、ビガンが話しだした。
「みなさん、安心してください。私達、若者も一丸となってこの村に貢献していくつもりです。何かと迷惑をかけることもあるとおもいますが、これから、大人の一員として、よろしくお願い―――」
「あ、ちょっとまって」
俺はビガンの言葉を遮って言った。
「ケント、今は黙っておいてくれ」
「いや、俺この村出るからこの村のためになにかするとかはできないよ」
「……は?」
ビガンは少しの間わなわなと震えてから叫んだ。
「このタイミングでそんなことをきりだすんじゃない!!」




