敗走のあと
「知ってる天井だ」
目を開けるとベッドの天幕が目に映った。その天幕は、フランやサフィリアが住んでいる洋館のものだった。俺は、龍火山のドラゴンに焼かれて、死んだのかと思っていたのだが……
『そのよくわからん一言は言わないといけない決まりとかがあるのか?』
「ホープ、俺はどうしてこんなところにいるんだ?」
『それは俺よりもあそこで眠りこけてるやつらに聞いたほうがいいんじゃないのか?』
辺りを見渡すと、小さな机に突っ伏して眠っているキリエと、丸椅子に座ったままの状態で眠っているマリアがいた。頬には涙の跡が見受けられた。
「マリア?」
俺がマリアに声を掛けると、マリアがびくっとして目を開けた。一瞬目を丸くしたと思ったら、号泣しながら抱きついてきた。
「ケントさん・・・生きて・・・」
言葉にならないといった感じだ。
ホープの方に目をやるが、ホープは何も言わなかった。まるで、今の状況で説明がいるのか?と言われているようだった。
「目が覚めたのですわね」
机の方で眠っていたはずのキリエが目を開け大きく伸びをした。
「大変でしたのよ⸺」
俺がドラゴンの一撃を受けて倒れた後、マリアが外に連れ出してくれたらしいのだが、マリアも体力が尽きて意識を失い、さすがに2人を担いで村まで戻る力はキリエに無く、途方に暮れているところにフランが様子を見に来たらしい。
そして、フランに俺を担いでもらい、4人で帰ってきたのが1週間前のことらしい。
「1週間も眠ってたのか……」
通りで腹の虫が鳴り止まないわけだ。
「なにかお腹に流し込める物を持ってきますわ」
そう言って、キリエは部屋から出ていった。
「取り乱しました……」
少し恥ずかしそうにしながら、マリアはベッドの傍らに置いてある丸椅子に腰掛け直す。
「まあ、1週間も眠ってたもんな」
「本当ですよ。もう目覚めなかったらと思うと、夜も眠れませんでした」
「……ごめん」
かなり心配をかけてしまっていたようだ。今回ばかりは無茶をしすぎたかもな。
「でも、目が覚めてよかったです」
「ホントだよー」
おもむろに天井から声が聞こえてきた。それに反応して、慌てたようにマリアが顔をぐしぐしと擦って涙を拭った。
「あれー?お邪魔だったかしら?」
無垢な笑みで言いながら出てきたのはフランだった。
「フランさん。天井から急に出てくるのはやめてくださいと前にも言いましたよね?」
「あれ、そうだっけ? ごめんね?」
フランは詫びれるよりは、悪戯が見つかった子供のような顔で笑いながら言う。まあ、これがフランなのだから仕方がないか。
しばらくして、キリエがスープを持ってきてくれて、1週間ぶりの食事にありついた。そのスープの出汁には魔物が使われていて、体力が回復しやすくなっているらしい。魔物料理は見た目はアレだけど、味も良いし健康にも良いようだ。
「さて、あのドラゴンですけれど、どうしましょうか」
スープを飲み干すや否や、キリエが口を開いた。
しかし、尤もな話でもある。硬い鱗に、強力な息吹。あの巨体も十分な脅威だ。どう攻略するか、考えるべきかもしれない。
「ドラゴン?」
「そういえば、言いそびれていましたけれど、私達は龍火山の頂にいるドラゴンに挑んて敗走したのです」
「あ、そうなんだ」
フランが「ふーん」と唸りながら、俺を舐めるように見る。そして、何か思いついたかのように手を打った。
「じゃあ、特訓しよっか!」




