無謀
俺は、ドラゴンの腹めがけて切りかかった。しかし、俺とドラゴンの体格差は歴然だ。ドラゴンから見れば、俺は足元を這うねずみのようだろう。だからなのか、避けるそぶりすら見せなかった。俺の攻撃は腹に直撃した。腹には鱗がなかったため、柔らかいのかと思いきや、思いの外硬くて頑丈だった。それでも、俺の一撃で少しだけ後退させたような気がした。
『貴様、ふざけているのか? そんななまくらで、我に傷を負わせられると思っているのか!』
「ふざけていないさ。最初は小手調べから行く方が良いだろ?」
ドラゴンが怒りを露わにする。それもそのはずだ。俺が今切りかかった時に使っていた武器は、木刀。刃も付いていないただの木の棒だったからだ。でも、俺だってふざけて木刀で殴ったわけじゃない。できることなら少ない精霊力で倒したい。五体満足で、自分の足で村まで帰りたいからな。
『図に乗るんじゃないぞ小僧!』
ドラゴンはその場で一回転し、長くて太い尻尾を俺に叩きつけてきた。俺は木刀でそれを弾き飛ばそうとしたが―――
「くそっ―――」
弾くことが叶わず、体は宙に投げ出された。幸いにも、衝撃を受け流すことには成功したので、今は無傷だ。問題があるとすれば、背中に迫っている石壁に激突しそうだということだな。
「【エアリアル】!」
俺はすぐに周りの空気を操り、衝撃を和らげた。ついでに体制も整え、壁を蹴ってドラゴンの前に降り立った。
『ほう、やるではないか』
ドラゴンは巨大な尻尾を地面に軽く叩きつけた。賞賛の証かなにかなのか?
「じゃあ、もう少し本気でやるか!」
俺はミコトを手に取り、【迅雷】を使った。一瞬のうちにドラゴンの目の前に飛んでいき、硬そうな鱗にミコトを突き立てる。しかし、ドラゴンの鱗は硬く、ミコトは一切突き刺さることなく弾かれた。ドラゴンもさすがに面食らったようで、目を丸くしていた。しかし、それも一瞬だった。ドラゴンの表情は元に戻り、大きな手で俺をはたき落とした。辛うじて威力を流せはしたが、俺は地面に叩きつけられた。受け身も中途半端になったが、なんとか骨は折れていなさそうだった。体中が痛む。だが、動かないと死んでしまう。その緊張感からか、俺は【集中】を発動させ、すぐさま飛び退いた。
『なかなかの根性だな。だが、貧弱。そのような矮小な力で我にかなうとおもうたか!!』
「まだまだこれからだよ!」
俺はホープを手に取り、ドラゴンの腕を斬りつけた。ドラゴンは動けなかったのか、動かなかったのか、俺は容易にドラゴンに接近できた。
「【炎舞・焔】!」
ドラゴンの腕を炎が切り裂く。と思ったのだが、結果は、鱗に傷が付いただけだった。
「なに……?」
『だから矮小だと言ったのだ!』
ドラゴンが息を吸い込む。やばいと思った俺は魔法を放った。
「【エアロブラスト】!」
『【炎の息吹】!』
俺の突き出した手からは渦巻く風が。ドラゴンの口からは炎が吐き出された。風と炎はぶつかり、大きくなりながら俺の方に迫ってきた。
しまった。そうだった。
「風は炎を強くするんだった―――」
体が焼ける。炎の息吹に焼かれた俺の皮膚は美味そうを通り越し、焦げ臭く感じるほどに焼けていく。痛みや熱さを感じる前に、皮膚の神経が破壊されていく感覚がする。俺が地面に落ちると、転がった拍子にスイが鞘から転がり出て、スイの柄に溜まった水が俺にかかり、傷が少し癒えた。
『貴様……』
『……けん……しん……』
『……ゆるさ……だと……だろう』
『……れは……』
ドラゴンが何やら話していたが、俺にはよく聞こえない。俺は、途切れかけている意識を必死につなぎ留めながら、エクスを頼った。
「エクス……」
『だめだ』
返答は冷たいものであった。
『ここで我に頼ってはいけないと、お前は思わなかったのか?』
「でも……」
『どんなことがあっても、我が力を貸すことはないであろう。悔しければ、強くなることだ。強くなって、無理矢理にでも我の力を引っ張り出してみるがいい』
「くそっ……たれ……」
俺はそれだけ言って、意識を手放した。




