十字鞘
「じゃあ、父さんたち行ってくるな」
「俺も一緒に行くよ」
昼から布団を出して横になっていた俺は、起き上がって言った。
「本当に大丈夫なのか?」
「ビガンのポーションがすごい効き目だったみたいで、体の方は大したことなかったんだよ」
「もしかして高価な奴か?」
「中級ポーションって言ってたかな。青い奴だったよ」
俺がそういうと父さんと母さんは目を見開いた後、顔が青ざめていくのが見て取れた。そして、父さんが恐る恐ると言った感じに聞いてきた。
「それってビン詰めされてる青い液体のやつか・・・?」
「うん。そうだったよ」
「マジモンの中級ポーションじゃねえか・・・」
「お、お父さん・・・それって一万バンはくだらない代物じゃなかったかしら・・・」
「そのはず・・・だな・・・」
二人の顔がどんどん青ざめていく。ポーションと同じくらいに青いんじゃないかと思うほどに。
ちなみにバンというのはこの国の通貨で、銅貨が1バン、銀貨が100バン、金貨が1000バンとなっている。他にも硬貨が存在するらしいけど、俺は詳しいことは知らない。
「ビガンなら気にしないと思うけどな」
「私たちが気にするの!」「俺たちが気にするんだ!」
声をそろえて二人が叫んだ。
「それよりも、そろそろ行かないといけないんじゃないの?」
らちが明かなさそうなので、出発を促す。そんなに騒ぐことじゃないと思うんだけどな。
二人はそうだったといそいそと準備をしだした。俺も布団を片付けて、外出の支度をする。御神体の木刀は必要ないだろうし置いていくとして、ホープは持って行ってあげよう。この村のお祭りをホープにも見せてやりたいしな。俺はまたホープをぐるぐる巻きにしようとする。
『おい!またそれか!?鞘とか無いのかよ』
「と言ってもなあ」
俺が困っていると、母さんが何か持ってきた。母さんの手には、十時の箱のようなものがあった。真ん中には丸いくぼみがある。
「母さん、それは?」
「これね、昔からうちの倉庫にある、由緒正しき異次元ボックスなのよ」
異次元ボックスというのは、暗黒魔法という中級魔法を入れ物に対して使って、その効果が恒久的に持続するようにした魔導具の一種である。見た目の何倍も収納スペースを増やしたものだが、物によっては家すらも入るものもあるとかないとか。
その箱の先っぽには穴が開いていて、そこから物を出し入れしているようだ。
「もしかしたらホープちゃんが気に入るかなぁと思ってー持ってきたのよー」
「うん?俺、ホープのこと紹介したっけ?」
そう、色々バタバタしていて、ホープの事を俺はまだ母さんたちにちゃんと紹介していなかった。なのにどうして母さんがホープのことを知っているのだろうか。
「ごめんなさいね。ケントが寝てる時に剣に触っちゃってね、そしたらなんだか声が聞こえるようになったのよー」
「ホープ。そういうことは早く言ってくれよ」
『お前さっき起きたばっかだろうが』
それもそうかと納得してしまった。
「母さん、体なんともない?」
「ええ、大丈夫よ?」
「俺がホープに初めて触った時は、魂がドックンってなったからさ。大丈夫かなって」
『心配すんな。お前の血筋のやつがあんな程度でくたばるわけがねえよ』
「確かにそんな感じしたけど、気のせいかなーって思っちゃってたわー。それに、ホープちゃんとお話しするの楽しかったからねー」
ホープと母さんは「ねー」とまるで女子同士の相槌のような真似をする。ちょっとは年を考えたらどうなんだろうか。それ以前に、ホープは男だろう。
「ケント、今失礼なこと考えなかった?」
「気のせいじゃないかな」
母さんはエスパーか何かなのか?
「で、ちょうど鞘?みたいな感じかなーって思って、この十字箱を持ってきたのよー」
母さんが得意げに十時の箱を掲げる。
『おいおい、それまだあったのかよ』
「ホープ、知ってるの?」
『ああ。それは俺達の鞘だ。俺達を打った奴が持ち運ぶのが億劫だから作ったんだとよ』
え、まじでこのヘンテコな形した箱が鞘なのかよ……
「まあ!まあー!まさか本当に鞘だなんておもってなかったわー」
母さんが十字箱を持って喜びのポーズをする。もうそんな歳じゃないと思うのだけど、年端も行かない少女のような仕草が少し可愛かった。
「じゃあ、さっそく鞘に入れてみてちょうだい」
母さんが俺に十字箱もとい十字鞘を差し出す。俺はホープを十字鞘の先っぽに空いた穴から差し込んでみる。するとホープは鞘に吸い込まれるように入っていった。
『うげっ!中に何か入ってるじゃねえか!』
ホープがしきりにうげーうげーと嫌そうな声を上げるので一度引き抜いてやる。すると、剣に絡まってロープが出てきた。
「母さん?」
「あらあらまあまあ」
母さんは罰の悪そうな顔をする。
「いえ、そのー……ね?」
「ね?じゃわからないんだけど?」
「異次元ボックスになってたから色々と物を入れちゃってたの忘れてたのー」
母さんはてへっと自分の頭をかわいく小突いた。
俺が呆れた表情をしながら、鞘を上下に振ってみると、中からいろいろなものが出てくる。ロープ、箒、鋏、今は使っていないであろうものがその他にも色々出てきた。
「てへっ」
「母さん、とりあえずこれ片してから行こうね」
「はい……」
母さんは少し反省したような仕草で片付けを始めた。仕方ないから俺も手伝ってあげることにした。




