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始まり

数百年前発明された魔銃、魔法銃と呼ばれる手のひらサイズの道具は、数年かけて実用化、量産され、今では日常生活において、必需品となっていた。

台所や洗面台には、水の魔石が装填された魔銃が設置され、引き金を引くと水が出る。調理場では着火の道具として火の魔石が装填されたものが重宝されている。

もちろん、殺傷能力を有する物も存在する。猟師などは、ライフルと呼ばれる、全長1メートルほどの長いものを使用し、動物を狩っている。


子供たちにも銃の扱い方が教えられている。道具とは使い方を誤れば危険物になってしまうものなのである。そういう事故を起こさないために、大人は子供たちに正しい使い方、危険性を説く必要がある。

しかし、人々の中には試合と称して銃の撃ち合いをしたりする者もいる。もちろんそれが原因で命を落とすものもいるだろう。

それは人間の性であり、無くすということは不可能であるだろう。

そのため、ある時から、試合という形式を正式に認め、ルールを設けて競技にすることで、その欲を消化するという方法が設けられた。

それを一般的に、決闘という。




「おい、ケント!決闘しろよ!」

「いやだよ……」

僕は今日もいじめられていた。

この世界では、銃の腕前が立場の優劣を左右していた。

ケントとは僕のことだ。僕は銃の扱いが下手で、魔銃から火を出せば爆発させ、水を出せばこれまた爆発し、部屋中を水浸しにしていた。

なので家では水をまともに使えず、8歳になった今でも、母親に手伝ってもらう始末だった。

そんな僕に絡んでくるのはビガンくん。彼は銃の扱いが上手く、将来は軍隊に所属するらしい。もう殺傷力のある魔銃の練習も始めているらしい。

そんなビガンくんは、僕を毎日のようにいじめてきた。今日はどうやら決闘ごっこをしたいらしい。そのためにゴム弾の入った銃も2丁持ってきていた。


「なんだと?この俺様が直々に誘ってやってるんだぞ?お前なんて落ちこぼれ、誰も相手にしてくれないだろう?」

ビガンくんはニヤつきながら僕の顔を覗き込んでくる。

これは逃げられそうにない。まあ、いつも逃げられないから標的にされるんだろうけど。


一対一の決闘は、お互いが向き合い、銃はホルスターに入れて触らない状態で始まる。

決闘には立会人を一人設け、開始の合図と結果を見届けてもらう。今回は、ビガンくんの取り巻きの一人がその役を担っている。

形式だけは公式なものと変わらない。違うのは、子供だけで行うということくらいか。


「はじめ!」

掛け声と同時に腰に付いているホルスターに手を伸ばす。

銃を引き抜き、銃口をビガンくんへ向ける。早打ち自体は僕の方が早いみたいだ。僕はビガンくんよりもさきに撃鉄を起こし、引き金を引いた。

次の瞬間には、僕の視界には青空が広がっていた。そこに、ニヤニヤと笑みを浮かべながらビガンくんが歩いてきて、僕の額にゴム弾が当てられた。

どうやら、発泡の反動で仰向けに倒れてしまったようだった。もちろん、弾は明後日の方向へ飛び去った。


「おれのかちー」

得意気なビガンくんの声が聞こえる。

「じゃあ、ケントは今日から俺の奴隷だから。」

「ええ!」

僕が驚いて、勢い良く上体を起こすと、ビガンくんは側にある小さなお店を指差していた。



結局、僕はあの後ビガンくんのパシリをやらされた。奴隷というから、一体なにをさせられるんだろうと思ったんだけど、そこまてひどいことじゃなくてよかった。

憂さ晴らしとかに殴られたりしたらたまったもんじゃないよ……

そして、僕は家に帰ってきていた。

僕の家はこの村では標準的な大きさで、みんなで食事したり、寝どこにもなるリビングにキッチンが一緒にあって、その部屋の奥にお父さんが仕事をしているところがある。

「ただいまー」

「おかえりなさい」

家に帰ると、優しい笑顔のお母さんが夕飯の支度をしていた。

お母さんは僕の顔を見るなり目を丸くして聞いてきた。

「おでこ、どうしたの?」

言われて、額を撫でてみると、少し腫れているようだった。おそらく、ゴム弾が当たったところであろう。

「ビガンくんと決闘して負けたんだ」

「あらあらまあまあ」

お母さんがそういって料理の手を止めて近寄ってくる。そしてお母さんは僕の額にお母さんの額を当てて言った。

「いたいのいたいのとんでいけー♪」

歌でも歌うかのように軽快に言う。実際、触らなければ痛くないくらいだったけど、その言葉で本当に痛くなくなった気がした。

「どう?痛くなくなった?」

「うん!ありがとう」

僕が元気よく返事をすると、お母さんは安心したように笑顔になった。

「じゃあ、お父さんを呼んできてくれる?もうご飯できるから」

「わかった!」


僕が奥の部屋に行くと、お父さんがいた。お父さんは机に置いた紙を見ながら唸っているようだった。

「お父さん。もうご飯できるって」

「おお、おかえりケント。もうそんな時間だったか」

僕が声をかけると、神妙な面持ちだったお父さんが笑顔を向けてくる。

お父さんは、僕の頭を軽く撫でるとリビングに向かって歩いていった。


「今日も我が家を守ってくださりありがとうございます」

お父さんが、壁に飾ってある木刀に向かって言う。

木刀は、壁に据え付けられた台に(まつ)られており、両脇に花が供えられている。

この木刀は、我が家に代々伝えられ、家の守り神の御神体とされている。そのわりにお供え物は両脇の花だけなのだが、お父さんから聞いた話によると、神様は人々の暮らす姿を見るのが一番楽しいらしいので、自分たちの姿が見える場所に祀ってあればそれでいいということらしい。両脇の花もお母さんが、置いてあるだけなんて可愛そう。ということで、花を備えるようになったそうだ。


「ケント、お前またガンツのとこのガキにやられたのか?」

食事中、お父さんが言ってきた。額が赤くなっているのを見て悟ったのだろう。

()()()というのは、ビガンくんの姓のことだ。ちなみに僕の姓はキリツグである。

「うん………」

僕がしょぼくれながら言うと、お父さんは豪快に笑って言った。

「最初はみんなそんなもんだ。でも、いつまでもそのままじゃいけねえぞ。」

「わかってるよ……」

お父さんは、僕がしょぼくれているとだいたい同じようなことを言う。

「自分を磨いて、いつか見返してやるって気概で生きなくちゃいけねえ。だからがんばれ。為せば成る!」

「そうだね」

お母さんは僕とお父さんの話をにこにこしながら聞いていた。



僕は次の日から、ランニングを始めた。自分磨きをするにしても、まずは体力がいる。だからランニングなのだ。

ルートは、僕の家から村の裏手にある山を登って、そして降りてくるというコースである。その道のりは5kmほどだと思う。

一日目は死ぬかと思いながらも、夕飯には帰ってこれた。昼から出かけて、夕飯ぎりぎりに帰ってきたので、かなりの時間がかかっていたと思う。それもそのはずで、山は険しく、ランニングというよりはただの山登りとなっていた。

それも一週間続くと、少しずつ慣れてきて、ひと月も経てば、一時間程で踏破できるようになっていた。


僕は今日も日課のランニング兼登山に励んでいた。慣れてきた頃が怖いと、よく言うだろう。その日は雨が降っていて、地面が泥濘んでいた。それでも、何度も通った道で足を滑らすなんてあり得ないと思っていた。

その思い込みが良くなかったのかもしれない。

僕は、山で足を滑らせて、山の斜面をすごい勢いで転がり落ちていた。

気付いたときには、見知らぬ洞窟の中であった。

着てきたレインコートが泥だらけだ。体の節々が痛い。

僕がそう思いながらも、顔をのっそりと上げると、そこには神々しいと表現しても相違ない光景が広がっていた。

そこには剣があった。積み上がった石が台座のようになっており、そこに深々と剣が刺さっていた。ここは陽の光が差さない洞窟の中なのに、その剣だけは、洞窟の隙間から差す陽の光が奇跡的に折り重なり、剣を照らし出していた。

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