2.リクサの事情
更新がびっくりする程遅くてすみません
前もって言っておきます
ごめんなさい と
俺はリクサの危険物をバックパックから取り出した後、しばらく考えていた。
あの何処からやってきたのかわからない出自不明の物どもを、ようやく離れた位置に置き直せた。これで力の干渉は起きず其の他の物品も安心して寝かしてやれる。
しかし、御伽噺はこんなにも身近なものだったか?リクサの持ち物の幾つが、伝説として語られているのだろう?例の物は、遮断箱に叩き込んでやりたかったが、心底憎らしく思いつつ丁寧に入れてやった。
他の物に関してもそうだが、一体どうしてこんな物を集める事が出来たんだ?リクサに聞くことがまた増えてしまった。
例の物以外にも気にかける事が多く集中し過ぎたのか、立つ気力が無くなってしまったので、その場に倒れ込んだ。一手間違うと周辺巻き込んで大爆発は本当に、洒落にならないのだ。少し息を整えていると、リクサが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!勇者さま!」
「なんとかっな。」
正直に言うとかなり苦しい。頑張って立ち上がろうとするが、頭がくらくらして上手く立てない。俺は想像以上に精神をすり減らしていたらしい。ついよろけて、重心が傾いていく。また倒れる、そう思ったが。
「おっとっと、危なかったです。大丈夫ですか、勇者さま?」
「悪い。助かった......」
リクサが支えてくれたようだ。これも未来予知だろうか?リクサが持っている武器やら物は魔王討伐の為だとしても、ちょっと危険過ぎるので村の中の片隅にある押収品倉庫に入れさせてもらった。
ちなみにしっかりと隠し扉から入るが......未来予知相手には、形無しだろう。ここなら仮に、例の物...魔力結晶以外なら暴走しても一番近くの俺の家が吹っ飛ぶぐらいだろう。
間違っても倉庫の頑強さを伝える為の例えであり、爆発の前振りではない。.........はずだ。
そんなことをしていると、ぐぅぐぅと鳴ったお腹が思い出させてくれた。そういえば昼飯食ってねぇ、と。そんな様子を見てリクサはクスリと笑った。
「おい、リクサもどうせ飯食ってねぇんだろ。話ついでに食っていかないか?」
「それはすごく嬉しいのですけど、何故そこまで良くしてくれるのでしょうか?」
「何故?、何故か.........さぁ。俺にもわかんねぇよ」
「そういうものでしょうか?」
「さぁ、そういうもんじゃないか?...まぁとにかく、ついて来いよ。」
「はい!」
こんなやり取りの結果、リクサとご飯を食べる事になったのだが.........
「はぁ」
「どうしましたか?」
「どうもこうもねぇ...」
「...大丈夫ですか?」
自業自得と言えばそうなのだ。
多分、久しぶりに手料理を振る舞う相手ができたせいで、舞い上がっていたのかもしれない。
あんな事を言わなければ、こんな事には...。
「折角飯を食べに来んだから、腹いっぱい食ってけよ」
「えっ!!いや、だめです。お腹いっぱいなんて、食べられません!」
「どうしてだ?何か事情でもあるのか?」
「有るには有るんですが...。私、かなり大飯食らいですけど、いいんですか?」
「男に二言はねぇよ」
格好付ける為とはいえ、少し間違ってしまったかもしれない。まさか日々せっせと仕事して溜めておいた貯蓄が.........こうも...アッサリと消えるとは.............
当の彼女は不安気な顔でこちらの様子を伺っている。リクサの側には空の器が、大量に並んでいる。その中を満たしていたパンや、シチュー、サラダは...もう無い。彼女は満足してくれただろうか?
「大丈夫?大丈夫かな......?多分」
「具合が悪くないならよかったです!」
「随分と食べていたが、そんなに美味しかったのか?」
「えぇ!はい!それはもう!特にシチューなんて、久しぶりで、食べたのは前回の—-!............」
「...前回のなんだ?」
「......いえ。なんでもないです。それよりそろそろ本題に入りませんか?」
そう言いうと、彼女は真剣な眼差しをこちらに向けた。たしかに今聞くべき話題はシチューの話ではなく、彼女......リクサの事情だろう。特にシチューの話が気になる訳でもない。しかし明らかに反応が不自然だったが、これもリクサの事情の一つだろうか?気になりはするが、今は流そう。案外つまらない思い出話だったりするかもしれない。
「それもそうだな、ならまず一つ目の質問だ。一体なぜリクサはこの村を訪れたんだ?」
「魔王討伐の為に勇者を.........なんて理由もあるんですけど、実際には少し違うんですよね!」
リクサは胸を張って、自慢気に語る。
「ただ......勇者さまに会いたかったからです!」
「そうか......二つ目の質問だ。その(勇者)ってのはなんだ?」
「勇者は勇者ですよ!魔王討伐に出てくる聖剣を持った勇者で、聖女と共に魔王を討つあの勇者です!」
あまりに想像通りすぎて反応に困ってしまう。しかし何故、リクサは俺の事を勇者というのだろうか。仮に彼女が聖女だというのなら、神の声を聞ける存在を教会が見過ごす訳が無い。誰でも神託書記でお告げは確認出来ても、声を聞くことはできない。教会は聖女を間違いなく囲い込むだろう。
「...............三つ目の質問だ。何故、俺がその勇者だと思ったか。その証拠や根拠を教えてくれ」
「相対的未来観測で勇者さまを見たからですね!ついでに神様からの神託ですね。勇者さまを覚醒させろって」
「......証拠がない。教会の書状とかはないのか?」
「ないですよ。だって私、教会から抜け出して来たんですから!」
頭が痛い。リクサは事情を抱え込み過ぎである。教会や危険物、未来予知に大飯食らい。それに脱走だって?彼女は予想通り、面倒事が多いらしい。リクサはそういう星の下に生まれたのだろうか?というか未来予知で回避出来ないのだろうか?
「ふと思ったんだが、相対的未来観測とやらはどれ程までの未来が確認出来るんだ?」
「死ぬまでですよ」
「............それは、悪かった。なら失礼ついでに聞いておこう。何時から未来を観てるんだ?」
ただふと思っただけだったのだ。何時から?と。彼女は何を観ていたのだろうか?それは彼女の何らかのトラウマを想起させるのに十分な言葉だったのだろう。
「......ぁ...」
首元で紅く光っているペンダントからピシリと嫌な音がきこえた。耐え切れなかったのだろう。何かが砕け散った様な音が響いた後、彼女が輝かせていた黒い瞳は光を失っていた。
「リクサ?」
「......」
「おい、大丈夫か?」
「........ょ」
「どうしたんだ?」
「...ですよ。だっていつも見ていましたから。私が生まれたその時から、勇者さまは私の中にいたんですよ。最初は知らない人がずっと脳裏にちらついて、怖くて怯えていましたが、神様が教えてくれたんです。彼は勇者で、私は聖女。勇者さまを導く為に生まれてきたんだって。あはは素敵ですよね!でもいつも見ている勇者さまは、いつも私の隣に居て、でもそれは知らない他の私で、知らない思い出を作ってる。その度にいつも思うんです。私は勇者さまの隣になんでいないのでしょう?って。未来の私達は、なんて楽しそうでとっても幸せそうな、あぁ私はいつもひとりぼっちなのに。うらやましい!!でも実際には会ったこともないのに、こんな事を考えてしまうのはおかしいですよね。なんででしょうか?不安な気持ちだどんどん溢れてきて!!狂ってる、変な奴だ気持ち悪いって。でも嫌われたくないんです!!!嫌なんです!お願いですから嫌いにならないでください!お願いですから!!!私は、他の私の誰よりも、上手くやってみせますから!失敗しません!もう寂しい思いはしたくないんです!だから、だからどうか私を孤独にしないでください!!「おい」お願いします!もう残される事なんて「落ち着け!!!!」......?」
「あ......れ...」
彼女は何故自分が涙を流しているのか理解していないようだ
「落ち着け」
「は...い...」
「ゆっくりと、落ち着いて」
「はぁ......はぁ......」
「疲れただろう。今は眠れ」
「は............い.........ゆ...うしゃ......さ.........ま」
首元で気品を主張していた紅のペンダントは見る影もなくくすみ、装飾に至っては一部が砕け散っている
ようやく気がついたのだろう。ただ情緒が不安定なだけならこうはならないだろう。
どうやらやっと正気に戻ったようだが、流石にこの状況では事情を聞くどころではない。リクサには休んでもらって回復を待つことにした。旅の疲れもあったのだろうか、あっさりとリクサは眠ってしまった。
それにしてもリクサは何について話していたのだろう?相対的未来観測には何かしらの欠陥があるようだ。
元気がいいとか、勢いが強いだとか。リクサはそんな単純な性格で言い表せると思っていたが。結構......いや想像の4~5倍は複雑な事がありそうだ。
聞けば聞くほど増えていく厄介な事情に、早くもリクサと関わったことにほんの少し後悔しながらも彼女の安らかな眠りを祈っていた。
全くだめだめじゃないか
やっぱり彼の不器用さというか察しの悪さというか、見事に踏み抜くとは、まぁいつも通りで安心したよ
いや、今回は仕方ないのかな?
でもこんな事でめげちゃだめだよ
ところで君からはなにも言わないのかい?
あぁちょっと意地悪だったかな
ごめんね、後で埋め合わせるよ
まぁとにかく頑張れ私の勇者様、道はまだまだ遠いぞ
最後まで読んでくださり誠にありがとうございます
お目汚し失礼しました