私がアリアになるまで
大好きなアリアのお話です。
神々は神同士、愛し合い生まれる。
なら天使は?
天使は神と天使、または天使同士が愛し合うことで生まれる。
だけど、それ以外にも天使が産まれることがある。
滅多に無い事だけど、生前神が認めるほどの善行を重ねた人間が死後天使になる事がある。
ただ、その場合は生前の記憶は完全に消されてしまうので『人間だった』としか覚えていない。
私はその数少ない、生前人間だった天使だ。
「君に私の仕事を手伝って欲しい」
そう事務的に告げてきたのは、天使、神々の頂点である創造神の右腕にして息子たる美しい神だった。
この素晴らしく美しい神は他の神々と違い、浮いた噂一つ聞かない神だ。どれだけ美しいと評判の女神や天使に声を掛けられようとも眉一つ動かさず、ばっさりと切って捨てるように断る事から氷の神と呼ばれていた。
だが、仕事に関してはどの神よりも微細に丁寧にこなす。部下に対しても決して無理はさせず、困った時には力になってくれるので、常に上司にしたい神の人気NO1だ。他の神々が部下に無理を強いる訳では無いが、神々は移ろいやすい性質なのでよく命じた事を忘れて放置しがちなのだ。だが氷の神は決して命じた事を忘れず、アフターフォローまでする。
その神が一体何故私に声を掛けたのか。
訝しく思いながらも断る理由も無かった私は、言われるがまま氷の神に付いていった。
連れて来られたのは人間が暮らす地上を見る事が出来る神殿だった。
神殿に置かれた大きな鏡に一人の少女が映し出される。
5歳くらいのあどけない少女。
穢れを知らない無垢で純真な笑顔が愛らしい普通の子供。
「これから見せるのは、この少女の前世です。それを見てから君に頼みたい事があります」
氷の神と呼ばれるその神は美しい碧の瞳を微かに揺らし、そう言った。
少女の魂が経た幾つも人生は記録されている限り全て幼いうちに終わっていた。そしてその最期は必ず両親のどちらかを護り『消滅』する。少女の死に対する両親の悲しみは深すぎた故に神が忘却の術を施さねばならなかった。
少女が命を賭して護ったものの為とはいえ、忘れ去られてしまうなんて。
悲劇……としか言い様がない。
少女を狙うアレは神の気配がある。
そして繰り返される過酷な邂逅。
まさかと思うが、あんな小さな輝きしか持たない人間に『宿命』が課されている?
「……君は思った通り、非常に優秀ですね。君の推察通り、彼女はあの闇に対する『宿命』を背負っています。本来の『宿命』は成長した彼女なら容易いものでした。ですが事態は複雑かつ深刻化し、『宿命』を課した創造神でさえどうにも出来ない状態になってしまいました。……ここまで気付かず放置した創造神には全面的に協力して貰いますが、それだけでは足りません。そこで君の出番です」
いえ、さも当然に言いましたが、何処がどうなって私の出番なのか全く理解出来ませんが?
「創造神に新たな世界を創って頂きました。この世界では理に縛られ助力が出来ませんから。新たな世界で転生することによって、現時点の魂の絡み付きを緩める為でもあります。ですが闇は必ず彼女を追って来るでしょう。そして幼い彼女を見つけようとする。ですが新たな世界は魔法が存在します。彼女自身、身を守る術があれば生命の輝きを糧にせずとも済みます。ですから彼女が次に転生する少女には、創造神と私が出来うる限りの加護を与えます。更には私と君が守護者として側につきます。本来の宿命にある彼女が闇と邂逅を果たす時まで護るのです。それと……」
まだあるの?
いや、仕事はします。
しますけど……
「彼女の魂の傷が癒えるまでの間、君には彼女の次の転生体に入り彼女の能力向上をお願いしたいのです。幼いうちに闇は必ず彼女と接触を図ろうとするでしょう。ですが魔法が存在し、彼女の能力がいくら高くても幼すぎれば行使する前に今までと同じ事態になってしまいます。ですから彼女が転生した時点で、身を守れる状態である事が望ましいのです」
まあ妥当ではある。
幼すぎれば潜在能力が高くても、熟練度を上げる事は出来ないから。
でも私が入って育つと後で彼女と入れ替わった時、家族が違和感を感じるのでは?
「ふふっ、やはり君を選んで正解ですね。君は無表情だけど細やかなフォローをすることで、神々の間では有名なんです。彼女を任せるに値する天使です」
……氷の神様が笑ってる。
天変地異の前触れとかじゃないですよね?
「失礼ですね。私だって笑うことぐらいあります。とにかく君にはこれから彼女になってもらう為に、私が持っている記憶を見てもらいます。君が彼女になり切れるまで……ね?」
仕事ですから、それ位はしますよ。
それに……。
後で入れ替わった時、彼女が悲しい想いをしたら寝覚めが悪いですから。
「君は……。まあ、良いでしょう。君には今まで与えられたものより多くの権限を許可します。君自身が納得のいく様にしてもらって構いません。どうしても、ということは私から言いますので。……ただ一つだけ、約束して欲しい事があります」
命令ではなく約束ですか?
「ええ、約束です。今回の任務は彼女の宿命を果たさせる事です。ですが闇は私達、神の想定外の動きをします。ですので咄嗟の判断は君に委ねます。その時、君自身を犠牲にする方法は取らないで欲しいのです。君自身を犠牲にしなければならない事態が起きた時は、私が対処します。……例え理に触れる事となってもです。君は天使です。現し世に仮の器で生き、死んだとしても魂はまた天界に戻ってきます。それでも任務とはいえ『死ぬ』ことはないのです。ですから、どんな事態になっても君自身を盾にするような事はしないで下さい」
……ああ、この神は。
私が『人間』だった天使であるが故に『死ぬ』という体験をさせたくないのだ。
生前の事など覚えていないというのに。
誰が氷の神なんて言ったのか。
こんなに優しい神を……。
いいでしょう、約束しましょう。
ですが神よ、私を甘く見ないで欲しい。
これでも天使の中では優秀な方なのです。
どんな事態になろうとも彼女を護り、私自身も生き抜いて見せましょう。
……貴方様を悲しませたりしませんよ?
「……是非ともそうして下さい。私に君の優秀さを存分に見せてくれたら嬉しいです」
こうして私は氷の神の部下となり、一葉の、リフレシアの魂の守護者となった。
彼女の記憶を見過ぎて彼女を妹か家族の様に愛し、彼女から『アリア』という名をもらい、任務ではなく自らの意思で彼女の人生に寄り添う事となるのは、もう少し後のこと……。
ぽちぽち番外編を上げるつもりです。
新連載も上げていますので良かったら読んでみて下さい。
暇潰しにでもなれば嬉しいです!