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創造神と愛し子 ②



 スマホの機種変更をしたら反応が今までと違い、書く時間が倍以上かかるようになってしまいました。


 しくしくしく……。



「リーフ、か……良い名をもらったな。強く健やかに成長を願う気持ちが込められた良い名だ」

「おじさん、話がわかるじゃない。村の皆は葉っぱの名前だから小さいんだなんて馬鹿にするけど、父さんと母さんが鮮やかな緑を失わず強く健康に育つようにって付けてくれた名なの」


名とは少なからず、そのものの本質に影響を与える。

だから人間は産まれた我が子に願いを込めて名を付けるのだ。


少女の名前にも、柔らかく温かい祈りのようなものを感じる。


そのせいか少女はほんの少しだが聖なる光を持っている。

聖女や聖人に比べることなど出来ない程の、ささやかで小さな輝きではあるが。


「して、リーフ。先程聞こえてしまったのだが、去年は作物の病気、今年は土が駄目だとか」

「ああ、そうなの。村の唯一の収入源の麦が病気でほぼ全滅。去年の麦の病気のせいか、今年は何を植えても育たなくて……」

「儂に一つ案がある。だがそれはそなたの村を今すぐ救うものではない。そしてそなたが儂の案を村の皆に教えなければならない。……突然降ってわいた話を人に信じさせるのは容易ではない。それでもやるなら……」

「やるっ!どれだけ大変でもやるっ!だから教えて」


リーフの瞳に宿る強い意思。

その瞳が射抜くように儂を見ていた。

その姿に先程の朗らかな様子は微塵もなく、固い覚悟と真摯な願いがあった。


「わかった。だが暫く時間がいる。明日同じ時間に此処に来なさい。詳しい事はその時に話そう」

「うん。必ず来るよ。何があっても来るから」

「うむ、ではまた明日」

「……おじさん」

「ん?何だ?」

「ううん、何でもない。また明日ね」


何か言いたげな様子のリーフだったが、そのままくるりと身を翻し走って行った。

15歳というには細く小さな身体だが、リーフはあっという間に見えなくなった。


さて、儂も一度戻って息子と打ち合わせねばなと独りごち、人界を後にした。



■■■■■■


「少し前に病気に強い作物の種があると言っておったが、まだあるか?」


前触れもなく補佐をしている息子のところに移動した儂はそう切り出した。


「いきなり現れて開口一番聞く事が、以前話した時は全く興味を示さなかった種についてですか?」

「いや、そのだな、あれだあれ。その時は……」

「いえ、言い訳は結構です。それより事情を説明して下さい。あの種は人界の東の端にある小さな島の青年が、研究に研究を重ね作ったもの。ですが今現在の文明では行き過ぎたものです。使い方によっては人の心の闇に触れてしまいかねません。ですので私が監視と管理をしているのです」


確かに、今の人界では品種改良などはほぼされていない。

病気に強い作物があるとわかれば取り合いに、戦争になる可能性すらあるだろう。

あの村やリーフを助けてやるのには一番良いと思うのだが。


神が人間を手助けするのには、それ相応の理由が必要で、出来る範囲も決まっている。

置かれた苦境全てを、一瞬で覆すような事はしてはならない。

人が想像する、神の御業として絶大な力をふるうことなど、ほぼ無いに等しい。

神は少しの手助けをし、人間がそれを生かさねばならない。

人間が努力を怠れば、それは無に還ることとなる。


そして何より儂は創造の神。

儂の力は創造と破壊。

既に創った人の世に関与出来る事は、他の神々よりも少ない。

だから儂はリーフの村の現状を他の神の力を借りないと助けてやれないのだ。



一通り今日見た事、リーフの事を息子に語り終えた時、息子は深く息を吐いた。


「成る程、父上が種を欲した理由はわかりました。その村の苦境は私達神の怠慢でもあります。ですから与える事に異義はありませんが、問題は種について村人全員が秘匿出来るかです」


息子の言うことは正しい。

この種は使い方を間違えてはいけないものだ。

村がこの種で苦境を乗り越えた後、村人達はどうするだろう。

人の産み出す負の感情は儂の想像を越えることがある。


「リーフにしか会っておらんから、村人がどんな人間か想像も出来ぬ。まあ、村でだけ栽培するのであれば問題ないが、そう上手くいくかどうかわからぬな」

「……私が種に手を加えましょう。作物となったものは村の外に出せますが、種は村から出ると消滅するように」

「だが、同じように苦しんでいる所があったらどうする?」

「手間は掛かりますが、種に場所を指定し、その場所でのみ存在出来るようにしましょう」

「……すまぬな。おぬしは他にもやる事があるのに。だが、助かる。頼んで良いか?」

「ええ、勿論です。父上が珍しく真面目に人界の事を憂いえているのです。それに今回の件は私達の怠慢によるもの。私の仕事が増えるのは当然の事ですから」


一言多いが、余計な仕事を増やした手前黙っていることにした。

だが、こやつも苦労性だな。

こういった事の担当はこやつではなかったはずだ。

それでも誰も責めず、後始末を自ら引き受ける。


こやつは息子の中でも群を抜いて、全てに秀でている。

容姿も女神や天使が群がる程美しい。

だが、こやつは他の神々とは違い恋愛を楽しんだりしない。

儂が知る限り一度も無いはずだ。

こやつが声を掛ければ、皆喜んで相手をつとめるだろうに。


「仕事も出来て、情も深く、女神が見惚れる美貌を持ちながら一度も恋をしないとは。勿体無いことよのう」

「……別にしないと決めているわけではありません。ただ心が動かないのです。誰も彼も皆同じに思えて」

「まあ、良い。恋などというものは、しようと思ってするものでなく、気が付けば堕ちているものだからな」

「……私にはよくわかりません」


拗ねたように呟く息子は、儂の前では時々素直になる。

他の神々の前だと慇懃無礼なので、ほとんどの神がこのような姿は知らないだろうが。


「とにかく明日持って行く分に手を加えておきます。渡す時にくれぐれも欲張って種を使おうとしないよう注意をしておいて下さい」

「あいわかった。リーフに村に連れて行ってもらい、村人達も見てから渡すとしよう。駄目だと判断した時は、渡すのは止めておく」

「可哀そうですが、その方が良いでしょう。種が争いの元になるくらいでしたら、最初から渡さない方が良いので。後、作物が育たなくなった大地ですが豊穣の女神の力を借りて慈雨を降らせましょう。明日会うのでしたら明後日に降らせますので、その後種を蒔くように伝えて下さい。手配は私がします」


大地も何とかせぬばと思っていたが、抜かりないな。

……こやつが神々の統括で良いのではないか。


「父上、何を考えていらっしゃるか知りませんが、私はあくまで父上の補佐です。父上のやり方を見て学んだにすぎません。……父上が持つ広く大きな慈悲と慈愛は私にはないのです。父上の代わりは誰にも出来ません」


真顔でそんなことを言われるとは思っていなかった儂は面食らってしまった。

いつもは冷気をのせた微笑で、苦言と小言を言われているのだから。


「……とにかく明日リーフという少女に会った時、もう少し詳しく調べてきて下さい。私も調べてみますが、最後の判断は父上に委ねます」

「うむ、わかった。明日は村も行ってみよう。直接土地と村人達も見て、判断はそれからだ。リーフは大丈夫だが、村人達も大丈夫かはわからぬからな」



■■■■■■



「おじさん!」


昨日の時間より早く湖に来たのに、リーフはすでにおり嬉しそうに儂を呼んだ。


「リーフ、早いな」

「そりゃあ、あんな事言われたらね。で、どうなの?案って何?」


期待に満ち満ちた、きらきらと輝く若葉色の瞳。

だが、聞く事を聞かねばならない。


「期待させて悪いが、まずリーフの村へ儂を連れて行ってもらいたい。話はそれからだ」


期待を折る言葉、だがリーフの瞳は揺るがなかった。


「うん。村の状況も、他の人達のことも納得いくまで見て。そして、おじさんが納得出来ないことを教えて。それをおじさんが納得出来るようにするのが、私の役目だから」

「……リーフ、そなた……。いや、わかった」


リーフは最初から何もせずに打開策を提示してもらえるとは思っていなかったのだ。


リーフは昨日言っていた。

自分達で努力出来ることはする、と。


状況を理解し、それを打破するために必要なことを導き出す。そして足りなければ、足りるまで方法を模索する。


冷静で客観的な判断と、目標に向かってどこまでも前向きな思考。


これは儂が判断を誤った。

リーフはただの小さな少女ではなく、非常に優秀な人間だったのだ。


見掛けだけで決めつけてはならないのは重々わかっていたが、神たる儂がこの才覚を見落とすなど。


……つくづく面白い少女だ。




村へと歩き出したリーフの背中を見ながら、儂は久しぶりに胸を踊らせたのだった。










 この『創造神と愛し子』は次回で完結です。


 次回の投稿は10/8(木)です。

 その時、新作も投稿しますので良ければ暇潰しにでも読んで頂ければ嬉しいです。


 番外編もぼちぼち投稿します。

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