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「…殿下、あまり妹を虐めないでいただけませんか」
目の前の威圧感に圧倒され、悩み怯むわたしに兄のノエルが助け舟を出してくれる。
するとクスリと笑いながら殿下がノエルに向き直る。
「…君が言ったんだよノエル、
まるで妹の中に別の人格が存在しているかもってね」
兄から視線を移し、ちらりとわたしを見れば面白いものを見たというように目を細められる。
その表情に一気に冷や汗が出る。この人は怖い、そう感じて拳をぎゅっと握る。
確かに別の人格が入っているのは事実なのだが、転生者だと言ったところでありえない話なのだ。頭のおかしな奴だと思われるだけだ。
「……意地悪な言い方をされますね殿下。
俺は妹が別人のようだとは言いましたが人格まで変わったようだとは思っていないし言ってもいない
確かに、まだ幼いながらもハキハキと、父と対等に話しをしているのを見て少し驚きはしましたが…」
「…ノエル、僕は君とは話していないんだよ?
立場を弁えてもらおうかな」
話す兄の言葉を遮り、静かに一喝すると兄は悔しそうに口を噤む。
そしてそれお構い無しにわたしへ向き直るとその表情は冷たく、まるで敵だとも言われているようにその視線が突き刺さる。
「…ジェシカ、君は何を考えているのかな?
僕はね、この国に害があるようならそれを排除しなければいけないし、この国に利益をもたらせるようならそれを手助けしたい思っている。
…君はどちらなのかな?」
そう真面目に聞かれ、呆然とする。
わたしの思っていたことと違ったその問いは、きっとわたし自身を探っていたことで、転生者ということを勘づかれたわけではなかった。
その事に安堵すると、言うことは一つだ。元は自分が破滅しない為だが、結果的にはこの国に利益をもたらせることができる。
意志を決め自身を落ち着かせるように深呼吸をすると、口を開く。
「…後者で間違いありません。
わたくしは公爵家の領を頂戴し、後に領主となってその土地を発展させたく思っております。
その行いでこの国にも利益を生み、潤わせたいと思っております」
そう伝えると、彼は目を見開き驚いた様子だった。しかしそれは一瞬で、嬉しそうな、ほっとしたような表情になり、わたしの頭を撫でてくれる。
先日も同じことをお父様にされたことを思い出す。
(…デジャブってやつだわ)
そう思うと殿下はわたしの頭から手を離すと口を開いた。
「…僕の早とちりだったみたいだね…
大きな勘違いをしていたみたいだ。
てっきり、何か悪い野望を持ってしまったのかと思ったけどね、安心したよ。
ノエルも、悪いことを言ってしまったね、申し訳ない。
幼いながらの君に期待しているよ、ジェシカ」
そう言うと殿下は立ち上がりドアの方へ歩いて行く。
言いたい事だけ言って帰るとはさすがは王太子殿下だ。
兄のノエルは見送りに行くらしい、すかさず立ち上がると殿下に続いた。
やっと帰ってくれる…そう安堵した時だった。
ドアに手を掛ける殿下の手が止まる。
そうだ、と何か言うらしい少し身構えるとくるりとこちらに首だけ向けると悪戯っぽく笑う。
「…そうだ、ジェシカ
君の母君のパーティーに僕は参加できないのだけど、代わりに愚弟が参加することになっているんだ。
君に不躾なことを言ったとしても気にする事はないからね」
そう言うといよいよドアを開け出ていった。
遠のいていく革靴の音だけがわたしの耳に響く。
殿下の言葉を思い出し、頭の中で繰り返す。
まるで愚弟とも言うような言い方に、そう言えば兄弟仲が悪かったんだっけ、とゲームの内容と重ねる。
とりあえず疲れた、ソファーに横になるとわたしは眠りについてしまった。




