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体調も次の日には万全になり、社交界デビュー目前に招待客リストへ目を通す。
分厚くなった書類一枚一枚に目を通していくと、驚いたことにある人物達の名前がそこにはあった。
(…攻略対象もこのパーティーへ出席するんだわ)
思わずゲームのエンドを思い出せば断罪される自分を想像する。もし自分が手に掛けられてしまったら、そう思っただけでも身震いする。
公爵家主催のパーティーは多くの貴族の情報交換の場である為、上は王家から下は男爵家まで多くの人が訪れる。
まさか幼い内に関わってしまうとは思ってもみなかったが、目標がある今ではキャラクター達とは極力…いや最低限の挨拶だけで済ませたいところだ。
だが写真付きでリストを見ても何も感じないのは前世の記憶があるからだろうか。もともとやっていた乙女ゲームでも攻略対象のキャラクター達には一切興味はなかった。
若く何も成し遂げていない癖にヒロインにのめり込み、上辺だけの甘い言葉をつらづらと並べる姿は吐き気を感じる。
そのわたしがなぜ乙女ゲームを朝から晩までやり続けたかというと、年上のサポートキャラクターが出てきたからである。
名前はエルヴィス。歳は40後半くらいだろうか…銀色の髪を後ろに掻き上げ、釣り長の瞳は髪の色と同じ銀色。
声も低く優しい。一流貴族の格好をしていて、下は逞しい骨格がイラストでも伺える。
とにかく格好いいのだ。
キャラクターの詳細は明かされていないし攻略対象でもない。ただ優しくヒロインに助言してくれる紳士な彼に、とても惹かれていた。
もともと年上好きで、若者に何の魅力を感じていなかったわたしだ。そのキャラクターが攻略対象であれば余計にのめり込んだかもしれないのに。
もしかしたらこの世界にいるかもしれない、もしかしたら会えるかもしれない。心躍らせてリストの中に彼を探す。だが探しているうちに気付き始めた。
彼はヒロインのサポートキャラクターなのだ。ヒロインに助言し選択肢のヒントをくれるキャラクターだ。悪役令嬢のわたしには関わりがないのかもしれないし、もしかしたら敵かもしれない。
期待して打ちのめされる。ヒロインの敵である以上彼もまた敵なのだ。
パーティーのリストを全部見終わり、一息つくと終わった安心感で頭の上で伸びをした。
当たり前なのかもしれないが、彼の名前はどこにも載っていなかった。