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前世でのわたしは25歳。
社会に出て、家族とも友人とも良好な関係を築いていたが、どこか孤独感を感じていた。それを埋めるようにように、乙女ゲームにのめり込んでしまったのだ。
気づけば食事や睡眠は疎かになり、まともな生活は送っていなかったかもしれない。
そしてその日も日が登るまでゲームをし、出勤しようとした時だった。
急激な目眩と吐き気がわたしを襲ったのだ。
息苦しく咳き込むと、喉の奥から焼けるように熱いものが込み上げてくる。吐く…そう思った瞬間目の前が赤く染った。
それは血だった。
驚きはしたものの、会社に電話しなければと携帯に手を伸ばす。だが思った以上に腕が伸びず、身体が動かない…もうだめなのかもしれない…そう思いながらその場に倒れ込んでしまった。
その後、この世界で目を覚ましたのだ。
前世でのわたしは死んでしまったのか、それはまだ明確ではないが、痛みを感じるくらいにはこれは夢ではないことを悟った。
なんとしてでも生きなければいけない。できれば健康的に。
だからこそ幼いを理由にわたし自身は諦めてはいけなかった。知識がなければ学べばいいのだ。
家庭教師から逃げずに真面目に勉強し、情報交換の重要な社交場へも足を運び、知識を吸収しよう。
そう決めたはいいがまず親を説得しなければいけない。
公爵家当主の興味を惹かせる。
わたし自身を試させるのだ。
「お父様、わたくしは幼く無知ですわ。日常での当たり前なお勉強や社交界への情報交換も重要で、わたくしも今まで以上に頑張ります。
そして頑張った暁には、わたくし自身を認めて、領のことを教えて頂きたいのです」
そう意志を強く言うと、隣で黙って見ていた母がふわっとわたしに微笑みかけた。
「ジェシカちゃん、あなたが頑張るのであれば母も父もそれを反対はしません。
…ただ何をするにも成果を出さなければ、あなたはその程度だと思われてしまいます。
ただわたくし達もあなたが可愛く愛おしい。心身共に支えてあげたいと思っています。
ですから、まず手始めにわたくし主催のパーティーへ出席なさい。そこであなた言う情報や知識を吸収なさい」
そこまで言うとパチリと片目を閉じウインクをされた。
今まで歳も幼かった為、わたしは社交会には出席していなかった。
だが最低限のマナーを得て、わたしの意志を買ってくれた。
淑女の鏡とも言われる母主催のパーティーなら願ったり叶ったりだ。
「そうだね。社交解禁がジョエル主催のパーティーであればわたしも安心だ。
それに、お前の株を上げるチャンスだよ。
わたし達含め他の人もね。
それに、お前自身にどれほどの意志があるのか、証明させてごらん。
…世迷言ではないとね」
優しく言う父に、ニコリと笑うと心の中ではガッツポーズをした。
(掛かった!)
いや掛かったというよりは試しに乗ってくれたという方が正しいのか。
父の言うように世迷言ではないと証明させる為に、わたし自身が破滅しない為に、心意気高く返事をした。