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「なぁに相談って?」
母が小首を傾げながら聞いてくる横で、兄も同じようにこちらを見てくる。
「わたくしに領を頂ければと思っています」
その言葉に思いもよらなかったのか、二人で顔を見合わせている。
スティーキン家はいくつかの領を持っていた。
わたしの考えは安易だが、どこかの土地の領主になり、スティーキン家に貢献すれば国外追放は免れるし、攻略対象に関わらなければ殺される心配もないのではないかということだ。
成功すれば一石二鳥であるが…
「ほぉ…領をどうしたいんだい」
今までその場にいなかった者の声がした。
低く色気を含むその声に、ゆっくりをと顔を上げる。
「…お父様…」
わたしの父。スティーキン家当主イベルダだった…
いつの間に部屋へ入ってきたのか、ゆっくりとわたしへ近づくと、興味があると言ったように腕組みしながらわたしを覗き込む。
髪の色は同じ黄金色で、肩まで長い髪を片方耳にかけている。
瞳の色は兄と同じ深緑色で、優しそうな表情は大人の色気を醸し出している。
その深緑色の瞳がまるでわたし自身を品定めするように見つめる。それは父であれ威圧感を感じてしまった。
心拍数が上がり、気唾を飲む音がゴクリと耳に響く。
思いつきだけでは認めてもらえない。わたし自身が破滅的なエンドを迎えないために、自身を奮い立たせ口を開いた。
「…領主となり、わたくし自身成長したいと思っております。
ここでの暮らしで得られない知識を学びたいのです。公爵家へ貢献し、領を発展させたく思っておりますわ」
父の瞳を見つめながらそう言うと、驚いたのか目が見開かれる。
だがそれは一瞬で、ふっと笑うとわたしの前に屈みこみ頭をぽんぽんっと叩かれる
「…とても子供のお前が言うとは信じ難い言葉だが、二つ言葉で良い返事はできないね。
領主というのは、お前の考えているように志を強く持っているだけでは収められないだよ。
その土地で住む人のことをよく考え行動し、時には住民と衝突し、時には同じ貴族とも衝突することがある。
それをお前が耐え抜き、住民や貴族の信頼を得られるかな」
「…それは」
思わず口を噤んでしまった。
子供のわたしに分かりやすく、優しくゆっくりと伝えてくれるように聞こえるが、簡単に言えばお前に無理だと言われているようだった。
それもそうだ。今さっき起きた娘が領をくれと我儘を言っているようにしか聞こえないからだ。
幼すぎる、それを理由にされているようだった。
悔しそうに唇を噛むと前世の記憶がわたしを奮い立たせた。