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目が覚めると、そこは身に覚えのない部屋だった。

(フカフカのベッドで寝たのは何時ぶりだろう)

そう思いながら横になった体を起こすと、身体中に激痛が走る。

自分の体に何が起こっているのだろう…

頭が冴えてきて周りを見渡せば、自分の部屋ではないことに気づいた。

「…ここは、どこ」


誰もいない部屋に自分だけの声が響いた。

なんという広さだろう…まるでお城のようなその部屋は、わたしの部屋の何個分なのだろうか。


痛む身体に耐えながらベッドから下りようとした瞬間、身体の異変に気づいた。


まるで小さな子供の手、足。髪に触れてみると透き通るような髪質、毛先を手のひらで掬ってみると、黄金色に光る見たことも無い、不自然な髪色…


「え……何、わたし、どうしちゃったの」


身体中の激痛を我慢し、部屋の奥にある大きな鏡へと裸足で歩く。徐々に鏡に近づいて行くと、元の自分の顔とはかけ離れた美少女が、目の前にいる。


これは誰なのだろうか、わたしはどうしてしまったのだろうか…


やはり見た目は子供、いくつくらいなのだろうか…

小学生くらいの年齢だろうという予想をつける。

頭に傷があるのだろうか、痛々しく包帯を巻いている。

そして目立つ黄金色の髪色、意志の強そうな瞳には同じく黄金色が鏡を見てパチクリとしている。



徐々に頭が覚醒してきて、この顔立ちに身に覚えがあることに気づいた。

これはわたしが夜中までやっていた乙女ゲームの世界によく似ている…

よくよく見渡せば、周りの家具や景色はキャラクターの背景で見たことがある。


そしてわたしの顔は、フォーチュントゥリーに出てくる悪役令嬢にとてもよく似ていた。




「なんで、悪役令嬢なのよ…」


よりにもよってなぜ悪役令嬢なのだろうか。これは転生したということなのだろうか…何故ゲームの世界に転生できたのだろう、というかせめてヒロインに転生させてもらいたかった…



そう思いながらその場にペタリと座り込んでしまう。


この世界はフォーチュントゥリーという乙女ゲームの世界である。

平民の主人公アイリーンが、魔法の才能を見込まれ魔法学園へ入学し聖女となって様々なイケメン達と恋をする物語である。



あぁ…絶望だ。この世界がゲームの世界で、もし仮にわたしがその悪役令嬢、スティーキン・ジェシカなのであれば、聖女アイリーンを虐げた罪で断罪され国外追放されるか、一部攻略キャラクターによる殺害…どちらかしかない…




頭を抱えながら唸っていると、いきなりドアが開かれた。


「ジェシカ!」


自分の名前なのだろう、そう呼ばれ目線を上にあげれば同じ黄金色の髪色をした少年が心配そうに駆け寄ってきた。



この少年も知っている。スティーキン・ノエル。

ジェシカの兄で、確か三つ歳が離れている。攻略対象の一人だ。

瞳の色は深緑色をしており、ジェシカと同じ黄金色の髪は目にかからない程度に短い。子供ながら一際目立つ美しい容姿の持ち主だ。


だがゲーム通りに話が進めば、我儘放題の妹に呆れ、ヒロインを虐げたわたしを国外追放にするエンドが用意されている。



「倒れてから丸一日眠ったままだったんだぞ」


今現在では何のわだかまりもないのだろうか。

わたしのことを心配そうに覗き込んでくる。



「…ご心配、お掛けして申し訳ありませんお兄様。もう大丈夫ですわ」


こうなった原因も思い出してきた。

家庭教師から逃げる為に窓枠に座り、分厚いカーテンで身を隠していた時だ。いきなり突風が吹き、わたしは2階から転落したのだ。

身体の痛みで夢ではないことを悟る。それにしても…


(よく死ななかったわね…)


なんて丈夫な身体なのだろうか…そう思いながら目の前の兄を見ている時だった。開け放たれたドアから勢いよく綺麗な女性が入ってくる。


「ジェシカ!目を覚ましたのね!」


そう言ってわたしを勢いよく抱きしめると両の手で頬を優しく包む。

母親のジョエルだ。銀色の毛色は腰まで長く、綺麗に一つに纏められていて、目元は優しくジェシカと同じ黄金色の瞳は輝いて見える。


表情や仕草は一つ一つ美しく、淑女の鏡とも言われる美女である。



「お母様、ご心配お掛けして申し訳ありません…わたくしは無事ですわ」


そう言い微笑んでみせると、母はほっとしたように頭を撫でてくれた。



さてどうしたものか。

わたしはゲームの世界に本当に転生してしまったようだ。

そもそも攻略キャラクター達に関わらなければ問題はないのだろうが、攻略対象である兄がいる。

とりあえず前世の記憶があるからと言ってシナリオ通りに進んでいくのだろう。

せめて国外追放くらいならば問題はないが、殺されてしまうのは何としてでも避けたいところだ。


だが国外追放されたところでわたし自身なんの力もない。

この先どう生きていけば良いのか…



「ジェシカ?」


「ジェシカちゃん?」


頭をフル回転させながら悩むわたしを心配そうに二人が見てくる。

そうだ。領を頂こう。そこで成果を上げ、ヒロインや攻略対象のキャラクター達と極力接しなければいいのだ。


「お母様。お兄様。少しご相談があるのですが宜しいでしょうか」







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