カルチャーショックが半端ない。
林を抜け、しばらく舗装された道路の上を馬車で通過すること10分。
ついに人間の町に俺たちは到着した!
いやー長かった長かった、もうこれ10年の酒禁止期間を超えた後より嬉しいわー。
目の前には鉄製と思われる大きな門が目の前にあり、来訪者を迎え入れるように大きく開ている。西洋の鎧のようなものを着た人間がその横に立っていた。おそらく門番なのだろう。
俺は高くそびえたつ門を荷台から顔を出して見上げた。
「烏間通り?都市じゃねーの?」
「んん?ああ、ヤシャはこの国に来るの初めてだったんだな。羅魔瑠帝国はだな、五つの商売街があって、それぞれ烏間通り、鷹間通り、カラナ通り、ヤマラ通り、龍門通りっていうんだべ。この街道がそれぞれ別々の場所に入り口があって、最終的には中央の王都・ラマルにつながるんよ。」
つまり羅魔瑠帝国というのはラマルという王都が中心の都市国家ということか。帝国というのでもっと大国なのかと思ったがそうでもないらしい。
「商売街はそれぞれ他国との街道と繋がっていて、この門はちょうど羅魔瑠帝国の境界に位置してるんだべ。しかもこの国は商人にとっちゃ夢のようなところでさ。検問所がねーんだ!」
おおう・・・。なんと自由国家。貿易にパラメータを全振りしてるわけか。まあ、俺たちは身分を証明できるようなものはさらさらないからありがたいっちゃありがたいけどね。
そんなふうに会話をしているうちに、俺らの乗る馬車はあっさりと門をくぐった。
商売街にはハンクの馬車以外にも馬車がたくさん行き来していて結構にぎわっていた。
商売街というので商店街を想像していたのだが、どちらかというと祭の屋台に近いかもしれない。店一つ一つは小さいが、数が多い。長い道のりにそって店がずらり隙間なく並んでいる。
店の多くは果物とか野菜、食べ物を売る店で、見たことのないようなものが籠いっぱいに詰められ、天秤で量り売りされている。
量り売りねえ・・・。レジとか計量器ないのか。馬車って時点で察してはいたけど、この世界は俺らのもといた世界よりも文明が遅れているらしい。
まあそりゃそうですよね。ファンタジーの世界でいきなり自動車とかスマホさんが登場したらびっくりだわ。ゆうて、俺は文明の利器不在の時代から生きていたからそこまで必要を感じないけど、それでも現代に生きていたので少し物足りなさはある。
「つーかここほとんど食べ物しか売ってねーけど他にはないのか?」
「ああ。商売街によって売られるものが違くてだな、農業大国のルスティカ王国に面している烏間通りは主に食料品を専門に取り扱ってるんだべ。」
「というと?」
「おう。カラナ通りは服や装飾品。ヤマラ通りは家具や雑貨。ちなみにオラの店はヤマラ通りにあるだよ。鷹間通りは武具や武器。龍門通りは魔道具だな。」
大型スーパー形式なのか。それよりもなんか後半の方すごい物騒なものが聞えてきた気がしたんだけど。
「え、ちょっと待って。武器って何売ってんの?」
「そりゃ剣とか弓とかに決まってるべ。」
目を白黒させるオレに対し、ため息をついてハンクは答える。
剣?弓?え、これ俺の解釈がおかしいの?絶対違うよね?
「羅魔瑠帝国の商売街は各国の街道と繋がってるから冒険者が多く立ち寄るんだべ。だから他国に比べて売ってる武器や魔道具の質はいいんだべ。」
当然のことだというように説明するハンク。俺はほけーっと聞くことしかできなかった。
え?だって冒険者って完全にファンタジー専門の職業じゃないですか。これ完全に剣と魔法とかそういう世界じゃねーか。魔物とかいい、冒険者といいこの世界は中二病の妄想の塊かっ。妖怪の俺がいえたもんじゃねーけどな。
「ま、王都の品には劣るけどな。」
「ん?」
「王都は貴族ご用達の店が多いんだ。値段こそ高いが、どれも二つとない最高の一品なんだべ。」
ほほー。それは是非とも拝んでみたい。戦国の世の鍛冶師たちとこちらの世界の鍛冶師のどちらの方が上か見極めてみたいものだ。
「さてと、ヤシャ、ホタマ。オラはこのままヤマラ通りに戻るだけどその前に。一杯、付き合わないかい?」
親指と人差し指を軽く曲げ、くいくいっと動すハンク。
「いいのか・・・!」「いいんですか・・・!」
俺の脳内で一瞬神様が降ってきた。
「ああ!あんたらはオラの命の恩人だし、ここで恩を返しておかなきゃ一生の恥だべ。今日は奮発して王都で飲もうや!」
これで俺たちは食い物がくえ・・・え?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・金?俺、もしかして一文無し?
いや!待て!俺の所持金はポケットに三十円ある。円・・・・・使えるよな・・・?
いやいやいやいやさすがに異世界統一<円>なわけねーし。マジかよー・・・せっかく食べ物が目の前であふれてるところでウィンドウショッピングって・・・・。何かのいじめですかあああ!?
「ハンク・・・。そのお誘いは大変、いや、すんごく魅力的なんだが・・・・。現在の俺たちの所持金は0だ。すまん。断るしか選択肢がない!!!」
もう泣き笑いの顔で俺はハンクの肩をつかむ。普段無表情な穂玉までなんかしょんぼりとした顔してるし。今耳とか尻尾あったら絶対下がってる。
「は?何そんなことを気にしてるんだべ?今日はオラのおごりだよ。」
「「!?」」
「律儀なやつらだなあ。」
「いやでも、王都のってお高いんじゃねーのか?」
すると、「ふっふっふ」と不敵な笑みを浮かべるハンク。
「旦那。ここだけの話だべ。オラの友人が王都で居酒屋やってるのよ。そいつに最終的におごらせるのが目標だ。」
おっと、ハンクさん。なかなか強かな精神の持ち主だったようだ。さっきまで魔物に襲われてたとは思えない。
「ほほーーーう。おぬしもなかなかのわるよのう?」
「へっへっへ。そちもよのう・・・・。」
「・・・大丈夫ですか?えらくえぐい顔をしてますよ。」
いいのだ!ただ飯ほどうまいものはなああああい!!
俺はハンクと意気投合し、肩を組む。悪い大人の同盟だ。
「よっしゃああああああ!朝まで飲み明かそうぜ!!」