妖怪じゃねーのか。
「やっべ・・・・。おっさんと穂玉まで焼いちまったか?」
正直思っていたよりも被害が広がっていた。目測で俺を中心として半径50メートルの範囲が真っ黒。さらにそこから先の草までぶすぶすとちょっと先っちょが焼けている。
おっさんと馬車の荷物は穂玉の結界によって守られていたので無事だった。
あぶねえあぶねえ、おっさんまでやっちまったら人間の町への手がかりなくなっちまうもんな。怖いものは何でもないと思っていた俺だがさすがにここまでやっちまうとなー。あたりが草原でよかったホント。反省、反省。これからはもっと手加減せねば。
あ?なんか今、背中がゾクッと・・・。まさかミノタウロスが抜け出していたのか!?
「や~しゃ~?何なんですかこの惨状は~?」
違った。それよりもおっかないのが後ろにいる。
「ち、違うんですよー?これはその・・・ほら・・あのね?ちょーっとハッスルしすぎたかなーって?ま、でもおっさん無事だったんだし!ね?ね?」
「あ゛?」
「以後一切このようなことは致しません!」
なんだろ・・・。俺日本最強だったのになー。九尾の狐なんかに言いくるめられて正座させられてる俺って・・・。
「あ、あんたら一体何者ですかい?ここら辺の服装じゃないようだけどよ・・・。」
お、さっきまでブクブクと泡吹いてたが、やっとおっさん目覚めたようだ。
俺たちに恐怖でも感じているのか、腰を抜かしたまんまである。
中年男性にはちょっときつかったかな?まあ、俺の妖力は結構な刺激だしね。穂玉の結界でも完全には防げなかったのだろう。
「よう。俺は夜叉。でこっちは穂玉。あ、さっき取られてたもんだ。返すよ。」
「あ・・ああ、ありがとうだ!これは・・・亡くなったオラの嫁さんの形見なんだべ。本当にありがとう!」
おっさんは頬ずりしながら黄色の石のネックレスをいとおしそうに見る。
よかったよかった。馬車の荷物は奪われてもいいような扱いだったけど、これを奪われたときにあんなに拒否したのは形見だったからなんだな。
「この御恩!一生忘れません!オラはしがない商人だけど、お望みとあらばなんでもします!」
「いやいや礼なんてー。」
「それでは、どこか町へ連れてってもらえませんか?」
照れる俺の首根っこをつかみながら穂玉はおっさんに頼み込む。
おお、そうだった!そもそも俺たちがこのおっさんを助けたのは人間の町に行きたかったからだよ!穂玉さんナイス。
「へ?いや、べつにいいんだけどよ・・・、そんなんでいいんですかい?金とかじゃなくて?」
「はい、今の私たちの最大の目的なので。」
「・・・わかりました。では、オラの馬車の荷台へどうぞ。」
俺と穂玉は荷台に乗り込む。
中には千里眼で確認したときとちゃんと同じ荷物があった。穂玉がちゃんと盗られたものを取り返してきてくれたようだ。
「では出発しまっせ!」
乾いた鞭を打つ音とともに、馬車がガラガラと音を立てて動き出した。
草原からでると、ちらほらと人家が見えてきた。白い石造りの家が多く、屋根は赤や青の瓦のようなものでできている。
あ?あれは教会?こっち側の世界にも宗教っぽいものはあるんだな。
そういやおっさんの名前聞いてなかったな。さすがにずっとおっさん呼びもかわいそうだしね。
「そういやおっさん、名前は?」
「オラですかい?オラはハンクって言うだよ。」
「ハンクか・・・。」
うーん。どう聞いてもなんか英語っぽいけどそうではないような名前だな。
俺とハンクは今言葉が通じ合っているけど、ここは日本じゃないようだし、日本語を話しているようには思えない。やっぱ、俺と穂玉が自動的にこっち側の言葉を話してることになるよなー。でもなんか腑に落ちない・・・。
「いやーでもびっくりしただよ。まさか牛鬼族10頭をあっさり二人で一掃するとは・・・。」
へー、あいつら牛鬼族ていうのかー。って、なんか名前美化されてね!?漢字のルビにミノタウロスなの!?雑魚の癖にかっこいい名前だなおい!!
「あいつらって強いのか?」
「はっはっはっ!ご冗談を。牛鬼族は一頭でも魔物使いの討伐隊を全滅させられるような魔物でっせ。そんなのが10頭も固まっているともうどーなっちまうことか!オラもあんときはちびりそうになっただよ。」
『魔物』・・・。マジでゲームとかの世界の話だな。妖怪かと思ったけど違うようだ。まあ俺もあんな妖怪見たことねーしな。
そもそも、妖怪は人目をしのんで隠れて生きる。あんな堂々と人間を襲ったりはしない。
「もしかしたらこの世界には妖怪は存在しないのかもしれませんね。」
「そうかもなっとお!!?」
荷馬車が急停止したと同時に、荷台の入り口にかけられていた布があげられた。
「さあ、ついただよ。コンタニア大陸一の商売国家・羅魔瑠帝国だ!」