おっさん助けた。
「やっべ・・・。全然人里も人もいねー・・・。」
「どうやらここは相当な田舎かどっかの無法地帯ですね。」
俺たちは妖力全開にして飛ぶように草原を走り抜けていた。
あ、これは比喩表現とかじゃないからね。足に妖力をこめて走ると全速力は軽ーく時速50キロメートルを超える。なのでリアルに飛ぶように走ってる。妖力は妖術だけではなく身体強化にも使えるのだ。
まあとにかく、めっちゃ走ってるのにもかかわらず、なんにも見えてこない。
いや冗談よしてくれよ。喉はカラカラ、腹はペコペコ。あー、酒飲みたいなー。昔はそれはもうジャンジャンいってたのに・・・。
「このまま走り続けてても人とすれ違う保証はねーしな。穂玉ー乗せてよー。お前狐の方がぜってーはえーだろ。」
「誰が乗せるか。むしろ乗られるのが嫌だから人間の状態で走ってるんですよ。」
高速で繰り出されるキック(たぶん散弾銃並みの威力)から頭をかばいつつ足を動かす。
別に俺重くないんだけど?てかむしろ今の状態なら軽い方に入る気がするんだが。まあ走ること自体嫌じゃないからいいんだけどね。
あ。なんか見えてきた。
くだらない会話を続けていた矢先。何かが遠くて動く気配がする。
「ついに希望が・・・!」
「はい。ですがそうもいかないようですよ。」
何言ってんだこいつ。せっかく人間に会えるかもしれないのに。
俺は妖力を目に集中させた。
千里眼
これは単純に遠くのものを見るための妖術だ。がしかし、使い方を完全にマスターすれば壁で区切られた空間の中を見れるし、動体視力をあげることもできる。非常に便利な妖術である。
そこでエロいことを考えた坊やたち。残念だが女性の着衣にこの妖術はききません。残念とういうか・・・・。違う!俺は純粋なるピュアボーイだ。そんなものは眼中にない。
気を取り直してを見えてくる景色に神経を集中させる。
見えてきたのは馬車だった。え、馬車?
冗談かと思ってよりいっそう目を凝らすが、やはりそこには馬と荷車が繋がったモノしか見えてこない。マジもんの馬車だ。いつの時代ですか。
異世界っていうからやっぱもといた世界と全然違う文化なんだろうと覚悟はしてたけど、時代背景が古すぎる。荷台の中の荷物も見た感じ西洋の骨董品のようなものが多い。どうやらこの世界の文化は昔のヨーロッパに近いのかもしれない。
と、まあ荷台をのぞき見するのはこの辺にして。馬車があるということは絶対に騎手がいるはずなんだが・・・いた。
少し離れたところに、商人のような風体のおっさんがいた。しかし、様子がおかしい。
おっさんの前には大柄な男が10人ほど立ちはだかっていた。
男っつーか・・・なんか上半身牛なんですけど。絶対人間じゃない風貌なんだけど。鉞を持ってたりと結構武装している。
あ、あれだ。ゲームで言うミノタウロスに近い。でも、頭から生えてる角は牛よりも長く、とがっている。
もしかして、あのおっさん、こいつらに絡まれてる?
「そのようですよ。どうやら金品狙いの雑魚妖怪のようですね。」
「勝手に心を読むなー!!」
「気を抜いた夜叉が悪いです。」
今更だけど穂玉は持ってる妖力の属性の数は一つしかないが、その代わりに心を読める。これ結構厄介なんだよねー。俺が何考えてるか丸わかりになってしまうというこの恐ろしさ。
昔一度だけ穂玉とやりあったことがあるが、その時は本当に苦戦した。何を仕掛けてくるか、どこを狙ってくるのかなどがすべて筒抜けなのだ。
―――正直に言って、おそらくまだ俺が日本で生きてた頃、俺を殺せる可能性があったのはこいつしかいない。
「作戦は?」
「俺と穂玉でフルボッコ作戦。で、おっさんに人間の町に連れてってもらう。以上!」
「シンプルっていうか雑ですね。」
しらーっという目で見てくる穂玉。
いやそんな目で見るなよ。作戦立案なんちゅーもんが俺に出来ると思ってたのか?もちろんできませんけどね!!!
「うっさい!難しいことを俺に聞くな!で、人数は?相手は十。何人殺りたい?」
「全員。」
「欲張ってんじゃねーよ!俺だって久々に暴れたいんだからよ。」
「・・・じゃあ半分で。」
「了解!」
そうこう作戦会議している間にもう彼らは目の前だ。
おっさんめっちゃ震えまくってる・・・。まあ、安心しな。
俺と穂玉はそのまま突っ込んでいく。
「ひいいいいいいい!お、お助け下さい。これは町で売る大事な商品なんだべ!」
ハンクはすがるように魔物の体にしがみついた。だがしかし、魔物はそんなの気にもせずにが荷物を仲間に命じてどんどん運び出していく。
自分の非力さとともに、ハンクは己の不幸を恨んだ。
ハンクはこの先の商売国家・羅魔瑠帝国に店を構えるそこそこ名の聞いた家具商人だった。ハンクの取り扱う家具は外来物で仕入れのために月に一度出国する。今回の遠出は取引先に珍しい品が手に入ったと聞き、出向いたわけだが、その帰りの道中のこと。
まさかAクラスの魔物にでくわすとは思わなかった。
「ぶへへへへ、んなもんカンけーねよ。俺たちは腹が減ったんだ。金もおいてけよ。どうしたんだ?ビビッて動けねーのか?」
逆らう勇気はない。ハンクは震える手で言われた通り、金貨を入れた革袋を差し出す。
「おい、その首の石。高そうだな~。よこしな。」
「え。こ、これは・・・」
「ああん?よこさねーってんなら奪うまでだ。」
魔物はハンクが首から下げていた石を引きちぎる。
「アニキい、さっさとずらかりましょうよ。」
「そうだな。これは持ってくぜ。」
「お、お待ちください!」
必死に足にすがりついてミノタウロスの動きを止めようとするが、そんなのにお構いなく、魔物はずんずんと歩き、無力にもハンクははじかれる。
「あ、やっぱ気が変わったー♪お前はこの俺の素晴らしい魔力で死ね。」
その言葉と同時に魔物が力をこめ、鉞を頭上振り落とす。
ハンクは自分の死を覚悟した。
「おいおい。それはねーぜ。」
あっぶねーー!!
すんでのところで俺はおっさんとミノタウロスの間に入り、鉞を素手で受ける。が、血は出ない。
いやこの程度の攻撃で傷をつけられると思っては困る。これより穂玉の足蹴りの方がなん十倍も痛い。
「ミノス様の魔力を素手で!?」
「ありえない!」
受け止められた方もたまげているようだが、まわりのミノタウロスたちはさらに驚いているようだ。口々に何か叫んでいる。
まあ知ったこっちゃないんだけど。
「小僧。このミノス様の邪魔をするとどうなるかわかってんだろうなー?」
わあ、出ました小物発言。こいつ見た目はごついだけの雑魚だわ。
「あ、あなたは一体・・・?」
「おいおっさん。そこにへたれてねーでどっか隠れてな。」
「へ?はいいいい!」
おっさんは腰を抜かしたままずるずると後ずさる。
よし、これでおっさんまで被害はかからねーな。
「ようし、決めた。この小僧と商人の始末は俺がする。くらえ!雷電砲撃!」
雷の帯びた鉞が俺の頭めがけて飛んでくる。
が、
「よいしょっと。」
首を軽く右に傾げ、難なくよける。
だって言っちゃてるんだよー?
攻撃するとき口に出したらあかんだろ。
俺が交わしたミノタウロスの攻撃はそのまま地面にめり込んだ。
そうとう恥だったのか、ミノタウロスは真っ赤になって怒り、めちゃめちゃに鉞を振るってくる。だが、どれも単純な攻撃。千里眼を使わなくても余裕で避けられるものだ。
俺はひょいひょいを鉞の間をよける。
「俺の狩りの邪魔物め・・・!野郎ども、やっちまいな!」
「「「「おう!」」」
ミノタウロスたちはすでに俺らを包囲し、逃がさないようにしている。俺と穂玉はその中央で背中合わせになる。
懐かしい感覚だ。かつてもこんな感じで陰陽師とやりあってたっけ。
「さてさて穂玉さん。アーユーレディー?」
「いつでも。」
しばし、両者に沈黙が流れる。
先に動き出したのはミノタウロスの方だった。3人のミノタウロスたちが一斉に穂玉めがけてとげ付きの網を投げ、襲い掛かる。とげで身動きをとれなくするつもりなのだろう。
「芸がありませんねえ。」
網とミノタウロスの動きが止まった。白い結晶がミノタウロスと網を一気に包み込む。その場に襲い掛かる形のまま息を引き取るミノタウロス。結晶から見えるその姿はまるで時間を止めたよう。
「珍しーじゃん。お前が妖力使うなんて。」
「夜叉ほどガタイがよくないので接近戦は不利と判断しました。それだけのことです。」
よく言うぜ。ガタイの問題じゃねーだろ。
「な・・・!無詠唱魔法だと!?」
穂玉はにこりと笑う。傾国の美貌の笑顔は相当な破壊力を持つが、ミノタウロスにとっちゃ悪魔のほほえみだろう。怖気ついたのか、一人、力任せに穂玉の顔面目掛けて鉞を投げる。
あーあ、あのバカ。穂玉に投げての攻撃は無意味なのにな。
「愚かですね。」
瞬間冷却され、運動力を失った鉞は細く、白い手につままれ粉々に砕ける。
穂玉は毅然と残る自分のえもの二匹に手を向ける。
「それではさようなら。」
残りのミノタウロスの足元に青白い妖印が浮かび上がる。
白晶疾華
「「ぎゃあああああ!」」
妖印は時限式の妖術の布陣。穂玉によって仕掛けられていた白い結晶がミノタウロスの体を突き破り、鮮血で染まる。
「おうおう、きれいに散ったもんだねー。」
この間なんと30秒!穂玉さん恐ろしい速度で片付けたな。
「さっさと終わらせたらどうですか?私はこの辺で待ちます。」
いまだ残る五匹とにらみ合ったままの俺を放っておき、穂玉はミノタウロスに奪われたおっさんの荷物の回収にかかる。
「怒りの一突き!」
「雷撃斬り!」
「ミノタウロスパンチ!」
え、なんかめっちゃダサい技名なんですけど。こいつら名づけセンスもねーのか。
いろいろ飛んでくる攻撃を俺はあっさりとかわしていく。
む、横に一人。一気に焼こうと考えてたけど仕方ないか。
「おい穂玉、ちょっと防御はいってくんね?」
「はいはい、やり過ぎないようにしてください。」
「よそ見していていいのか?」
「いいの。」
にやりと口角を上げ、俺は手に黒炎を出す。
「は?」
俺は拳に黒炎をくすぶらせ横から忍び寄ってきたミノタウロスの顔に軽ーくパンチをおみまいする。
爆裂音とともに黒炎がそのままミノタウロスの体を飲み込み、ぶすぶすと肉の焼ける匂いがあたりにたちこめる。
「これで残りは4。あーくそっ。もう少し穂玉から分けてもらえばよかった。」
「なんだと・・・?!この一帯最強を誇る俺らが!?」
「だーかーらー。お前らは俺の足元にも及ばないの。」
黒龍炎爆
手にした黒炎を奴らの足元に向かってたたきつけるように投げる。漆黒の炎の龍がミノタウロスを足元から飲み込み、焼き尽くす。焦げも残さず、ミノタウロスは塵と化し、俺の周りの草原は焼け野原となった。
「あ、やりすぎたか・・・?」