いざ、町を目指して!
九尾の狐。絶世の美女とうたわれた彼女は天皇をたぶらかした歴史上の悪女として知られる。
だが実際。実は言い寄ってきたのは天皇の方であり、穂玉はむかついてちょっと暴れ、平安最強の陰陽師と呼ばれた安倍晴明を俺と半殺しまで追い詰めた超怖い女であり、俺の昔からの友人でもある。
確か、俺と同じように変化して現代社会に生きていたはず。会うのは明治時代ぶりだ。
「ひさしぶりー!で、お前なんでここいんの?」
穂玉はやはり、俺と同じように本性のままの姿であった。だが、大きさは通常よりも小さい柴犬サイズぐらい。会話する声も喋っているというよりも頭に直接語り掛けてくるような感じだ。
俺は穂玉と目線を合わせるために腰を低くする。
「いや、私もよくわかっていないんですが、どうもトラックにひかれそうになった小さな子を助けようとしたらのバナナの皮に滑って頭を打ってから記憶がないんですよ。」
お前もかーーーーーい!!
てかバナナの皮って、大通りにそんなポンポン落ちてるもんか?
「てことは、やっぱ俺たちは死んだってことか?」
「そうですね。でも、今この状況を見ると・・・。」
太陽が天に二つ。トカゲが空を飛び、なんか火吹いてらあ。
「完全に別世界に来てますね。」
「まじで?マンガじゃあるまい。」
別世界って・・・そんな展開あり?
だが、空に浮かぶ二つの太陽は俺らをあざ笑うように見下ろしている。
どうやら俺ら二人は異世界というものに転生してしまったらしい。
「さーて、とりあえずどーすっかな。」
このままここに滞在するわけにもいかないしな。だからといってなんの情報もないまま動きまわるというのも避けたい。
ここで一番妥当な行動は―――
「人間のいるところで情報をつかむのが先決でしょうね。」
「だな。」
こちらの世界についてよく知らない今、それが一番いいように思える。
人間じゃない俺らがこっちでも生き抜くためには、まずはこの世界になじむことからだ。適応能力ってやっぱどこ行っても大事なんだな。
「とりあえず、人の姿になった方がいいですね。このままだといろいろ不便です。」
「ああ、さっき妖術が使えたから人間には化けれるだろ。なんで本性なのか知らねーけど。」
と、いうことで。とりあえずは人間生活を送っていた時とほぼ同じ格好でいいだろう。
俺は頭の中で以前の自分の姿を思い描きながら変化する。
「どお?人間に見えっか?」
「自分で見たほうが早いと思いますよ。」
そう言いながら穂玉は俺に向かって四角い物体を投げつける。どうやら妖術で造った鏡のようだ。相変わらず器用な奴だな。
ありがたく俺は受け取り、自分の身なりを鏡で確認する。
変化、とは言ったが、ゆうてあまり見た目は変わっていない。
細身だが筋肉が程よくついた体形。黒銀髪に金色をちりばめたような紅い瞳。角がなくなり、少し体が一回り小さくなった程度の違いだ。
「ふふん、やっぱり俺は妖怪だろうと人間だろうとイケメンだな。」
「自惚れてるんじゃねーぞ爺が。」
うわ辛辣。穂玉さん厳しー。つーか手前だって俺と年齢あんま変わらねーだろ!!とか言ってやりたいが、結末が恐ろしいのでぐっとこらえる。俺は空気の読める男だ。
「お前もさっさと人間に化けろよ。」
「分かってますよ。」
そういうと、ぼふんと狐らしく煙を上げて変化する穂玉。
先ほどの可愛らしい狐姿から一変。背中まで流れる白銀色の髪に、大きな碧い瞳。どうやら彼女も高校生として過ごしていたのか、セーラー服を着ている。にしても相変わらずの安定の美少女だよな。ただ、胸はちょっと満足のいくサイズではな「どこ見てんですかこのエロ鬼が。」「ぐふうっ?!」
穂玉の拳が俺の右ほほにきれいに決まった。
別にそこだけ見てたわけじゃないんだよ?ただちょっと、うすいなーって。
「ま、人間の町にこのままいくしかねーな。」
「かっこつけてても鼻血出てるんですけど。」
「てめえがやったんだろうが!」
こうして、平安時代名をはせた大妖怪たちはそろいもそろって間抜けた死に方をして異世界で新たな生を受けたのだった。