お前は。
まじでどないしよう。太陽二つ空にある時点でおかしいだろ!
いや待て落ち着け。俺はできる大人である。ここは冷静に対処すべきだ。まずは身の安否確認をせねば。
俺は自分の体に手をやった。
流血なし。怪我なし。骨折なし。視覚聴覚問題なし。よし、何の異常もない!
って、ん・・・?
額に触れた時、手を遮るように伸びる。日本の鋭い杖のようなモノ。
角・・・生えてますね?
「は?本性丸出し・・・?」
本性とは、妖怪の真の姿を現す。例えば俺の場合、人間の姿ではない酒呑童子としての本来の俺の姿である。普段は人間の姿に化けて生活していたはずだが、なぜか今、俺はその本性の姿のままここにいる。
さらに裏付けるように両の手の爪は黒く色が変わり、+五センチくらい伸びている。
なんだ?頭打った衝撃で本性でたか?いや、それはないな。変化の術は術者の意思で切り替わるものだし。
じゃあなんで?俺が知るか!
あー、もうむしゃくしゃしてくるし、ここは気分転換で散歩しよう。
一人脳内ノリツッコミをしても埒が明かない。そう決め、俺は立ち上がって周りをもう一度確かめる。
うん、恐ろしいほど何もねーなここ!
あたり一面背の低い草で覆われ、ちょっと遠くには山がある。人っこ一人いない。
いや勘弁してよ・・・。説明役的なのでゲームでいう村人Aとかおいといてくんないの?じゃなかったらボンキュッボンのザ・ヒロインとかさー。これじゃあ完全に詰みよ?
「ん?」
気配を感じ、振り向くと後ろからなにか近づいてきた。人かと思って期待したが、明らかに違う。
白っぽい毛玉のようなものがこちらに猛スピードで突進してくる、動物か?猛獣だったらどうしよう。
え、攻撃していいのかな。
とりあえず、俺は妖術を発動させる。
自分で言うのもなんだけど妖力は腐るほどあるから出し惜しみはしない。
漆黒の炎が手の中でパチパチとはじける。
妖力は、妖怪の持つ力のことだ。これに自分の思念を加えることで俺達妖怪は術として扱うことができる。これが妖術だ。
ただ、妖力の扱いはそう簡単ではない。妖力をいくら持っていてもそれを扱えるだけの戦闘センスも必要なのだ。ようは才能が物を言うってことだ。
また、妖力は妖怪によって使えるものが微妙に違ってくる。それにはさまざまな属性があり、妖怪の種類によって使えるものもいっぱい。例えば、水とか火とか風とか木とか。本当に様々。
普通、妖怪一体に対し、妖力の属性一つなんだけど、俺は三つ使える。
火と雷と風の妖力。
だから普通の鬼火よりも色がなんかどす黒いんだよね。
とか言って、全然現代社会で使えなかったけど!
あーもうやっと使えるよ!この有り余る妖力を!
手の中に形成された黒炎の塊を俺は力任せにぶん投げた。
―――爆焔
あ、やべ。なんか火花散ってるし。燃え移ってるし。
勢いあまって結構やばめのやつ撃ってしまった。
このままだとここ一帯が消し炭になる。
いやー、最近妖術全然使ってなかったからなー。調整がむずいむずい。
そうじゃなくて!ほっといたらここやばいわ!
俺は白い毛玉に向かって手を合わせ、早々にこの場から退散をしようとした。
瞬間、白い結晶が花開いた。
放射状にのびる白晶は俺の妖術を相殺し、破片がきらきらとあたりを舞う。
待てよ。あいつを俺は知っている。
それは、その妖術は、俺が生前(いや、日本で生きてた時というべき?)見た、あいつの妖力。
―――百花繚乱 華巳月
銀白の毛並みに碧い瞳。九つの尾が風で揺れる。
「夜叉でしたか。てめえ何してくれるんじゃゴラ。」
この声。この口調。間違いない。
平安時代、鳥羽上皇に言い寄られて困って嫌がらせで毒石を誕プレで渡した大妖怪。
その名は
「穂玉!お前こんなところで何してるんだ!てゆーかここどこ!?」
「そんなの私が知りたいですよ!」