一回戦開戦! まじか雑魚しかいねーな。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
スクリーンにでかでかとスキンヘッドの顔が映りこむ。
手に持った片手斧をぶんぶん振り回しながら相手を切り刻みながらあちこちを駆けまわっている。
てか意外と地味にやりあってるな。俺んところ以外結構戦場っぽくなってんだけど。血しぶきとか普通に上がってんだけど。これ戦闘不能になってる?出血死しちゃわんの?
「おーーーーーっとーーー!雄たけびを上げながら切りかかるその雄姿!まさに狂犬!前年優勝者、バルスタとマッドネス止まりませーーん!」
甲高い司会者の声が耳に響く。
おいおい、せめてマイクの調整くらいしっかりやれや。
未だに予選が終わったのは二つだけ。
画面にまだ映像自体は映っているようだが、端っこに終了の文字が出ている。
ちなみに、俺らのところでは動けない予選敗退者を係員っぽい人が出てきて救護テント作り出して治療中なのである。
治療っつーよりなんか緑っぽい青っぽい変な色の液体かけているようにしか見えないけど。
薬なのか?でも液体薬かけたところで神経やっちゃってるから当分動けないぞ?
俺と穂玉は境目である鉄壁に腰を掛け、スクリーンを間近で眺めていた。
「俺ら以外にも結構なやり手がいたもんだねえ。ほぼ同時で終わらせたぞ。」
「まだまだ楽しめそうってことでしょう?」
いたずらそうな笑みを浮かべてぺろりと唇を出す穂玉。
こいつ、完全にSが出てるよ。
はたから見れば蠱惑的な笑みだけど、中身知ってる俺にとってはサディストのほほえみにしか見えねえ。
「おおう?あと一か所かー。ええ?何あれ、ちゃっかりあのスキンヘッド決勝進出決めてんだけど?」
「相当の強運の持ち主か、はたまた周りがとてつもなく弱かったのか、どちらにせよ一度勝っている相手に負けるわけはないでしょうっわっと。」
ぐらりと視界が急に低くなる。
いや、鉄壁が引き下がりだしていた。
どうやらすべての区画で予選がおわったようだ。
今、フィールド上に立つのは十二名。つまり、こっからはトーナメント式の勝ち上がりだ。
数分後、予選敗退者の片づけが終了し、フィールドには決勝戦出場者のみが残された。どうやらこの後順番を決めるらしい。
俺らはフィールドから観客席の一つ下、つまり控席的なところに移動させられる。たぶんここから観戦もできるし、順番待ちもできるってことかな。
「えー、ではただいまより決勝戦のくじ決めを行いまーす。決勝戦はトーナメント形式の全部で三回戦!ルールはおおよそ予選と変わりませんが、一部改変されます。闘技場全てがフィールドとなります!ので、場外アウトはこの闘技場から足を踏み出した瞬間です。」
どよどよとざわめく観客。スキンヘッドもびっくりしてるってことは去年とは違うルールなのか。
「それでは!くじ決めスタートおおお!!」
巨大スクリーンに映し出される6つのカード。カードは画面上でシャッフルされ、2枚ずつに分けられていく。
「決まりました。決勝戦第1回戦はあああああ、ヤシャ&ホタマ vs. エスター&クインカ!!フィールドへどうぞ!」
「しょっぱなからかい!!」
「うだうだ言わずに行きますよ。」
穂玉は俺の首根っこを掴み、控席から飛び降りてフィールドに着地する。
すでにお相手はいたようで、俺たちの目の前に立っていた。見た感じ俺くらいの男と女。すんごく派手な衣装に身を包み、完全に世界観が違ってる。ここって某ネズミの国だっけか?
「ふーーん、獣どこぞの田舎者か?よくこのアッチェンドラ・ミニッテド・ステナ・エスター様の前に立てたな!!1回戦で俺らと当たったことを後悔しろ!!」
しばしの沈黙。
俺は穂玉の耳元でできるだけ小さな声でしゃべる。
「え?何あいつ?どれが名前でどれが厨二病名?」
「違いますよ、全部です。あの男の周り全て厨二成分です。」
「おいこら聞こえてるぞ。つーかこれ本名だからな?俺は貴族だぞ!!貴様らのような低俗な輩と違って名前まで気高いのだ!!」
貴族もくそもないような格好で唾を吐きつらしながらえーっと名前なんだっけつーかそもそもあいつ名前言ってたっけ?そんなこといいや思い出さなきゃ、あ、でもめんどいわ・・・厨二でいいか、がわめく。
「ちょっとー!勝手に相手挑発しないのーーー!!どうせあたしらが勝つんだからいいでしょー?」
って今度はブリッ娘かよーーー。
つーかどこの世界でもピンク髪のツインテってやっぱブリッ娘キャラなのかな?
「あ、てかこいつ結構顔よくなーい?まあでもあたしはエスターしかいなからああ、ごめんねエ?」
勝手に惚れたと思われ勝手にふられたぞ俺。
そこまで顔悪くねーと思うんだけどなー、てかあの厨二男よりは数段ましだ。
おいこら穂玉横で腹抱えてんじゃねーよ。
俺は穂玉の頭を一発はたき、所定の位置につく。
「えー、それではーただいまより、決勝戦第1回戦を始めます!両者武器を構えてください!!」
間合いは約50m。
大した差ではない。
俺は手をゴキゴキとならし、呼吸を整える。
「レディー・ファイツ!!」
一気に詰めてしまえばよいのだから。
一歩。
「よいしょーっと」
地面を蹴って一瞬で厨二の胸元に飛び込み、顔面めがけて一発なぐる。なーんも小細工のないただの一発。
だが、たったそれだけで厨二は人のいない観客席まで一気に吹っ飛んでいく。俺は厨二が吹っ飛ぶのを追いかけるように宙をかけ、腹に拳を打ち込む。
さっきアホ面言いやがったお返しだコノヤロー!
こちとら平安時代はモッテモテの美形鬼だったんだかんなー!!
悲鳴ともいえぬおかしな声を上げ、厨二は闘技場の壁をぶち抜き、ぐったりと倒れる。
俺は後方に飛んで衝撃を交わし、きれいに観客席に着地をした。
ブリッ娘が自分のパートナーの惨状に気づくのは、後ろで轟音が響いた後だった。
目を見開き、ポカーンと口を開けてたたずんでいる。現状を理解できていないらしい。
「え・・・?な、何があったの?」
穂玉の目が光り、すっと左手を上げる。
白銀に輝く尾が揺れ、淡く輝きを放つ。冷気が立ち込め、尖った結晶がブリッ娘の周囲に出現した。
わけもわからず困惑するぶりっ娘お構いなしに、穂玉はその手を下げる。
白晶がいっせいにブリッ娘向かって飛んでいった。
わーお、手加減なしだね。ま、俺が言えたもんじゃねーか。
俺はひょいっと観客席の柵からおり、のんびりとフィールドの真ん中に歩を進める。
もう決着はついてんだろ。
「え、うそ・・・魔法陣なしの設置型まほ」
言葉が途切れ、ブリッ娘の頬から鮮血が滴る。すぐ足元には、無数の氷の槍が突き刺さっていた。
杖がコツンと地に落ち、それを追うようにブリッ娘もへなへなと座り込む。
「大袈裟な。少しかすめただけですよ。」
にこにこ笑いながらこちらを向く穂玉。無事に一回戦終わりましたよ、という笑顔だ。
だがしかし、俺は笑えない状況だった。
「おいこらなーについでに俺の頭も刺してんのかなあ?」
見事に眉間にぐっさりとささり、ぽったぽったと血を垂らしたスプラッタ状態の俺。
どーこが無事に進出だ!!俺の頭無事じゃねーだろ!!!
「すいません、どーも久しぶりなもので手元が狂いました。」
「狂ってねーだろ!!クリーンヒットしてっだろーが!!?」
頭にぐっさりと刺さった氷を抜いてその場に捨てる。全く、俺が人間だったら頭から血の雨降らせてたぞ。
これぜってーわざとだわ。
ん?てかなんか決着ついたのにコール遅くね?
「おーーーい審判ー?コールまだすかー?」
さっきまであんなに騒がしかった観客どもが一気におし黙る。
そんなにコールが聞きてえのか?
「あ、え、うそ?そ・・・そこまでえ!!勝者、ヤシャ&ホタマ!」