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君と星の帰り道

作者: 耀

 窓の外からルイミ山にかかっている雲が見える。地上から見るとこの星を二分しているのかと思うくらい高く見える雲の壁も、道に転がっている石ころをまたぐような感覚で乗り越えていく。

 この雲の壁を超えるといよいよ飛行機はレヴィン側へと入っていく。

 帰るのは去年の春以来だから約一年ぶりくらいになる。

 今回の帰省の主な目的はコトナに頼んでおいたバイクの改造である。ルイミに行くまでは一週間ほどしか残されていないがコトナの技術からすれば間に合うだろう。コトナに会うのは楽しみな反面、両親とも顔を合わせるかもしれないと思うと気が重い。今回の帰省は伝えていないがどこからかかぎつけてくるかも知れないので油断はできない。念のためネックレスは外してきたが他に何に目をつけられるか分からないので不安は残る。

 そんなことを考えているうちに、飛行機はレヴィンの王都に到着した。飛行機から運び出されたバイクが置いてある場所に向かい、バイクを受け取る、キーを差し込みエンジンをかける。心地よいリズムが体に伝わる。

 空の上は晴れだったが、地上は雨が降っていた。バイクを走らせるとシールドについた雨粒が線となり横へ流れていく。

 シールドのおかげかあまり風は感じない。空港を出てしばらく走ると王宮前の道路に出る。その道を少し行くとコトナが住んでいるマンションが見えてきた。マンションの駐輪場にバイクを止める。マンションのエントランスのドアの前に女性が立っていることに気が付いた。先ほど飛行機の中で思ったことが現実になった。

 私は気に留めずに鍵を取り出して、エントランスのドアを開ける。

 「ミイナ、久しぶり」

 不快な声がした。

 私は返事をせずにそのまま中に入ろうとする。女性が私の腕を掴んできて引き留めた。

 「あなたが帰ってくるのをずっと待っていたのよ」

 「私が帰ってくるのをどこからかぎつけたのか知らないけど、私は金を持っていないし、もしあったとしてもあなた達には渡さないから。それにコトナの家に何度も押しかけないで」

 エントランスのドアが閉まる。その女はなおも食い下がってくる。

 「もう家族の中で頼れるのはあなたしかいないの、何か持っていないかしら」

 「何もないよ、じゃあ」

 私はそう言って腕をふりほどきたい衝動に駆られるがそんなことをしても、この女の狙いがコトナに変わるだけだろう。それに、ここに残されたこの女は私が戻ってくるまで、いや下手したらコトナが帰ってくるまで、私たち姉妹のことを大声でののしり続けるだろう。

 そうなったらコトナに申し訳ないのでぐっとこらえる。

 「何度も言うけど金なんてないし、あってもあなたたちにあげる金じゃないから」

 私は小さい子に言い含めるような口調でゆっくりと言う。

 「親に向かってあなたたちとは何ですか」 

 「すぐそうやって論点をずらさないでよ、とにかくそういうことだからもう帰って」

 私が言い終えるとしばらく黙っていたがやがて思い出したように、

 「コトナが盗んでいったあのネックレスはどうしたのよ、あの子のことだからどうせあんたに渡したんでしょ、それ返しなさいよ」

 やはり外してきてよかった。

 「どうせ渡したって売るんでしょ、あれは売り物じゃないの、それに今は持っていないわ」

 「何で持ってないのよ! さてはあんたそんなこと言いながら売ったわね」

 自分の親ながらどうして何でもかんでも金にしか結びつけることができないのかと思うと悲しく思えてきた。

 「売ってないよ、とにかくあれは私たちで保管するって決めたから、もうお願いだから帰って」

 「いいえ、親としてコトナにもあって帰ります」

 「コトナには会わないって前に私と約束したよね? 」

 「そうだったかしら? 」

 「そうよ、ここにその時の音声もあるわ」

 覚えているくせにこうやってとぼける、だんだん怒りがわいてきた。自然語気が強くなる。私はポケットからICレコーダーを取り出し見せる。

 女の顔がこわばる。

 「盗聴よ、盗聴」

 「何が盗聴よ、ちゃんとと録音するって言ったところから入っているわよ」

 私はレコーダーのスイッチを押す。その時の会話の様子が流れる。

 それで女は観念したのか、こちらを何度も振り返りながら王宮への道を歩いていく。

 私は姿が見えなくなったのを確認するとエントランスのドアを開け、中へと入る。コトナの家に入るとどっと疲れがわいてきた。

 時間を確認するとコトナの学校が終わるまで1時間ほどしか残されていなかった。その間に私はキッチンに入り簡単に作れるものを作っていく。

 そうしているうちに玄関のドアが開く音がした。

 「おかえり」


今日ここに来ていただきありがとうございます。

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