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俺、幽霊になっちゃったよー(棒)


 気がついたとき、俺は森の中にいた。なんとも見覚えのある森で、少し記憶を辿っていけば、そこが街の周辺にある危険区域の森林であることは容易に想像できた。


 危険区域といっても、低級のモンスターやら魔物が出てくる程度なので、あくまで一般人が立ち寄らないだけだ。俺や勇者たちのような冒険者ならば、近道として利用することだってある。


 地形は把握しているので、とりあえず街に向かおう。幸い今は昼だし、本来薄暗い森の中も今は楽に移動できる。

 と、そこである事に気がつき、俺は立ち止まった。



 ……えっと、俺、遺跡にいなかったっけ?


「グルル……!」


「わっ」


 考え事をしようとした瞬間、茂みの中からオオカミのような魔物が現れた。鼻息が荒く、獲物を見つけた時の状態であることが見て取れる。

 しょうがない、取り敢えず応戦するか。


「……あれっ?」


 腰のホルダーにあるナイフを取ろうとしたのだが、手が滑って取れなかった。いつも同じ場所にセットしてある筈だから、ミスるはずない──

 


「──なんだこれ!?」


 首を下に向けてみると、そこにあったのは()()()()俺の足。ついでに腰のベルトもホルダーも無いし、今気がついたがショルダーバッグも背負ってない。

 身に纏っているのはいつもの安っぽい冒険者用の服のみで、他の装備が一切ないのだ。


「ガウッ!」


「うわっ、こっちくんなぁ!」


 俺が動揺している間に魔物が飛びかかってきた。その場で両腕を交差させたが、魔物相手に意味があるとは思えない。

 そして魔物の鋭利な爪は俺の体を引き裂き── 




「……?」


 俺の体には何も起きなかった。恐る恐る目を開けてみると、俺の目の前にいた魔物がいない。

 魔物を探す様に辺りを見渡すと、ちょうど俺の後ろ辺りで激しい物音が聞こえた。


 そこに居たのは銃を握っている男と、紅いペンキの入ったバケツをひっくり返したかのように地面を真紅に染め上げている、物言わぬ魔物だった。


 どうやら魔物のターゲットは俺では無く、後ろの男性だったらしい。そして男性は自分の持っている銃で魔物を倒した……と。


 危ない所を助けられたわけだし、取り敢えずお礼言っとかないと。


「あの、助かったよ、ありがとう」


「……ふぅ」


 ん? 何で溜め息? もしかして聞こえなかったのか?


「助けてくれてありがとう!」


 今度こそ聞こえるように大声で言ったのだが、男性は相変わらず無視だ。

 え、なんで? 無視しないでよ……。もしかして怒ってるのか?


 いやまぁ、たしかに怒るかも。俺が装備を持ってないせいで、わざわざ自分で戦わなくちゃいけなくなったんだもんな。

 でもお礼言ったんだし、目を合わせるぐらいはしてくれてもよくないか。



 そんなことを考えていると、男性は森の出口へ向かって歩き出してしまった。おいおい、ちょ、待てよ(キムタク)


 彼を引き止めようと、肩に手を置いた。



 ──その瞬間、俺の手が彼の体をすり抜けた。

 

「っ!?」


 思わず手を引っ込める俺。相変わらず、男性は俺に見向きもしない。え、なんだ、どういうことだ?

 すり抜けた手をまじまじと見つめていると、いつの間にか男性はいなくなっていた。どうやらさっさと行ってしまったらしい。




 ……見る限り半透明の身体。他人を触ろうとした瞬間にすり抜ける手、人間にも魔物にも視認されない姿。




 もしかして俺、幽霊になっちゃった!?



 

 待て待て待て、マジか、本気か。もしかしてあの遺跡で死んだから、幽霊としてこの森にリスポーンしたってことか?


 ……一応死霊使いの適正はあったから、ネクロマンサーやら死後の魂だとか、そういうのを齧ったことはある。もちろん魂がこの世に残留して、幽体として地上を彷徨う存在がいるってのも本で見た。


 だからって、まさか自分がそうなるとは思わないじゃん。

 さよならファンタジーとか言っちゃったぞ俺。うっわ、かなり恥ずかしい……! あそこで死んだもんかと思ってたのに……。


 あー、いや、実際死んでるのか。幽霊なわけだし。



「うーん、なっちまったもんは……しょうがないか」


 そんな事を呟きながら、再び歩き始めた。……ていうか、浮遊し始めた。

 自分では歩いている感覚なのだが、どうやらこの身体は微妙に浮いているらしく、傍から見ればフヨフヨ飛んでいる小さい女の子に見えるので、実に幽霊っぽい。

  

 生まれて初めて死霊使いの適性に感謝したな。魂魄やら死の概念を調べておいて正解だったし、おかげで思いのほか早く状況を把握することが出来た。

 


「……どこいけばいいんだろ」


 とは言ったものの、これからどうすればいいか分からない。

 寺やら教会やらに赴いて成仏させてもらった方がいいのかな。なんだかそれじゃ幽霊になった意味が無い気がするけども。


 とりあえず、俺が本当に死んだか確認したいな。もし死んだ直後なら、肉体に戻って生き返ることができるかも。


 


 フワフワと森を突き進んでいき、俺は街に入る前にある、巨大な墓地へ足を踏み入れた。昼という事もあってか、弔いに来ている人間もちらほら見受けられる。


 多分だけど、死んでから数日経過しているとすれば、俺の墓がある筈だ。あの遺跡に一番近い共同墓地はここだし、なにより看取ったのがあの勇者だから。


 スラム出身で身内も居ない俺だが、勇者となればたとえ他人だろうと目の前で死んだ人間の墓くらいは作るはずだ。


 できればあの遺跡で簡素な墓を作ったとか、そんなオチはやめて欲しいな……なんて思いながら墓地をウロウロしていると、見覚えのある顔を見かけた。あれは勇者パーティーのシスターちゃん……えっと、エリン? だっけ。


 彼女の後ろをついて行くと、周りの墓よりもほんの少し大きい墓石が鎮座する場所に着いた。彫られている文字を見れば、そこには『ラル・ソルドット』の文字が。


 生前もあまり人に語られることのなかった名前だ。ラルって名前を呼んでたの、勇者とエリンちゃんくらいじゃないかな?


 

「……」


 無言で俺の墓に花を添えるエリンちゃん。そしてその場で両膝をつき、両手を組んで顔を俯かせた。


 いわゆるお祈りのポーズだろうか。さんざんトラップで旅を邪魔してきたのに……うぅ、嬉しい。エリンちゃん、やっぱりシスターなんやなって。


「……っ、ぅ」


「え?」 


 思わず間抜けな声を出してしまった。手も肩も震えていて、どうにもエリンちゃんの様子がおかしい。

 


「うぅっ……ふっ……! っぇ゛……!」


 嗚咽をし始めた。程なくして、その瞼からは温かい水滴が零れはじめる。

 そして彼女はいつの間にか祈る事も忘れ、そのまま内股で座り込み、両手で顔を覆ってしまった。


 ただひたすらに押し殺すような嗚咽を続けながら、次第に懺悔の言葉を吐き出し始める。


「ごめんッ、なさ……ッ……ぅえっ、ひぐッ……! あだしのっ、せぃで……うぁ゛ぁ……ッッ!!」





 えぇ……(困惑)





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