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転校生は播州リアン! (別題:播州弁少女)  作者: 長槍
第1章 可憐な美少女と迫りくる中間考査
5/7

播州弁少女

「はーいみんな席に着いたか~?HR始めるぞ~」

担任は何もなかったかのようにHRを始めようとした。


だが、クラスの雰囲気はそれを許さない。まわりではみんなひそひそと何かを話しているようだった。おそらく鍵谷のことだろう。


(鍵谷さんちょっとこわくない?)

(わかる、ヤバそう。あっ!転校の理由ってもしかして?)

(聞こえるよ!)


隣の僕の席にも聞こえるほど、教室はざわついていた。僕も同じ感想を持っているが、朝駅で話したせいかさっきの事件よりもその時に発した暴言はどういう意味かのほうが気になっていた。我ながらおかしいと思う。


「ハイハイみんな静かに~ HR始めるぞ~ 聞いてなくても知らないからなー それではまず・・・」


担任は強引にHRを始めた。クラスの皆はむしろ騒がしくなっていた。鍵谷は表情一つ変えず担任の話を聞いている。

そうしている間にも、クラスの不安は募る。

担任は気づけばHRを終えかけていた

「これでHRを終わります、ほかに連絡のある人はいますか。」

そのとき、またしても鍵谷は行動を起こした。手を挙げたのだ。

「すこしいいですか」と、鍵谷は言った。

担任は一瞬停止し、そのあと「どうぞ。」と答えた。


鍵谷は席をたち、教卓の前に行き、クラスみんなの前に立った。


そして一つ息を吸い、

「私は親の仕事の都合でこの高校に転校して、初めて播州弁というか関西弁圏を離れました。それでも兵庫の生まれの播州弁という方言がどうしても抜けないんで、皆さんにすこし不安を与えてしまうかもしれません。ですが、それでもこの一期一会の出会いを大切にしたいんで、よろしくお願いします。あと、告白とか付き合うとかは今は本当に考えられないんでごめんなさい。」

鍵谷は、ゆっくり、途中つまりながら、いや少しつらい顔をして、最後には泣きそうになりながらも、関西弁のイントネーションを隠し切れない声ででこれを伝えた。

そしてぺこりと礼をして、そのまま席に戻った。


クラスのみんなは、鍵谷の姿を見て、それでもひそひそ話す人も居たが、それでもさっきの雰囲気はいくらか和らいでいた。


担任は何かを察したのか、

「みなさん、改めて鍵谷さんをよろしくね。」と念を押すように言った。それから「ほかに連絡のある人は、・・・・いませんね、これでHRを終わります。一限の準備!」と、いつもの調子に戻った。


クラスの緊張感はそれでも拭えなかったが、すぐにクラスの女子数人が、鍵谷のところに来て、どこから来たの、とか誕生日いつ?とか名前なんて書くの?なんて他愛のない話を始めた。


僕は、隣で課題の予習をやりながら、その話を断片的に聞き流していた。内容はほとんど覚えていないが、その時は鍵谷が一人にならなくてよかったなあ、という安心感があった。


その日は、まだ朝のことを引きづらざるを得ない雰囲気はあったが、それでも良い方向へ向かってると見えた。


7限目が終わり帰りのHRが始まる頃になった。鍵谷は朝と比べたら信じられないほどクラスの女子となじんでいた。男子はそれほどでもなかったが・・・

しばらくすると担任がまた教室に帰ってきた。そしてHRの業務を一通り済ませた後、鍵谷に、

「あっ、そうだ、鍵谷さん、転校手続きの書類はきちんと通りました、あと部活を決めてもらうから、入部届渡しとくね。それ、入部する先の顧問に渡しといてね、期限は来週の金曜日までで、強制加入なのでよろしく。」と、伝え、

鍵谷は入部届を受け取りに行った。ああ、部活決めるのかと、ぼんやり思った。でも僕はその時は別に同じ部活に来てほしいという気持ちはまだなかった。

女子と仲良くなってるみたいだし、過ごしやすい部活ならいいだろうな、と思っていた。案の定、鍵谷は女子に誘われているみたいだった。


それを見るか見ないかして、僕は清掃場所に行った。一定の業務を終えたそのあと、鍵谷のこともほぼ忘れて、所属する科学部の部室である物理室に向かった。


科学部の活動は大きく4つに分かれている。

熱機関の制作をする物理部、植物の遺伝子研究をする生物部、大学の数学問題に果敢に挑む数学部、生物部の手伝いと化した化学部、の4つだ。


僕は今生物部に所属し、ここ最近は研究発表のための論文とポスター制作を行っている。



部室についた僕は、作業のために、後ろのロッカーからPCを運び出した。

そして、カバンからUSBメモリを取り出し、昨日校正を任された英訳論文の作業に移る。


作業し、PC画面を眺めていると、再び鍵谷のことが思い出された。あいつ部活決まったかな、とかそんなことが思い浮かんできた。ガラでもないな、とふと思った。


英訳の校正作業は、単純作業ゆえ退屈になる。こんな作業がかれこれ2週間続いている。気休めのためしばらく作業を中断し、コーヒーを飲みに行った。


実験用のポットを悪用し、コーヒーを飲む。なるほどおいしい、と感じる。時間を見ると、6時を過ぎていた。時間を忘れるとはまさしくこのことか、と感じた。


そろそろ部活も終盤か、と思いまたPCの前に戻ろうとした、その時だった。


「科学部の見学がしたいんですが……部室はここで()うてますか?」


鍵谷、だった。


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