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転校生は播州リアン! (別題:播州弁少女)  作者: 長槍
第1章 可憐な美少女と迫りくる中間考査
2/7

恋人としてか、友達としてか

 ごじゃとは、播州弁でとても、の意味合いで使われる言葉らしい。


 というのを僕が知ったのは、美少女転校生、改め鍵谷茜が転校してきた日の帰り道のことだった。

この夏変えたスマホで歩きスマホをしながら「ごじゃ」と調べたときに、一番上に''播州弁-ネット百科事典''と表示された。

押してみると、兵庫県南西部で使われる方言だと分かった。

よくよく思い出すと、鍵谷も兵庫出身だと言っていた。なるほど。と一人で納得した。


さて、そもそもその日の自己紹介の後はどうなったかと言えば、


自己紹介直後


鍵谷「さっきも言うたけど転校してった鍵谷茜ってゆーねん。そっち、名前どないいうん?」

北沢(名前を聞かれているのか?)「えっと、北沢翔です。」

鍵谷「苗字は多分分かるんやけど、名前の漢字どない書くんか教えて?」

北沢「うーん、(自分のノートの隅に書いて見せる)この漢字。」

鍵谷「ふーん、ありがと。ほんでさ、この学校さ、課題ようけすぎひん?」

北沢「うーん、確かに。まあでもみんな答え写してるから・・・・」

鍵谷「それ勉強ンならんやん!」

北沢「そりゃそうだけど・・・・」

鍵谷「ま、頑張るか」

北沢(関西弁・・・・なのか?慣れねえな、何とかわかるレベルだ・・・・でもなんか可愛いな)


という感じで一応なんとか意思疎通が可能なことが分かった。


そのあとも事務的に学校の過ごし方を教えた気がするが、もう覚えていない。


 結局僕の彼女の印象は、自己紹介の前と後で大きく変化してしまっていて、実際のところ収拾がつかなかった。

そして、ある種の悩みのようなものが自分の中で始まっていた。

(美少女なんだけど播州弁とやらがなかなかキツい。隣の席だしよく喋るかもしれないし、どう対処したものか・・・・

でもすっごい可愛いし、うーん)


ぶっちゃけて言えば、童貞臭くいえば、可愛さを取って恋人にしたいか、播州弁のキツい友達として見るかという悩みであった。


 僕は自分を割と物事を冷静に考えることのできる人だという自負があったが、今回の件でそれは崩れてしまった。

そうして若干自分にショックを受けながら、最寄り駅まで歩いていたらいつの間にかホームまで着いていた。

普段そんなに考え事をしない僕だから、途中の道中の記憶が考え事でごっそり失われている体験を新鮮に感じた。


 ホームについた後落ち着いて考えてみれば、恋人にしたいという選択肢は少し考えられなくなっていた。

(転校生に1日あっただけで惚れるとか甚だしいことだ。鍵谷は転校してきたばっかりだし、なんか不安にさせるのも申し訳ないしな)

(ま、話してればわりと楽しそうな奴だし、勉強できそうだし、いろいろ聞くにも長続きするほうがいいしな)

と、心を整理すると、自分の腕時計をふと確認し

(電車の到着まであと3分といったところか)

とぼんやり思った。そうして割ときれいな夕焼けを見ると、その考え事は少し忘却された。

そうやってしばらく黄昏ていたその時だった。


「よっ!隣の席とかマジうらやましいな!」

 広川だった。

「いや、なに言ってんのかわかんないし、結構めんどくさいぞ」

「いやいや、あんな美少女と隣とかもうお前はじまってるから!なんていうんっだっけあの方言、関西弁みたいなやつ。」

「なんか調べたけど、播州弁って言うらしいぞ」

「へー、なんかそれもなんかいいよね、ギャップ萌えってやつ?」

「広川相変わらずキモいな」

「ひでーな、ってかお前もわざわざ調べたってことは茜ちゃんに興味あんの?」

「いやないよ、これからも意思疎通不可能だと困るからな」

「つめてーな北沢は。俺さ、実はさ、鍵屋さん好きなんだよね。」

「は?」

 突然何を言い出すのかと思う。

「いや何となく察したけどさ、早すぎでしょ、まだ1日目でしょ」

「いやいやマジでこれは一目惚れなんだって。マジお近づきになりてえなあ。」

「そうなのか」

「ほんと顔かわいいしさあ・・・・」


 広川の言葉を聞き流しながら、僕は何となく虚しくなり始めていた。

というのも、このホームに着いたとき、ぼんやりした鍵屋と付き合いたいという気持ちを一旦おいて、鍵谷とは友達として付き合っていこうと思ったその後に、ほかの友達から俺は鍵谷と付き合いたいと言われれば、なにか裏切られた気持ちになったからだ。

でもその気持ちも抑え、ある種の冷静さを取り戻し、僕はいつの間にか鍵谷とは友達として付き合っていこうというと思い始めた。


「なんか呆れたけどまあがんばれよ。というか俺は広川だし応援しておくわ」


(まあ最悪広川じゃなくても他の奴が付き合うだろうな。僕の出る幕でもないだろう)

と、心の中で思った。


 広川は続けて

「マジ感謝!北沢隣の席だしさ、告白とかいろいろ手伝ってよ」

と、僕を捲し立てた。

「俺の迷惑にならない範囲ならな」

と僕は答えた。


さっきまで付き合いたいと思っていた女の子にほかの友達が告白する手伝いをすることが、それでも少し心苦しく感じられた。



その時だった。



鍵谷「広川くんやっけ、ウチと付き合いたい今言うたん。」


 ハッと振り返る。そして僕は目を失った。

衝撃だった。広川の恋愛相談を受け終えたその時、なんと後ろにその相手が現れたのだから。

いや、それより衝撃的だったのはその顔が、まさしく不機嫌な、ある種の嫌悪を孕んでいたからだ。


 横を見れば、さっきまでの気持ち悪い程の笑顔を思い出せないほど青ざめた広川がいた。

無理もない。むしろさっきの気持ち悪い会話の一部始終を聞かれていたという恥ずかしさ、

いやそれ以上に鍵谷の顔からあふれる嫌悪の気持ちが、広川をそうさせていた。


 そして。

「あっ、えっと、その、いやそうなんだけど、」

と、どもりながらしゃべる広川を一喝するように鍵谷は


「やっぱ広川くんけ。言うとっけどウチはお断りやさかい。ほんならな。」

と、学校にいた時よりもはるかに無機質で、かつ内に秘めた嫌悪を隠し切れない声で、それだけ言って、

鍵谷はちょうど到着した電車の自分たちとは離れたドアへ去り、電車の中に消えていった。


僕たちは茫然と、抜け殻のようにちょうど止まった電車の、やや混んだ車内に入った。


その車窓からふと見た夕焼けは、残酷にもホームで見た時より美しさを増していた。



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