ゴイルガール共通① 姫は王子を待たない
お姫様は可憐な花が好き、いつも優しく微笑んで、じっと王子様を待つの。
なんて思っていたら、婚約者の王子が隣の皇女様にとられた。
「近頃、隣の皇帝が暴れているらしい」
朝から殺伐とした話をされ、スープがいつもは五杯のところを三杯しか通らなかった。
「私は奴等に戦をしかける」
帝国ということは、王子がいるわね。
「……私もいきます!」
私は父である国王と共に、皇帝を討ちにいくのだった。
◆◆◆◆◆
「皇帝になったはいいが、なにをすればよいのかわからんな」
「皇帝、悪ものらしく隣の王国を滅ぼしてしてやりましょう」
「なるほど、名案ださすが魔法使いゼネラルだ」
魔法使いは馬鹿な皇帝をコントロールし、ゆくゆくは支配者になる野望を持っていた。
「ハロー帝国ぶっこわしにきました!!」
噂をするやいなやTHEお隣の王様が突然城におとずれ、こん棒を振り回した。
「どうも、アロンティーヌ王女です」
王女は名乗るやいなや超デカイバズーカ、ランチャーを皇帝に向け躊躇なく撃った。
「まさか…帝国が占拠されるなんて…!」
城を占拠しているのは隣国の王とその娘である王女。
滅ぼしてやるつもりが逆に滅ぼされた。
魔法使いゼネラルは目を疑う。
「あははは…!」
「来たれ炎の竜ヴォルケイノ!精霊サラマンダー!」
「ちょっとなに城燃やしてんですかアンタ等あああ!!」
「きゃーっ!!」
「奪われた恋人と奪った女、二人揃って燃やしてしまえ!!」
どうやら王女は王子を皇女にとられたらしく、容赦なく城ごと燃やした。
「ちょっと待ってください!城は貴女の恋人じゃないでしょう!!その王子と皇女は燃やして結構ですが」
「え、そういう問題!?」
あれからお飾り皇帝たちを追い出し、帝国を奪ったら魔法使いのゼネラルが寝返った。
「お慕いはしていませんが、傍にいてもいいですか?」
そこは嘘でも好きだと言って取り入る場面だ。
だがしかし、正直で野心的なところは好感が持てた。
「私お前を恋人にする気はないわ」
「恋人など怖れ多い!愛人で構いませんよ」
愛人の座は狙っているのか、冗談だろうが呆れた。
「魔導師なら皇帝を殺して皇帝になればよかったじゃない。騙す手腕があるならバカな皇帝なんてサクッとできたでしょ」
「皇帝になった場合真っ先に狙われます。
側近で美味しい汁を啜りながらいざとなったら、トップではないほうが別の国へ逃げるのに都合いいんですよ」
他力本願なほうが楽な人生ではある。
しかし男なら自分の国を築きたいという願望があるものではないだろうか。
「陛下がいいと言えば私の側近をやってもいいわ」
私は毛先を見て、枝毛がないことを確認する。まるでファーケンデァツの苺味のような色の髪は神殿巫女の母譲りのものだ。
巫女をしていた母を父が見初めたが、巫女は神の所有物なので怒りをかって産んでからすぐに死んでしまった。
「私は元敵ですからきっと断られますよね」
◆◆◆◆◆◆
「お前の好きにしろ」
王は玉座で足を組んで、レモンイエローの髪を縦に巻いた。
年齢のわりに若作りで、噂では吸血鬼だの妖怪王だの囁かれてしまっている。
「いいのですか?」
「好きにしろと言っただろうが何度も言わせるな」
父は今時の若者ばりにすぐキレる。
◆◆◆◆◆◆
「近々、なにやら芳しくない噺を聞く」
私は国王である父の話に耳を傾けていた。
よくないこと、とはなにか
この国は滅多に問題など起きない。
外部からの侵略のことも考えなくてはいけない。
「化け物が出たのですか?」
化け物の話など昔は噂こそあれ最近ではまったく聞かない。
「察しがよい、それが城下では騒ぎになっているようでな」
本当に化け物などいるのか、ただの見間違いとも考えられる。
だが人間の反抗なら王城に直接現れるのではないか
化け物が本当にいるなら町を騒がせることなく真っ先に王の首を取りにくる筈だと思う。
もしくは敵の威嚇で近々城に攻め込むつもりであるとか。
人、化け物、どちらがやったことなのだろう。
「翼を持つ化け物が空を待って逃げたというのだ」
そんなものが存在したという話は耳にしたことがない。
文献にも伝承にもなく、まったく検討がつかない。
そのような化け物に人は抗うことなど出来る筈もない。
「このまま野放しにしたのでは民の暴動が起きかねん」
民の暴動が起きれば、城など一溜まりもない。
騒ぎが収まるまで城で怯えるより私が自からその化け物の正体を暴く事が最善だと判断した。
「国王陛下、私がその化け物の正体を突き止めます!」
間違いなく反対されるだろう。
私は返事など待たず謁見の間を飛び出した。
父はどんな顔をしていたのか、唖然としていたに違いない。
私は一度部屋に戻り、装備を整え、伴の兵士など連れず一人で城を出る。
民の為、そう云えば聞こえは良い。
しかし、私はまず自分の身を護りたい。
民の命はその通過点だろう。
私は己を護る為、自ら危険に飛び込んだ。
―――化け物が現れない場所。
そのエリアがわかれば、化け物を操る災の根源の居場所も判明するに違いない。
もしも私が周囲を害すならば自分の近くに危険な化け物を寄せ付けたくはないからである。
人は誰しも自分が大事で、悪人ならばなおのこと我が身が可愛い筈だ。
「可愛らしい蝙蝠が…」
夜行性のはずの蝙蝠が、昼間だというのにはたはたと森を飛んでいる。
きっと太陽の光が木に遮られたているのだろう。
「ねぇ!」
「あ…貴方は!?」
「蝙蝠だよ?」
蝙蝠が喋るわけないじゃない。私はにっこりと微笑んで蝙蝠に優しくアイアンクローをして可愛がってあげた。
「ごめんなさいごめんなさい!オレは蝙蝠のモンスターです!でも吸血蝙蝠じゃありません!」
「ならいいけれど」
たんなる蝙蝠のようだし、道案内をさせる。
「化け物退治かあ……」
「化け物退治なんて城に化け物が来るまで放置にしたいけどやらないと民が激おこ反逆者する。なの」
「でもお姫様のやることじゃないねー」
「まったくか弱いプリンセスに旅をさせるなんて……」
私は背後にいた不届きな輩に威嚇射撃した。