サンズオブリバー
よろしくお願いします
「まったく、派手にやったわねぇ」
「ごめんなさい...」
「ミラは悪くないわよ、悪いのはあのアホだから」
カトレアはミラがアレウスを殴り飛ばして壊した壁の木片を拾いながら笑って答える
「ほら、お茶でも入れてきなさい。アレウスはどうせすぐには目を覚まさないわ」
「え、えぇそうするわね」
ミラは自分のしたことをかなり後悔してますと言わんばかりの顔をしながら紅茶を入れるために屋敷の奥へ戻っていく
「ミラお姉様、すごかったですね」
「あはは、そうかもね。あ、そこまだ木屑とか落ちてるから気をつけなさいよ」
ミラと入れ替わるようにクリスが現れる
「アレウスの様子はどうだったかしら?」
「今はお顔を濡れた布で冷やして、カグヤお姉様とルーナさんに看病されています」
「まだ目は覚めてないわけね?」
クリスは頷いて肯定する
「あのアレウスが気絶とはねぇ...まったくミラには敵わないわよ」
「本当です...あんなに強かったとは...」
「確かにね、ミラはあぁ見えて馬鹿力だし...でも、私が言った意味はそういう意味じゃないのよ」
カトレアの言葉にクリスは首を傾げる
「んー...身内話になっちゃうけど、私はこの家じゃ一応最年長だし、性格的にも色々と仕切ったりする立場にいるのよね。だからさっきも私がアレウスと代表的な立場で話していたわ」
カトレアは床に落ちた木片など片付けながら話を続ける
「ほら、ミラもカグヤも絶対アレウスとは言い合わないタイプだから.....この家でアレウスと口論するのは私くらいだからね...だから今回も私がアレウスに怒鳴って、叱って、アレウスをとめるべきだと思ってたのよ」
「でも、実際カトレアお姉様は...」
「そうね、確かに怒鳴って、叱ったわ...でもそれ以上をする覚悟はなかったの...愛してる人を殴ることが私には出来なかった、ちょっとビビってたのよ.....でも、ミラはやったわ。アレウスのことを思って、ね...ほんとあの子のあぁいう所には敵わないわ」
カトレアはそう言いながら「悔しいわねぇ」といって笑う
「まぁでも次アレウスが目覚めて、まだアホなこと言ってるようだったら次は私がぶん殴ってやるわよ!!」
「あはは...そうですか、」
クリスは苦笑しながらちょっとアレウスに同情してしまう
「それで、クリス...アレウスに思いは伝えるの?」
「お、思いですか!?」
「そうよ?え、なにここまで来て伝えないつもり?」
「いえ、ここまで来たら伝えたいですけど...」
クリスはカトレアの爆弾投下に顔を赤らめ、モジモジしながら答える
「今言っておかないと、アレウスがシルを取り戻した後はしばらくはシルがアレウスを独占することになるわよ?」
「えっと...どういう事ですか...?」
「そっか、クリスは知らないのね。言っておくけどアレウスとシルは私たちとアレウスのような関係ではないのよ?」
「え、でも、お2人はどう見たって...」
「もちろんクリスが言ってることはあってるわよ、二年以上前からお互いのことを愛し合ってるわよ」
カトレアはそんなこと言いながら「ハーレムってこういう時説明がややこしくなるわね」と思っていた
「でも、どうして...?」
「ちょっと前にね、アレウスとシルが家の裏庭で本気でやり合ったのよ...あの時は私の菜園が壊されて大変だったわ」
「結果はどうなったんですか?」
「んー...結果としてはアレウスの圧勝...でもルールとしてはシルの勝ちだったのよ」
「それがどうしたら、2人の関係は...?」
「シルはプライドが高いのよ...んー、あの子は詳しくは言えないけど位の高いとこの家の娘なのよね。だから自分が自分のことを認められない限りアレウスとは私たちとのような関係にはならない、ってアレウスと約束したのよ」
「それが2年以上も...」
クリスとしては、シルのアレウスの溺愛っぷりを見ていたし、アレウスもシルのことを溺愛しているのは見て取れたので不思議でならなかった
「最初の頃は二人とも約束通りって感じだったんだけどねぇ...途中から色々拗れちゃったのよ。自分で自分を認める、なんて終わりの見えない道をただひたすら走り続けるみたいなものだし...だからシルは自分のことを認められなくなっちゃったのよ、自分が認める自分ってものがわからなくなっちゃって」
カトレアは少し顔を悲しげにして言葉を続ける──
「それに...アレウスは全部俺のせいだって言ってたけど、シルが心の闇を作ってしまったのは私の責任でもあるのよ」
「カトレアお姉様の責任......?」
「そうよ、シルに聞かれたのよね。我は一体どうすればいいのかってね、その時の私は浅はかだったわ...」
「なんて答えたんですか...?」
「私、「それだったら、アレウスを自分から誘惑していきなさい!!そしたらアレウスは我慢出来なくてなるから」って言っちゃったのよ、本当にバカだったわね。その時はアレウスに愛してもらえばシルの心は満たされて自分のことを認めることが出来ると思ったし、自信が持てると思ったのよ」
カトレアはその時のことを思い出してため息をつく
「シルってね、見た目的には私たちの中で一番年上に見えるし落ち着いも見えるでしょ?もちろんそういう時もあるけど、我が家の中じゃ一番純粋で、誰よりも子供っぽいのよ。私の言葉を信じてシルは何度かアレウスにアタックしたのよ、...でもアレウスはその誘いに乗らなかった...一回聞こえちゃったのよね、アレウスが「自分を認めることができたのか?」ってシルに聞いてるところを...」
「それで、シルさんは...」
「シルは何も答えることが出来てなかった...たぶん、その後も何回か挑戦したんだろうけど、結果はね...あの時の約束がこじれて、シルは何回も傷つくことになってしまったの。だから原因を作ってしまったのは私の責任も大きいのよ」
クリスはその話を聞いて何も答えることが出来なかった
誰が誰が悪いという訳では無いから、何も言うことが出来なかった
「だから私、シルに謝らなくちゃいけないのよ。それでしっかりあの子とも家族になるの...どこまでも純粋で、曇のない笑顔で笑うシルに戻ってきてほしいのよ」
カトレアは最後の最後で笑顔でクリスにそう言った
そして、その言葉がクリスの心を大きく動かす
「家族になる.........あの、カトレアお姉様、お願いがあります」
「お願い?何かしら?」
「私にも戦う力をください、私も皆さんと一緒に戦いたい、アレウス様のためにも...皆様のためにも」
「......クリス、今回は命懸けになるかもしれないのよ...わかってるの?」
笑顔だったカトレアの顔はかなり厳しいものに変化する
だが、クリスはそれに負けないように自分を鼓舞し、言葉を続ける
「その覚悟はあります...私は守られてるだけなのは嫌なのです。私も皆さんの家族になりたいから」
クリスはカトレアの目を見て、堂々と宣言する
「......OK、わかったわ。今すぐにクリスを鍛えることは出来ないけど、ミストを改良することは可能ね」
「ありがとうございます!!」
「それじゃあとりあえず...ミスト起動してちょうだい」
カトレアはミストに呼びかけるが反応がない
「ミスト?ちょっと寝てるの?」
しかしミストは反応しない
何故ならば──
◇
川の流れる音が聞こえてくる、それこの匂いは......
「花の匂い...?」
俺の意識が浮上してくる
それと同時に後頭部に柔らかい感覚を感じ取る
これはあれか、膝枕だな
俺は瞼をあける、そこには女性の姿が映る
緑のセミロングヘアに白い肌
この姿を見るのは久しぶり...というか1度しか見たことがない
「ミストか...」
「お久しぶりでございます、キング」
今は亡きノーマン王国の女騎士であり、悪霊であったミスト・クルセイダの姿がそこにあった
俺は身体を起こしてあたりを見渡す
そこには1面の花畑が広がっており、無限に続く一本の川が流れていた
「ここはどこだ...?」
「私にもよくわかりません、キングが意識を失ったので憑依させてもらいました。そして気づけば憑依したらここに...私も1度だけ見たことある気がします」
「憑依って......おい、一度見たことがあるって言ったか?」
ミストは一度死んでいる魂だけの存在の幽霊だ
そして花畑に川......いや、考えるのはやめておこう
とりあえずのあの川だけは絶対に渡らないからな
「しかし俺はどうしてここに......あぁそういうことか」
「思い出されましたか?」
「思い出したよ...ミラにいいパンチを受けたな」
俺は自分の頬を何となく擦りながら思い出す
ミラが必死の形相で俺に怒鳴り散らすという、今でも信じられない光景を
「みんなには迷惑をかけたみたいだな」
「確かにそうかもしれませんね、ですがよかったと思いますよ」
「どうしてだ?」
「キングは闇に堕ちなくて済みましたから。もしあのまま1人でお行きになっていたら、かつての私のような存在になっていたでしょうから」
かつてのミスト、それは俺が出会った時の憎悪塊となっていた悪霊のミストの事だろう
あの時のミストは目に入るもの全てを殺し尽くしていた
そして俺も憎悪に染まっていたら、同じような結末を迎えていたかもしれないということか
「キング、闇に堕ちてはいけません。その先にあるのは絶望と後悔のみです、良いことなど微塵もありません。」
「そうだな...........1人で行こうとしていたのは、ただの自己満足を満たすためだったのかもしれない」
「当時の私は女ということから、裏切られ仲間は1人もいませんでした、そして孤児院出身だったので家族も...ですが、キング、あなたには仲間も家族もいます、頼るべきなのですよ」
ミストが俺に手を重ねて真剣な目で伝えてくる
「ミラにもひとりよがりだと言われたな.........ちょっと、シルやジャンヌのことで頭がいっぱいいっぱいだったかもしれない」
「でしたら...」
「あぁわかってるよ、みんなで行く。正直いって俺1人だけじゃ全てを守りきることは出来ない」
カトレアにも言われたが、俺は周りの被害など考えずに魔神やジャンヌ、そしてシルとやり合っていた可能性が高い
「みんな、ということは私のマスターも連れて行ってもらえるのでしょうか?」
「私のマスター...クリスか...」
「キングが渋るのは分かります、マスターはしょぼいですから」
「仮にもお前のマスターなんだからしょぼいとか言うなって...」
ミストって結構毒舌なのか?いや、クリスが弄られてるだけなんだろうな
「ですが心配なさらないでください、私がいます。何があってもマスターは私が守ります。キング、マスターのあなたに対する気持ちもは既にお気づきなんでしょう」
「......まぁ流石にな、」
「でしたらマスターのためにもお願い致します。マスターは守られるだけの存在では嫌だとはっきりおっしゃられました、そのマスターのためにもどうか...このミストが代わりに頭を下げますから」
ミストがそう言って本当に頭を下げる
ここまでされたら、仕方ないか
「はぁ...わかったよ...だか、ミスト、クリスを守れるか?クリスに何かあったらお前を速攻で成仏させてやるからな?」
「いいです、その悪魔のような視線...ゾクゾク...じゃなくて...こほん、マスターは私が守ります。マスターを守れと言ったのはキングで御座いましょう?私はあなた様の命令ならば絶対に遂行してみせますから」
なんか一瞬危険な顔になったが......まぁ大丈夫だろう
「あ、それと...キング...」
「あ、どうした?......ってなんでいきなり身体を寄せてくるんだ?」
「こうやってキングに触れることが出来る機会など滅多にございません、お情でもいいので少しだけでも.........」
「......悪いが今はダメだ、」
「キスだけでも...」
「無理だ、シルを奪い返すまでは、シルの全てを俺のモノにするまではそういうことはする気はない」
俺はミストを引っぺがえして離れさせる
「時間はかかるかもしれんが、お前の思いにはいつか答えてやる、それで我慢してくれ」
「そのお言葉だけで私は今にも成仏してもいい気持ちでございます...」
え、その言葉がジョークだよね?なんか天から光が舞い降りてるけどジョークだよね?
「おっと危うく本当に逝ってしまう所でした......ふむ、マスターが目覚めるまで、こういうのはどうでしょうか?」
なかなから危ないことを言ったミストはどこからともなく剣を二本生み出してくる
「剣を振るっていれば頭も晴れることでしょう。かつての私も嫌なことがあった時、剣を振るっていれば良くなったものです」
「そりゃ人生の大先輩としての言葉か?」
「キング?女性にそういうこと言うのは厳禁ですよ?......どうします?やりますか?」
「じゃあお言葉に甘えて、ノーマン最強の剣技を久しぶりに受けるとするさ」
俺の言葉に笑顔を返したミストから俺は剣を一本受け取る
そして互いに距離をとって剣を構える
「全力でいかせてもらいますよ、キング」
「お手柔らかに頼むよ」
そして俺の返答が開始の合図となった
ガキィン!!と花畑に不釣り合いな金属がぶつかり合った時の特有の音が鳴り響く
流石はミストだな、気を抜いたらやられそうだ
俺はミストとの剣技の応酬をしながら、考える
頭がスッキリするとおもったが、返って集中しすぎで色々なことを考えることになってしまう
魔神、ジャンヌ......そしてシル──
「───っ!!」
突如息が止まってしまう悪寒がはしる
そして時間の流れが遅くなり、あたり一面の色が俺の視界から失われていく
俺の目に映るのはミストではなく、黒白の世界で唯一色をもった赤い目をした男──
「あいつは......俺?」
そして急速に色が取り戻され、時間の流れが元に戻る
「スキありぃ!!」
やばい!!と思ったが時は既に遅く、ミストが振るった剣は俺の首を──
ガバッ!!
「はぁ...はぁ...」
俺は慌てて自分の首を確かめる.........よかった、繋がってる
だけど右腕の反応がない......
「あぁそうか、これは現実だ」
感覚のある左手で右肩をさわる
「うぉっ...くぅ...!おぉ...いてぇ...」
そうだった、自分で斬られた肩口を焼いたんだった...ビリビリと痛む
というか全身痛いな、頬も腫れてるし
そうか、王都にいた時から全く傷を治してなかったのか
頬の腫れはミラのパンチでか...
「あ、ご主人様...」
声がする方を向けば、ミラが──
「ミラ、何やってんだ?」
俺の姿を見るやすぐに顔の半分だけドアから出してこちらを伺うような姿勢になっていた
「えっと...あの...」
「ミラ、こっちに来い」
「で、でも......合わす顔がないと...」
「だったら俺から行く」
俺はミラの後ろまで転移する
そして逃げないように左腕でミラを抑える
俺はミラに言わなくちゃいけない事があるからな
「ありがとうミラ、あの時俺をビンタしてくれ、殴ってくれ...お陰で目が覚めた」
「私...その感情のままに動いてしまって...」
「いいんだよ、それでいいんだ。それにミラにあんなことされたりするなんて滅多にない事だからな、貴重な体験だったよ」
「すいません、どうしてもご主人様を止めたくて...」
「もう謝るな、俺はお前が俺のことをもう一回ご主人様と呼んでくれるだけで満足だ」
「あっ......」
ミラに「今のあなたはご主人様と呼べない」って言われたから、今考えればかなりショッキングな言葉だった
ミラも勢いで言った感じがするから忘れてたのかもな
「さて、目が覚めたし、そろそろ本気で動くとするか、もちろんみんなでだ」
「ご主人様...そうですね、やりましょう」
「ミラ、みんなを集めてくれ」
「既に全員ダイニングの方にいます」
「そうか、だったら手っ取り早いな」
とりあえずはみんなに謝って、もう1度作戦会議だ
俺はミラを連れて急いでダイニングへと向かう
俺が姿を現すとみんな俺の名前を呼んでくれる
そしてその俺は──
「かっこ悪いところを見せてすまなかった。こういう言い方しか出来ないけどさっきの俺は冷静じゃなかった、許してほしい。そして...俺に力を貸してくれ」
みんなの前で頭を下げる
「アレウス、顔をあげて」
この声はカトレアか、俺は言われた通り頭をあげる
そして俺に頭を上げさせたカトレアは俺に近づき......俺の右肩口を掴んだ
.........右肩口?
「────っ!!カト、レア...いぐっ、マジで...それは...っ!!」
カトレアが思い切り俺の右肩口を握る
掴まれた右肩口から焼けるような痛みが発生する
「謝るならまずはその傷を治してからにしなさい!!火傷、打撲、骨折、凍傷...挙げたらキリがないわ、普通だったら死んでてもおかしくないほどの重体なの!!ほら、早く治す!!」
「わかった!!わかったから、肩口を掴むのを...やめてくれ!!」
俺は慌てて体全体に回復魔法をかけて身体を治療し、最後に右腕を元に戻す
「これで...いいか?」
俺は元に戻った右腕を感触を確かめつつ、カトレアに目をやる
「そうね、私は満足だわ...だから選手交代よ」
「選手交代...?......カグヤ?」
カトレアと変わるように俺の名前に来たのわカグヤだ
「えっと...じゃあ失礼します......えい!!」
カグヤのパンチがポスっと俺の胸にあたる
「私はあの時何も言えませんでしたから、これだけです。だからアレウス様がまたあのようになったら次は「火之迦具槌」を撃ちますね」
「いや、それは絶対死ぬから勘弁してくれ......まぁありがとな」
「はいっ!」
カグヤがいつものように向日葵のような綺麗な笑顔で俺に答えてくれる
「クリス、ルーナ。お前達にも迷惑をかけたな」
「いえ、アレウス様...私は全然構いません」
「私もお兄様に助けられた身ですので、元に戻られてよかったです」
二人にも迷惑をかけていたんだろうな、それでも許してくれるのはありがたい
「それじゃもう1度話し──」
「ご主人様、まずはお着替えになられたどうでしょうか?上半身裸はまずいと思われます」
「あ、はい......」
ミラがいつものようにクールに俺に着替えをもって横に立っていた
あの、やっぱり...まだ怒ってる?
お読みいただきありがとうございます
とりあえずこれでアレウスは成長した...はずです
次回くらいから激戦になりそうなので、ちょっとがギャグを