ブラックミスト2
よろしくお願いします
「アレウス様ありがとうございます.........ミスト、行きましょう。アレウス様を助け出さないと」
『はい、マスタークリス、よろしくお願いします』
クリスは覚悟を決めてそう宣言をする
「何をしているお前ら!!彼女はどう見ても魔神の手先だ、クリスティーナ様の偽物だ、殺せ!!」
「......誰の声かと思ったら、あのお方ですか」
クリスが声をするほうを向けば、衛兵に命令を出しているのはミカエルだった
『敵性存在を4体捕捉しました、睡眠ガスの使用を推奨、直接戦闘はお勧めできません』
視界のモニターに映る衛兵たちにマーキングが施されていく
「ステファニア様、おさがりください!!」
近くで倒れたままであったステファニアをかばうように衛兵の1人がたち、さらにほかの3人がクリスを囲むように陣取る
ジリジリとクリスとの距離は縮めさせていく
「ミスト、ガスの使用を」
『対象4人が有効範囲での存在を確認、睡眠ガス噴射します』
クリスを包むかのように白い煙が発生し、煙に飲み込まれた衛兵たちは1人また1人と床に倒れていく
『対象すべて昏倒したのを確認』
クリスを中心にガスの白い煙が発生する中、ミストの声が響く
そして徐々にガスの煙が晴れていく
「魔神の配下だ......魔人の配下だぁぁぁぁぁ!!」
大臣の1人が煙の中から姿を現すクリスを見てそう叫ぶ
そう勘違いしても仕方がない話であった。クリスが現在装着している装甲ブラックミストはカトレアが気合いを入れてデザインしたアレウスをモチーフとした黒を基調とした悪魔的な造形をしている
視界部分は紅い光をともし、見るものに恐怖を感じさせる
「クリス...あぁそんな...クリスが...」
そのクリスの姿を一番近くで見ているステファニアは顔を真っ青にし、妹は魔神の手に堕ちてしまったと勘違いする
『マスター、この空間からの脱出をおすすめします』
「そうですね、すぐにアレウス様の元に向かわないと」
クリスは自分を見て恐怖する者達に気にも止めず、ミストに賛同して部屋から出るために扉へと向かう
「クリスよ......」
クリスが扉に手をかけた瞬間にカイゼルがクリスの名を呼ぶ
「......なんでしょうか、お父様?」
「クリス、お前は本当に魔神の手に...?」
「そうですね...ある意味落ちてしまったのでしょう。アレウス様が魔神であろうとなかろうと...」
クリスは扉を押して、もう1度後ろを振り向き...
「アレウス様がなんであろうと、私はアレウス様との「恋」に落ちていますから」
クリスは小声で「片思い中ですけどね」と言って謁見の間から出る
そしてクリスは王城の廊下を歩く、アレウスの元へと向かうために
「魔神の配下が現れた!!衛兵たち!!捕らえるんだ!!」
謁見の間の方からそんな声が聞こえてくる
「はやくいかないと......」
『......ドクターからの通信を着信、接続します』
『クリス!!ミストを起動させたのね!!』
「......カトレアお姉さま?」
『えぇそうよ、ミストからの緊急信号をキャッチしたから通信したわ』
ミストの言うところのドクター...カトレアの声が響く
カトレアのいう緊急信号とはアレウスがつけさせた、クリスがミストを起動させた時にカトレアに起動したのがわかるようにさせる機能の一つであった
『クリス、無事なんでしょうね?』
「はい、私は...ですが、アレウス様が!!」
『えぇそのことは私の方でも知ってるわ。アレウスのことなら心配ないわ』
「心配ない...処刑は明日なのですよ!?今から私がアレウスを助けに...!!」
『それはだめよ、クリス。アレウスのことなら心配いらない』
「ですが...!!」
『クリス、はっきり言うけど助けに行けばアレウスの邪魔になるわ。それにそっちはかなり危ない状況よ、そうね...カグヤと合流させるのは...イレギュラーな要素をできるだけない方がいいし...クリスあんたは私たちの領地に来なさい、ミスト、残り魔力残量はどれくらい?』
『魔力の残量は96%ほどです』
『いいわね、とりあえず半重力ウィングを使用して行ける所までこちらに来て、ミスト予測到達地点を割り出しなさい』
『到達地点を予測......マップにマーキングしました』
『...うん、わかった。そこで合流ね、クリスそこまで来なさい。言いたいことがあると思うけど、今は私の言うことを聞いてちょうだい、それがアレウスのためにもなるの、いいわね?』
「.........わかりました」
『ありがとう、私も今から急いで準備して向かうわ、それじゃあ後で会いましょう。ミスト、任せたわよ?』
『了解しました......通信を切断』
ブツリと通信が切れる音が鳴る
『マスター、半重力ウィング展開の許可を』
「半重力ウィングとはどんなものなんですか?」
『キングの重力魔法の魔力を利用した、半重力場を発生させる翼でございます。半重力ウィングを利用することにより浮遊移動が可能に、要すれば...』
「空を飛べるとこが可能ということですね」
『そうでございます』
「あそこにいたぞ!!」
「見つけた!!」
「挟まれた...!!ミスト!!使用を許可をします!!」
『了解、半重力ウィングを展開』
背中から装甲のときと同様の音が響き一対の翼が展開され、クリスの身体が浮遊する
『モニターにルートを表示』
「これに従えばいいのですね?」
『そうでございます、右手の窓から行くことを推奨』
「窓から...普段だったら絶対にやらないことですか背に腹は変えられません!!」
翼から赤い粒子を発生させて唸りをあげると、クリスの身体は浮遊したまま王城の窓を突き破り外へと飛び立つ
激しい雨が装甲を打つ音が響く
「すごい...本当に空を飛んでいる」
窓から飛び出たクリスは空中を浮遊しながら離れた地面を見る
『マスター、感動している場合ではございません』
「えっ──」
「魔法を放て!!!魔法を使えない者は矢を放て!!」
『このままではマスターはただの的でございます。オートモードを推奨、オートモードにすれば目的地点まで確実にたどり着けます』
「わかりました!!とりあえず避けてください!!」
『了解、オートモードに移行』
何かを溜め込むような音がして──
『ブースト解放、目的地点までの移動を開始』
「えっ......きゃぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁ!!!」
『警告、予想以上のスピードが出ます』
「もう遅いですよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
嵐の中クリスの叫びが響き、現在クリスを乗せているという表現が一番しっくりくるブラックミストは空中で高速移動を繰り返し、襲いかかる魔法と弓をすべて避け、目的地点を目指す
高速移動の中パニックになったクリスの視界には既に王都の街並みではなく、森が広がっていた
『マスター、大丈夫でしょうか?』
「大丈夫ですけど...あぁいうことをするならもっと早く...」
『すいません、私を試乗したのはドクターとキングのみ、マスターの身体機能が一般人であることを忘れおりました』
「...その気になったのですがキングというのは...」
『はい、我らが王、アレウス様でございます。カトレア様は私を生みの親だからドクター、クリス様は私の主人なのでマスター、そしてアレウス様は私たち全員を統べる、すなわち王のような存在、だからキングと呼んでいるのです』
「なるほど...」
アレウス自身はキングという呼び方を認めた訳では無いのだが、それ以外の呼称をミストが認めないがためにキングという呼び方に収まったのだ
『警告、鳥型の魔物の群れが接近するのを確認、その数は20、回避するのは難しいと思われます。オートモードを維持し、迎撃することを推奨』
「ミスト、あなたが最善だと思うならいちいち許可はいりません」
『マスター、それは認められません。私は完璧ではございません。必ずマスターの許諾をとる必要があると私は意見します』
「......わかりました、ミスト、あなたの提案を許可します。そして迎撃をしなてください」
『了解、マスター少し動きますので、どこかに捕まっていてください』
「......いや、捕まるところがないんですが」
『ふふ、ただのジョークでございます...ブレード装備、さぁいきますよ!!』
機体同様の漆黒の黒い剣を背中から引き抜いたミストは王都での回避の時と同様の高速移動をし、手に持ったその黒剣ですれ違う巨大な鳥型の魔物の身体を切り裂いていく
生身のクリスであったら考えられないその行為
「...すごい、まるでアレウス様みたい」
『否、それは間違いでございます。マスターは確かに私の身体補助機能により、キングとドクターが設定されたレベルで、レベル50ほどまで底上げされております。ですが、それでもキングの力と比べれば10分の1にも満たしません』
クリスの素のレベルは10であるので、ブラックミスト装着により本来の10倍の力が発揮されてる時点でブラックミストの機能の高さは充分なものであった
『さらに補足しますと、私が今使用していたブレードもドクターが設計し、超一流の鍛冶師が打たれたものでございます。だからマスターが言ってることは間違いでございます、マスターなどキングの足元にも及ばない虫けらでございます』
「...なんか段々饒舌になってません?というか私ミストのマスターなんですよね?」
『はい、私の言語機能が着実に成長している証拠でございます。そしてキングとマスター、どちらが私にとって敬うべき存在かというならば、断然キングでございます。私を開発したのはドクターでございますが、元を辿れば私を発見してくれたのはキングでございます。私がいまここにあるのもすべてキングのおかげであります』
「アレウス様がミストを見つけた...?」
『はい、一年ほど前でしょうか、私ミストはキングと出会いました』
そして怪鳥の群れを抜け出し、ミストは語り始める──
『私は元々ただの残留思念でございました』
「残留思念?」
『はい、正確に言えばこの世に未練を残してしまった魂という存在でございました、俗に言う幽霊でございますね』
「幽霊?」
『はい、マスターはミスト・クルセイダという名前をお聞きしたことがありますでしょうか?』
「ミスト・クルセイダ...?......おとぎ話にそんな名前が...確か女性剣士の名前でしたでしょうか?」
『正解です、今は無きノーマン王国の騎士ミスト・クルセイダでございます』
「ノーマン王国...それは五百年ほど前に消え去った国の名前......!!」
『はい、当時の戦争によりノーマン王国は滅びとされねいるようですね。そして私もその戦争により命を落としました』
「......戦死をしたの?」
『いえ、私は裏切りにあい騙されて殺されました。女で騎士である私を疎んだことによる行動でした。そして私はその瞬間に憎悪の塊となり悪霊となったのです』
「悪霊?」
『はい、私は憎しみという感情を抱いてこの世に残ったのです。憎しみにまみれた私は裏切った者達を殺しました。その後は私の憎しみはノーマン王国の国民へと向かいました、泣き叫ぶ、逃げる無実な国民を殺し尽くしました』
「...まさかノーマン王国が滅んだ理由は...?」
『はい、私でございます』
クリスは普通だったら知り得ることのない真実の歴史を知ることになる
『ノーマン王国を滅ぼした後も私の魂はこの世に残り続けました、残り続けた後はノーマン王国があった場所をただひたすらさまよう亡霊となり、ただ人の命を狩る悪霊となったのです』
「それで、アレウス様とはどうして?」
『はい、魔神調査の一環で一年前私の噂をききつけて、調査に来られました。そして悪霊となった私と対峙し、キングは赤子の手をひねるかのように私を圧倒したのです。当時ノーマン王国最強剣士と謳われていた私のプライドは大きく傷つけられました、ですがそのおかげか私の憎しみはすべて消え去った...元々長い年月がたっていたので薄れたは来ていたのですが、やはりキングに敗北したのが大きな要因でした』
「アレウス様に負けた後は...?」
『憎しみが消えた私は私のこれまでの行いを悔い、償いをしたいとキングに相談をしました。そして私はドクターを紹介され、ドクターが開発していた人工ゴーレムの人工知能に私の思念は統合され、私ミストが誕生しました』
「そういうことだったんですか......」
『はい、だからこそ私をお救いくださったキングには私の忠誠すべてを捧げております。私はアレウス様を新たな王として、一生仕えることを心に誓いました。そしてそのキングが私に下した命令がマスターをお守りすることであるのです』
「なるほど...」
クリスはとりあえずミストの言い分に納得をする
『はぁ...本当は愛するキングのお側に控えていたかったんですが...命令なら仕方ありませんよね』
「......ちょっと?愛すると言いましたか?というかどんどん毒の吐き方が激しくなってませんか!?ねぇ!?」
お読みいただきありがとうございます
ミストさんは第2のエリーナ