女帝陛下
よろしくお願いします
「見つけたぞ、アレウス・アーレンハルト!!貴様は余とは前世からの恋仲!!これはまさに運命!!さぁ、余と契りを交わそうぞ!!」
「...............」
クリスに呼ばれて、王城に来てみればこれだ
誰だよこいつ......いや、ほんとに誰だよ、まじで
初めて見る女性だ、「鑑定」をかけるか?いや、初対面の女性にそういうことするのは流石に失礼だよな、男ならすぐにかましてやったが
とりあえずは自分で推測はたててみるか
目の前の女性は20代前半くらいだろうか?ウェーブのかかった綺麗な茶髪の、美形の顔をしている。身につけてる黒いドレスはシンプルなデザインだが高級なものだ
しかも王城を自由に歩いてるということは、それなりに高い身分であることはわかる
少なくとも侯爵以上の位だ、この国の人間だったら晩餐会で見たことあるかもしれんが......こんな痛いことを言う...ゴホンゴホン!!こんな綺麗な女性なら顔くらいは覚えてるはずだ
だったら時期的に考えて、他国の─しかも、かなり身分の高いやつだ
「おい、アレウス・アーレンハルト。余の話を聞いているのか?」
「あぁすみません、あなたの美貌に見惚れてしまい...申し訳ないのですが、私はあなたののことをご存知ではないのですが...」
「それもそうであろうな、なんせ初めてあったからな」
ですよねぇ、そうですよねぇ、あなたみたいな人一回話せば忘れるわけありませんよ
「よろしければあなたの名前を教えていただきませんか?」
「そうだったな、余の名前はレオーネ・イルミ・ダイダルディだ、どうだ余の名前を聞いて運命を感じないか?」
「いや、えぇと......」
確かに言われてみれば.........いや、全然感じないな、なんかその気になりかけちゃったよ
しかしレオーネ・イルミ・ダイダルディか、名前でわかるけど、この国のやつじゃないのは確定だな。それに苗字持ち貴族か
しかしダイダルディか...聞いたことがあるような......
「あの、ダイダルディ様──」
「レオーネだ、余のことはレオーネでかまわない」
「それではレオーネ様、私に何かご用でしょうか?」
「うむ、貴様には余と婚約の契を交わしてもらいたい。なに、急なことはわかっておる、しかし余と貴様は前世からの恋仲、同じ時を過ごしておればお互い愛し合うようになる」
(なかなかパンチのある人がいきなり出てきましたねぇ...しかしこの人の言ってること、なんか最近聞いた気がするんですよねぇ...)
奇遇ですねぇ...俺もエリーナさんと同じ気持ちですよ
なんだっけなぁ...なんかすごい似たようなフレーズを言った気がするんだよなぁ...
前世の...前世の....前世の宿命の......なんだっけ...
そしてその先の答えを知らされることになる
「レオーネ様!レオーネ様ぁ!!あ、いた!!」
メイド服を来た女性が走ってこちらへやってくる
「おぉ、カルネか、どうした?」
「どうした、じゃありませんよ!!何勝手に他国の王城内を歩いてるのですか!!」
「おぉ聞いてくれ!!ついに見つけたぞ、余の婚約者を!!」
「は?婚約者?」
カルネと呼ばれるメイドが「なに言ってるの?」みたいな顔をしたあと、俺の方に顔を向ける
「こいつがアレウス・アーレンハルトだ!!実物は初めて見るが、なかなか男前の顔をしている、お前もそうおまわないか、カルネよ」
「そう思わないか、じゃないですって!!もっとダイダル帝国の女帝であると、自覚を持ってください!!」
俺はたらりと頬に冷や汗が流れる感触を感じる
.........今なんとおっしゃいましたか?
(思い出しました!!アレウスさん先日「なんかいないかな前世からの宿命とか言ってくるお姫様」って脳内で発言してました!!)
......したわ、俺はそんなことを脳内発言したわ......おいおい、嘘だろ...いや、俺の幻聴かも知れません
「あの...すいません、レオーネ様はもしかして......」
「はい!!ここにおられるのは第96代目ダイダル帝国女帝・レオーネ・イルミ・ダイダルディ様でございます!!」
「............」
まずい、これは非常にまずいぞ.........
(ま、まさかあの発言からお姫様...いえ、女皇帝をホイホイさせるとは...アレウスさん......すごすぎますよ......今日のLuck値は絶好調みたいですねぇ......)
エリーナが引き気味に言っている
おい、これのどこが幸運か、言ってみろ、この不運を司る運命の女神様さんよぉ
「女帝陛下、先ほどまでのご無礼をご容赦ください」
俺はとりあえず相手が俺より圧倒的に目上の人間だとわかったので、即座に跪く
冷汗ダラダラだぞ、まったく......
「よいよい、貴様はこれから余の夫となるのだ、気にすることではない」
いや、その発言は気にすることしかできないんですがねぇ......
「レオーネ様!!いきなり何をおっしゃられているのですか!!」
そうだ、そうだ、もっと言ってやれ!!
「カルネよ、余はもうこの男と婚約すると心に決めている、この言葉がわかっているよな?」
「ひっ──で、ですが、アレウス・アーレンハルト様といえば、イリヤ王国と剣と言われるお方です、流石にダイダル帝国の女帝陛下であったとしてもレオーネ様の一存で決めることはできません...」
流石は女で帝になっているやつだ、発した威圧がとんでもない
しかしよくぞ負けなかったメイド、よく言ってくれた。今日初めてイリヤ王国の剣とか言われててよかったと思えたぞ
「ふむ、だったらもう1度国王のとこに行って直談判してくるか」
えー...まじかよ、この人行動力ありすぎでしょ...
誰か、誰か俺を助けてくれ!!
そして俺の願いは奇跡的にも叶うことになる
「あの...我が国の侯爵が何かご無礼をしたでしょうか?」
よく聞き慣れた声が俺の耳に届く
今頭をたれた状態だから顔こそ、確認してないが誰だかははっきりわかった
「ふむ...貴様は何者だ?」
「私はイリヤ王国第二王女クリスティーナ・アクロイドでございます、お初お目にかかりますレオーネ女帝陛下」
「ほう、貴様はこの国の姫君の1人であったか、話には聞いておるぞ」
クリス、ナイスタイミングだ!!俺を助けておくれ!!
「それで...彼が何かご迷惑をおかけしたのでしょうか」
「いや、ただ余が挨拶をしていただけだ、アレウス・アーレンハルト、頭をあげい、もう立ってよいぞ」
「はっ、ありがとうございます」
俺はササッと立ち上がり、ササッとクリスの後ろに隠れるように立つ
(かっこ悪い......)
俺の貞操のピンチなんだ、かっこ悪いもクソもあるか
俺はなんちゃってモールス信号でクリスの背中にSOSを送る、ほんとはモールス信号なんて知らないけどさ
「クリスティーナよ、アレウス・アーレンハルトを余が夫として迎えようと思うのだが、どう思う?」
「夫...いえ、すいません、アレウスは私の専属の騎士でございますので、失礼ながらそれを無理な話でございます、ね、アレウス?」
女帝の威圧を全開にするレオーネに対して、クリスも王女の風格を顕にして毅然と言う
あとは俺が言えばいいのか
「はっ──私の忠誠はすべてクリスティーナに捧げております、私にとってクリスティーナこそがすべてございます」
右手を心臓に掲げる、なんとなくそういうポーズっぽいからやってみただけなんだけど
「こういうことですので、すみませんが」
クリスが一礼をして、俺に「行きますよ」と声をかける、俺もそれにのって「失礼します」とその場を去る
後ろから「私はそんなことで諦めないからな!!」みたいな声が聞こえてきたりこなかったり......聞こえなかったことにしようか
そしてクリスとお茶をするはずだった一室へと足を運ぶ
「はぁ......まじで、助かったぞ」
部屋に入って即座に俺は張っていた背筋をダラリと緩ませて、ため息をつく
「私が...すべ......」
「ん?おい、どうした?」
「えっ?あ、いや...!あ、アレウス様が遅いと思って探していましたら、見つけたんですよ」
なるほどな、あの女帝に足止めくらってたからな探しに来てくれたと、今回ばかりは本当に助かったな
「しかし...アレウス様、レオーネ女帝陛下はアレウス様とご婚約されるとおっしゃってましたが、今回は何をやらかしたんですか?」
「とりあえず俺がいつも何かやからしてるみたいな言い方やめてくれないか?」
「それに、今回ばかりはかなり厄介な相手に目をつけられたようですね」
スルーですか、もう疲れたからなんでもいいんだけど
「レオーネ・イリヤ・バンダルディか?確かに厄介そうな人だったが...」
「えぇ、彼女の暴虐ぶりはかなり有名です。あの性格が逆に国民にはかなりの人気があるみたいですけど」
「あー.........」
確かに人の話聞かなそうなやつではあったな。自分の決めたことは何がなんでも実行するようなタイプだ
だけど俺が感じたあの風格は王者という座に収まるべき人間だというのははっきりわかったな、ありゃ人気が出るだろうな
「あの女帝陛下があれで諦めたと思いません。アレウス様、どうされますか?」
「あー...んー.........お前の専属騎士って言っちまった手前、大陸会議中は俺はお前についてるしかないか、陛下には悪いが陛下の方にはシルをつけるとするか」
「はい、晩餐会時はそれで大丈夫だと思います。会議時にのみアレウス様はお父様に護衛としてつけば問題がありません、私がお父様からも事情を説明しておきます」
「あぁ悪い、そうしてくれると助かる」
シルが俺の従者であるということが認知されてさえ、いれば問題は無い。俺は無駄に俺の名前だけが一人走りして認知度高いけど、シルの認知度なんてないようなものだからな
聖ダイス教国からは護衛でジャンヌが来ることが考えられるから、うまくあいつを利用してシルに関してアシストしてもらうとするかな、真面目だから俺が困ってる感じをアピールすれば助けてくれそうだし
(なかなかに考えてることがクズいですよねぇ...)
いやいや、助け合いの精神って大事でしょ?俺もあいうが困っていたら助ける、win-winな関係だな
「アレウス様とお茶をして時間を潰そうと思いましたが、予定変更です」
クリスがパンッと手を叩いて、そんなことを言う
「は?予定変更?陛下のところに行くんじゃないのか?」
「いえ、晩餐会は明日からですし、今言いに行かなくても問題ありませんから、今からは別のことをします」
「別のこと?」
ダイダル帝国女帝のせいで、忘れてたけど俺はここに暇つぶしに来てたんだよな。よく考えたら暇つぶしにお姫様とお茶とかなかなか豪勢なことをしている
「アレウス、あなた私の騎士よね?」
「............は?」
「私の騎士よね?あなたの忠誠はすべて私に尽くしているのよね?」
「......おい、お前何考えてるんだ?」
クリスがわざと口調を変えて、王女の風格をまとい俺に「うふふ」と笑みを浮かべる
これろくなことを考えてるよな、絶対......
「それじゃ───」
次にクリスの口から出てくる言葉に俺は少しばかりびびっていた──
◇
「はい、アレウス様、これも持ってください」
「はぁ...わかった、わかった」
俺はクリスが買った商品が入った紙袋を受け取り、手に持つ
目の前のクリスは俺の知ってる気品溢れる金髪のクリスではなく、町娘風の茶髪の女の子の姿であった
クリスが俺に提案したことといえば、俺と一緒に王城を抜け出して、祭りを楽しみつつのショッピングだった
「なぁ、まじで王城抜け出しても大丈夫なのか?」
「はい、いつも抜け出してますから」
いや、そういうこと言ってるんじゃないんだけどねぇそれじゃ、それも全然大丈夫な理由にならないし
どう考えても怒られた俺のせいにするパターンだよね
「しかしなぁ...」
俺は自分の荷物を持ってない方の右手を見る
そこにはクリスの左手が繋がっていた
「なぁ、これする必要あるか?」
「当たり前ですよ、お祭りで人が沢山いますから、はぐれたら大変です」
「いや、俺だったら手を繋いでなくてもお前とはぐれることはないと思うんだが」
「いいんです、これがいいんです」
クリスが握っている俺の手にぎゅっと力を入れる
手を繋ぐって、これ地味に恥ずかしいな
(今更何言ってるんですか、よく4人と手を繋いでデートしてるじゃないですか)
いや、それは相手があいつらだからだよ
クリスだぞ?妹と手を繋い出るみたいな感じに妙に恥ずかしいんだが
(いや、それは...いえ、なんでもないです)
いや、なにそんな中途半端に言うのやめるんだよ
「アレウス様?」
「ん?どうした?」
「いえ、何か考え事をしていらして感じでしたので...もしかして楽しくありませんか?」
「ん、いや、結構楽しんでるぞ?うちの祭りとはまた違った活気があって面白いよな」
やっぱ王都全体をあげての祭りとなると、規模が違うよな。うちの祭りもいいけど、王都の祭りはやっぱり華やかだな
人の量も全然違うよな、クリスがさっき言ってたけど確かにすぐはぐれそうほどの人の波だよな──
「きゃっ!!」
「──っとと、おい、クリス大丈夫か?」
がたいのいい男に押されたクリスが倒れそうになったので、俺は倒れる前にクリスを抱き込む
「ひゃっ、あ、あ、アレウス様?」
「は?あぁアレウスだけど?どうした頭でもぶったか?」
クリスが顔を真っ赤にしていた、人の熱気に当てられたか?確かに人多いと暑いもんな、それなりに歩いたし、どっかで休むべきかもしれんな
「あれ、あれ、アレウス様、か、顔ちか──」
「は?お前何言ってんだ、とりあえずほら、しっかり立て」
俺は抱いていたクリスを支えながらもしっかり立たせる
.........しかしクリスの身体、結構柔らかみがあったな...こう、女性的な......
はっ!!危ないぞ、俺、!!溜まりすぎて思考がちょっとやばくなってかもな......やっぱり遊郭のお姉さんと1晩くらい......いや、それはミラたちにぶっ殺されるからやめておこう
とりあえず我慢だ、クリスは妹だぞ、馬鹿なことは考えちゃいけないぞ、俺
俺も結構歩いて疲れてるみたいだな、肉体的にというよりは精神的に疲れてるな
「よし、とりあえず結構歩いたし、そろそろ王城に戻ってゆっくり冷たい茶でも飲もうぜ」
「は、はい、わかりました」
クリスが顔をパタパタさせて俺に答える
とりあえずは暇つぶしにはなったかな──
お読みいただきありがとうございます
シリアス展開からの突如のラブコメ!!