晩餐会
よろしくお願いします
俺は王城の廊下を歩く、すれ違うメイドなどは晩餐会の準備に忙しそうだ
こんないつになく忙しそうな王城内を俺が歩いている理由は晩餐会前にちょっと来いとわがままな姫様から招待を受けたからだ
「こんばんわ、アレウス・アーレンハルト様。クリスティーナ様は既に中でお待ちです」
「すまない、ありがとう」
俺は扉の前にいたメイドに礼を言って部屋に入る
「アレウス様、お久しぶりです」
「あぁ久しぶりだなクリス、直接会うのは...1年ぶりくらいか?」
「えぇ、アレウス様がこちらに来ているにも関わらず私に会いに来てくださりませんでしたから」
「別に義務ってわけではないだろうが...まぁ会わんかったことには謝っておくよ。つーか、部屋にお前1人だけって、姫様だし年頃の女だろ?メイドのひとりでも置いておいた方がいいんじゃないか?」
「いいえ、皆今晩晩餐会、及び大陸会議の準備で忙しいですから」
忙しいのはわかってて優雅に紅茶を飲むんですねぇ、クリス様は。まぁ姫だからこれが普通なのか
そんな目の前で紅茶を飲んでるクリスは晩餐会用のドレスで身を包んでいた、少し露出度の高い大人っぽいドレスだ
俺が既に20歳だから、こいつももう17歳か
元々可愛い見た目をしていたが、一年経って無駄に大人びて美人になったもんだ
「...あの?どうなされましたか?」
「ん?いや、綺麗になったなと思っただけだよ」
「......あの、よく素で言えますね」
「あ?あー...別に口説いてるとかじゃないから安心しろって、褒めるのはまぁ...日頃の賜物みたいなものだ」
うちの娘さんたちが口に出して褒めないと怒るんですよねぇ、だから自然と褒めるのが癖になってるわけだ
褒めないとね?恐ろしいんだよ、本当にもう...たまに口聞いてくれなくなるし...おかしくないかな。この前新しい服着てた時にうっかり褒めるの忘れたら、カトレアにはかなり離れた距離から弓で撃たれるし...いや、防いだけどさ、完全に脳天に刺さるコースだったよ、あれは
(いや、それはアレウスさんの自業自得ですよね?)
いや、心の中では褒めてんだよ、でもそれを一々口に出して褒めるのかとさ。「綺麗だな」とか「可愛いぞ」とかあいつらも言われ慣れてるだろうし、今更褒めたってって感じじゃない?
(それでも褒めてほしいのが女心ってやつですよ)
まぁそんなもんか.........なんでエリーナなんかが女心を知ったかのように説教してるのかはわからないが、
(ちょっと!私だって女の子です!女の神様と書いて女神ですからね!?)
いや、あなた精神年齢がお子様でしょう......
「なんだ、お世辞でしたか、」
「いや、綺麗になったと思ったのは本心だっての......お、そういえば俺があげた腕輪しっかりつけてるな」
「あぁこれですか、」
クリスが腕輪をなぞりカシャンと音を立てて篭手を展開する
「今ではすっかり手に馴染みましたね。あ、麻酔針が切れたんでストックもらえませんか?」
「......ストック合わせて100本以上渡したつもりなんだが...え、なに?そんなピンチなことあった?そういう系のお姫様なのか?」
「そういう系...?いえ、あの...まぁここ脱け出す時に衛兵を眠らせるために...こう、頭狙ってパシュッ!みたいな?あ、聞いてください、上達して10mくらい離れてても頭に1発なんですよ!ちょっとクセにもなってしまって関係ない時もパシュッと──」
「うん、とりあえず没収な」
お前何勝手に王城内でスニーキングミッションやってんだよ......つーか、癖でヘッドショットするなよ、お仕事の邪魔になっちゃうから!
頭に当たった衛兵さん大丈夫かな...この麻酔針に使われてる麻酔かなりきついヤツなんだけど...頭は流石に心配だな...
「アレウス様、返してください!!それがないと安全に王城を抜け出せません!!」
「いや、俺そんな為に渡したんじゃないんだけど...まぁどうせこれは回収するつもりだったんだけどな」
俺は空間魔法の転移技を無駄に駆使してクリスから取り上げた腕輪を指でまわしながら、クリスに言う
そしてポケットにしまい、別の腕輪を取り出す
「ほい、これが完成版だ」
「新しい...のですか?」
「あぁ今回はフルプレートだからな、全身鎧だ。まぁ一応使い勝手がいいように篭手だけ展開できるようにも設定はしてあるがな」
デザインは黒を貴重とし、中心には紅く輝く魔石が埋め込まれてる
「あの...全身鎧なんて必要ないんですが...」
「いや、全身鎧じゃないと意味が無いだろ?「領軍戦隊マモルンジャー」って知ってるか?」
「あれですよね...一年と半年ほど前から王都でも流行り出した、カラフルな騎士のヒーローでしたっけ?」
「そうそう、そして君には新たなマモルンジャーとして、「漆黒のブラックミスト」の変身道具を......」
「アレウス様?流石の私も怒りますよ?」
......まぁ確かに冗談が過ぎましたよね
(でも、確か...その腕輪ってアレウスさんとカトレアが酔いの勢いで悪ノリしたやつじゃありませんでしたっけ?)
......確かに色々と無駄な機能は付けた気がする、しかも絶対に使用する機会がないパターンのね
「冗談が過ぎたのは謝るとしてだ、こっちの方が性能がいいんだよ、段違いでな」
「えっと...貰えるのは嬉しいのですが...一つだけ質問いいですか?」
「なんだ?」
「あの...それもパシュッっと出来ますか?」
やっぱりクリスは無駄に大人びたようだ
無駄に顔を紅らめて、妖艶にそんなセリフはいうもんじゃないぞ、まったく...
ちょっとイヤらしく聞こえちゃったよ──
◇
「ふむ...手に馴染むまでに時間がかかりますね」
クリスがカシャンッ!!シュパッ!と篭手を展開したり、収納したりを繰り返している
手に馴染むって...いや、もう十分使い方は慣れていらっしゃると僕は思うですが
ちなみにそろそろ晩餐会が始まる時刻になりつつあるので、遊郭でお姉さんたちと楽しくおしゃべりをしているだろうシルを迎えに行こうとしているのだ
一応酒は控えておけよ、とは言ったがシルも俺同様酔おうと思わないと酔えない体質だから関係ないか
別にシルが今日の晩餐会に出る義務はないんだけど、大陸会議で俺と一緒に護衛として参加するわけだから、俺の従者として認知してもらいたいというわけだ
「あ、アレウス様私も同行しますね」
「ん?あぁ了解」
ついていくということなので、俺はクリスの肩に手を乗せて、遊郭へと二人まるごと転移させる
「む、主殿ではないか。そうか、そろそろであるな」
「あぁそろそ─カシャン!─晩餐─シュパッ!─から、迎えに─カシャン!─だけど─シュパッ!─ってうるさいわ!」
「あ、すいません、ついクセで」
クリスが本当に「ついうっかり」と言った感じで俺には謝罪する
確かにあの展開+収納の繰り返しはクセになるのはわかるけど、人前ではやめておこうな?
「クリス殿ではないか、久しいな。大変綺麗になられた」
「シルさんに言われるなんて私も光栄です」
「ふむ、なかなか大人らしくなったものだ」
「ありがとうございます...シルさんには負けますが...」
クリスが半目でシルの豊かな胸を見ていた、まぁシルの胸と比べるのはあまりに無謀だろう
我が家1のナイスバディの持ち主だからな
「そういえば、そのドレスどっかで見たことあるな...」
「うむ、これはカトレアのやつを我用にミラがサイズ調整してくれたものだ」
どうりで見たことあると思ったよ、カトレアが着ていたやつか
「まぁなんにせよ、似合ってるぞ」
「我も赤いドレスを着るのは初めてだか、我ながらなかなかのものだと思っている」
カトレアは紅い髪とのマッチがよかったけど、シルの青みがかった銀髪とのコントラストもかなり綺麗だ
シルだったら大抵何着ても似合うだろうけどさ
「あらこれはクリスティーナ様、こんばんわ」
「あ、レイラさん、今日もお邪魔してます」
「今日も?」
「はい、ここの遊郭は私の王城脱出の時の隠れ蓑に時々させてもらってるんですよ」
「どういった経緯で?」
「あら、それはカグヤたちの伝に決まってますよアレウスさん」
クリスではなく、レイラが俺の問いに答えてくれた
俺の知らないところでこういう交友関係が広がってたんだな
「隠れ蓑として使わせてもらってる他にも情報を売ってもらってますね」
「情報?」
「はい、ここには様々な人が来ますからね、例えば王国軍の兵士とか...酔いの勢いで色々と話してしまうらしくて」
クリスはお姫様とは思えない、綺麗ながらも狡猾そうな笑みを「うふふ」と浮かべている
「私たちも高級化粧品などを代わりにもらってますから...ほら、お肌ツヤツヤでしょ?」
なんで肌の艶見せるために胸元を近づけてくんだよ、おい、だからニセ乳を近づけてくるんじゃない、とりあえず異世界のニセ乳クオリティ高いな、おい
「とりあえず晩餐会に行くとするか、クリスは一旦自分の部屋戻るか?」
「いえ、そのまま会場まで同行させていただきます」
「りょーかい、んじゃシルも行くぞ」
「承知した」
俺は適当にクリスとシルの肩に手をのせて、王城のホール近くへと転移する
晩餐会はまだ始まってはないが、既に多くの参加者が集まって立ち話などをしていた
クリスは入るやすぐに様々な貴族の子息たちに囲まれてしまった。おモテになることやら
そのせいで近くにいたおれが睨まれるというとばっちりを受けたが...とりあえずシルを下卑た目で見たやつだけは会場裏でお喋りでもしようじゃないか?
俺がどうしてやろうか、と思っていた時に後ろから声をかけられる
「久しぶりね、アレウス・アーレンハルト」
「お、マリー嬢、これはお久しぶりで。それにダミアン君も」
この会場で数少ない俺の知り合いだ、レインビア公爵家のご息女マリー・レインビア様だ、そして従者のダミアン君
2人はクリスの学園の友人だ、訳あって俺とも交友がある
「ひ、久しぶりだね、あ、アレウス君!」
「そんな緊張しなくてもいいんだぞ、ダミアン君?」
かしこまられちゃうと俺が困るからね
「それでその後の綺麗な女性はどなたかしら?」
「これはすみません、彼女は俺の従者のシルと申します。シル、彼女はレインビア公爵家のマリー・レインビア様だ、隣にいるのは従者のダミアン君」
「公爵、なるほど...我はアレウス・アーレンハルト様の眷属、シルと申す。以後お見知りおきをマリー殿、ダミアン殿」
シルが優雅に一礼をする
シルを見て、マリーとダミアン君が少し驚いた顔をする
「すごい綺麗な人ね...女を囲ってるみいな噂は聞いてたけど」
ちょっと?その噂は聞き捨てなりませんよ?
(いや、十分に事実でしょ)
女を囲っているという言い方は流石に悪意があるだろ...
「マリー様、彼女は俺の眷属ですからね?」
「わかってるわよ...しかし、これだとクリスの勝ち目は望み薄ねぇ...」
「クリスティーナ様がどうか?」
「いえ、なんでもないわ......ってダミアン!あんた何顔を紅くしてるのよ!!」
「ええっ?!」
いや確かにダミアン君顔真っ赤だよね、シルみたいな妖艶系の大人の色香を身にまとった女性に対して免疫がないのかもしれない
とりあえず2人で仲良く喧嘩を始めたので俺とシルは退散させてもらおうか
「なぁ主殿よ」
「ん?どうした?」
「我は主殿の眷属なのか?」
「え?いや...そうじゃないのか?」
「...いや、そうであるな。野暮なことを聞いてすまない」
いきなりシルはどうしたんだ?ちょっと唐突で驚いたな
「はぁ...アレウス様...」
「んー...クリスか、戻ったきたのか?」
「えぇ...邪魔者には全て消えてもらいましたから」
お前は大魔王か何か、クリスよ
「お姫様も大変だな、」
「そうですね、興味もない殿方と会話など時間の無駄です」
少し疲れ気味のクリスが毒を吐きまくる。とりあえずその毒が俺にまで及ばないのとを祈るのみだ
「とりあえず、そろそろ晩餐会が始まりそうですね」
「そうだな、そういえばなんか発表があるらしいが何か知ってるのか?」
「いえ、残念ながら私も知らなくて」
お姫様のクリスでも知らないことなのか、一体なんなのか
「そろそろ始まるようですね...」
クリスのその声がまるで合図であるかのようにホールの照明が落とされる。こういう時「暗視」のスキルがあるとドキドキ感が薄れるんだよなぁ
しばらくの後、バッととある場所がライトアップされる
そこには2人の男女がいた
その男女は俺も知っている2人だ
1人はステファニア・アクロイド、クリスの姉にしてイリヤ王国第一王女
そしてもう1人はバーバリード大公家のご子息ミカエル・バーバリードだった
「そんな...まさか...!!」
俺の隣に立つクリスが息を呑むように言葉を吐く
流石の俺でもなんとなく察しがついたぞ、2人は許嫁という関係だ、つまり...そういうことだろ?
「晩餐会の出席の皆様こんばんわ、バーバリード大公家長男ミカエル・バーバリードです」
ミカエルがマイクのような拡声の魔道具を用いて、喋り始める
「皆様のお時間をお借りして、発表させていただくことがあります」
少しもったいぶるかのように口を止め──そして、
「この度、私ミカエル・バーバリードとイリヤ王国第一王女ステファニア・アクロイドの婚約を発表します」
ミカエルがそう宣言すると、会場にどよめきが走る
やっぱりか、今日の晩餐会のメインは婚約発表だったということか。妹であるクリスにも内緒だったのは驚いたが、それだけサプライズにしたかったのだろう
そしてステフの挨拶の後、会場の照明がつく
2人は腕を組んで、段上からおりて祝辞などをもらっていた
「クリス、驚いた顔をしてるが知らなかったのか?」
「はい...関係が進んでるのは知ってましたが、婚約を発表するとは...」
そんな驚くことか?許嫁と認知されてるんだから、別に驚くようなことでもないと思うんだが
それにステフとは一年以上前から連絡もとることは無かった、察するにその頃からこの話は進んでいたんだろう
まぁ相手がいて俺と連絡とるってのはどうかと思うしな、俺は飽きたんだろうとか考えてんだけどそういうことだったのか
「アレウス様は、平然としてますね」
「ん?まぁな、特に何もないな」
「あの人のことをどうとも思わないのですか?」
「どうともって...別に幸せそうだなと思うけど」
あとは自分自身の結婚の件についても考えさせられるな
しかしクリスはまだステフのことを「あの人」呼びしてるのか、もしかして知らなかったのって姉妹喧嘩してるからとかなのか?サプライズとかじゃない?
「クリス殿、聞きたいのだが...ステファニア殿は、主殿のこと...」
「えぇ、そうでした...だけど...」
「ふむ、主殿への思いがその程度だったいうことか」
「それは......いえ、そうみたいですね」
後ろでシルとクリスが何やら話してるみたいだが、俺はグラス片手にステフの方を向いていた
俺が始めた出会った彼女からは想像もつかない柔らかい笑みと落ち着きをみせて、会場を回っていた、幸せそうだな
しかしこの調子だと、俺の方も回ってきそうだな
そして案の定俺たちのところまで2人は回ってきたのだ
「クリスティーナ様、それにアレウス・アーレンハルト君」
「どうもミカエル様」
「こんばんわ、おめでとうございます」
クリスは手短に、俺は祝辞を少し混ぜつつ挨拶を返す
「クリス、アレウス、楽しんでるかしら?」
「.........」
「えぇ楽しませていただいてます、ステファニア様。お久しぶりでございますね、直接お会いするのは二年ぶりくらいでしゃうか、お綺麗になられましたね、ご婚約おめでとうございます」
クリスがまさかの無言スルーをかましたせいで俺はなぜか慌てて無駄なことまで言ってしまった
「ふふ、綺麗になりましたか?ありがとうございます」
「あぁ...はい、どうも」
俺のこの時違和感を感じてしまった
目の前にいるのは確かにステフだ、目の前に見えるピンク髪だってそうそう忘れるものじゃない
だか、俺が知っているステフとは全く違っていた、まるで別人で中身だけが変わったかのように──正直目の前のこいつは誰だと疑ってしまうくらいに
「そうだ、ステフ彼に渡すものがあったんじゃないかい?」
「そうでした、しばらくお待ちを──」
そう言ってステフは近くにいたメイドに話しかけて何かを持ってこさせる、俺に渡したいものとは一体なんだ?
「これ、お返ししますね」
「返す......?」
最初はなんだこの黒い布は、と思ったけど、ゆっくりと俺の頭の奥にある記憶からそれが蘇ってくる
この黒い布......いや、黒いマントは──
「もう私には必要の無いものですから、お返ししますね」
俺はなぜかその瞬間ゾッとしてしまった
そうだ、これは俺が初めて王都に来たときの帰り際にステフに渡した俺の初代戦闘装備のマントだ
「お姉様!!なんてことっ──」
俺はクリスの声を制止することも含めて、腕を伸ばし、マントを受け取る
「あなた様のお役に一時でもたてたのなら私は満足です、これはもうお役御免のようですね」
俺は少し笑みを混ぜて、その言葉をステフにかけた
「これからは僕が彼女を守るからね、もう君は......必要ないんだよ」
「そうですね、マント共々お役にたてたのなら結構です」
俺はなんとか笑みを崩さずに答える
そして2人は何かを言って、俺たちの元を去る、なんて言ったかは覚えてない
「ふぅ......うん、流石の俺もショックだな」
欲しいと言われて渡したものをもう必要ないからと突き返されるのはかなりのショックだな
「主殿、あの2人──殺していいか?」
「やめろ、別に悪気は...あったかもしれんが、男の立場からしたら自分の好きな女が別の男からもらってるものを大事にしてたらショックだろ?そういうことだよ、俺も似たようなとこあるだろ?」
ずっと一歩後ろで黙っていたシルが厳しい顔つきで2人を睨んでいた
「しかし主殿に対するあの無礼な態度は──」
「シル、それ以上は本気でやめとけ、」
段々と殺気が混じりつつあったので俺はシルを無理やり止めさせる
「......とりあえず空気変えるために一回外出るか、クリスも来るか?」
クリスはただ何も言わず首を立てに降った
俺はどうしてかため息つきたくなる気持ちになりつつ、晩餐会でお馴染みのテラスへと足を運ぶ
シルはあのままだと機嫌が悪そうなままだったので、遊郭へと帰す
レイラがなんとなくシルの雰囲気を察していたから、話し上手なあいつならなんとかしてくれるだろう
「なにそんな怒った顔してんだ?」
「すいません、シルさんほどではないですが...あの人の態度が許せなかったもので」
「別にステフは態度悪くなかっただろ?「こんな汚いボロ切れなんて、もういりませんわっ!!」と投げ返されたら、態度に問題あるんだろうけど」
「......その方がお姉様らしくありませんか?」
「......確かにな、」
確かにステフだったらそっちの方がらしいのかもしれないな
「お姉様は変わりました、以前の面影など全く見えなくなるくらいに。最初はアレウス様との約束だと思っていました、ですが月日が立つほどに前のような態度が見えなくなっていき、ついに別人のように変わってしまいました。私はその変化を一番近くで見てきました、そしてあの人の変化とともに私はあの人と関わらなくなってきた」
二年ぶりに会えば、変わるもんだろと俺の口からは簡単に言えるが、クリスは今言った通りずっと近くだステフの変化を見てきたわけだ
「まぁでも、幸せそうだったからいいんじゃないか?」
「アレウス様は...いいんですか?」
「何度もいうが、ステフが幸せなら俺はそれでいいと思うぞ......って、俺はなんの立場で言ってるのかはわからないけどな」
「やっぱり自覚なしですか.......まぁアレウス様がいいのでしたら、私もかまいません」
とは言いつつ、顔は納得してないみたいだな
「しかし、さっきの俺はカッコ悪かったな」
「そうですね、私の知ってるアレウス様だったらふざけるなとおっしゃって拳を突き出してたでしょう」
「ごめん、それは俺の知らないアレウス様だわ」
つくづく思うがみんなの俺のイメージってなんなの?
(え、それはロリコ──)
あ、ごめんなさい、エリーナさんの話は聞いてませんので
「しかし毎回晩餐会で何かある度にテラスに来てるな」
俺はエリーナの(扱い雑です!!)という抗議を無視して、適当に話題をふる
「ふふ、その手すりを背もたれにする姿はなかなか様になってますよ、そうだ、いつかそこにアレウス様の銅像建てますね」
「なんの嫌がらせか知らないが、絶対にやるなよ?」
ほんとにやるなよ?フリとかじゃないならな??
くだらない話を混ぜつつ、俺とクリスが夜風に当たりながら空を眺めてると、テラスに新たな来客がくる
「おぉ、ここにいましたかクリス様──」
「はぁ...」
「うっ──(ドサリ).....」
クリスが慣れた手つきで、篭手を展開させて、流れるような動作で麻酔針を放った
倒れてる男性をよく見れば、イリヤ王国国王軍将軍ドルグ将軍の息子さんドルガだった
クリスにいいよってた人だったっけ?
「ふぅ...ある意味丁度いいところに来てくれましたね、スッキリしました」
「いや、お前なぁ......うわ、見事に首に刺さってるな」
俺が倒れてるドルガを確認すると、綺麗に首に細い針が刺さっていた
「私の腕でしたらこんなものですかね、出来れば目とかに撃ちたかったんですが」
なんて晴れ晴れした顔でいいやがるんだ、こいつは......
まぁさっきの怒った表情が消え去ったと思えばいいものか、ドルガ君は完全に噛ませ君だけど、その代償として役立ったみたいだな──
お読みいただきありがとうございます
徐々に6章の一つのテーマが垣間見えてきました




