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地鍛冶屋から  作者: 一滴
第一章 転生と始まりの始まり
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もう一人の日常

熊淵梁賢(くまぶちやなさか)視点です。

「……ン?」


 かすかな殺気を感じて目を開けた瞬間、静かな風切り音とともに天井が割れて崩れ落ちてきた。


「くぅぁ……はぁ」


 その岩盤を、伸びとあくびをしながら伸ばした手で受け止める。

 ピタリ、と崩れだしていた岩が止まり耳を叩いていたうるさい音が止んだ。寝起きに襲いかかられると殺意がわくが、今日中にここは引き払ってヒュアニークに移る予定だったから手間が省けたと考えよう。


「ー……ー!」

「……ーー……ー……!」


 外で数人の敵がわめいているのが聞こえる。とにかく今はこの頭上の岩をどうにかしないといけな……ん?


「……ああ、おはよう」


 頬に当たるほのかに温かい感触。大きさ二十センチほどの子供のサラマンダーである『ムツキ』が俺に頬擦りしていた。

 挨拶しながら軽く撫でてやっていると、耳に風切り音が響いた。次の瞬間突風と炎が瓦礫内に入り込んできた。外の連中がやりやがったな。周りが一気に炎の海に包まれるが、ムツキが炎を吸い込んで引火してくれた。サラマンダーはこういうことができるからほんと便利。

 頭を撫でてやるともっと撫でて欲しそうに頭を擦り付けてくるからとても可愛い。前世の妹みたいだ。

 ムツキとの出会いは色々ありすぎるんで省略させてもらうが、いろいろと重宝している今の俺の相棒だ。


「それじゃ、打ち合わせ通りに」


 昨日のうちに決めておいた作戦通りに指示を出し、うなずいたムツキは岩の間を縫って外に出ていった。

 サラマンダー達の集会を終え、長老の世話になりながら五歳になった俺は面倒な連中に目をつけられ度々消されかける生活を送っていた。探索区域を広げた一年前、長老に教わった村、『ヒュアニーク』を一瞬チラ見しに行った事があったんだが、その次の日から追っ手がかかるようになった。見つかるようねヘマはしていない筈なんだがな。今度ちゃんと見つかった理由をよく調べておこう。


「フンッ!」


 とにかく、天井を埋め尽くす瓦礫を力任せに弾き飛ばす。外はヤツらが切って拡張したのか、小さな運動場ほどの広さになっていた。


「チッ、やはり生きていたか!」

「今がチャンスだ、叩き込め!」


 四方八方に飛んだ岩を難なく切って防ぎながらこっちに再度斬撃を飛ばしてくる黒いフードの集団。彼らの正体は大体想像がついている。大方ヒュアニークの長達が放った裏仕事担当の特殊部隊だろう。

 まずは小手調べとでも言うように、着弾地点が破裂する斬撃が飛んできた。素手で受けると皮が剥けるから、地面の石を斬撃に斜め横に当たるように投げて迎撃する。


 しゃべれるようになってすぐ、俺は石碑を長老と数人の知恵をつけたサラマンダーの側近達に音読してあげたらひどく驚かれた。正直俺も驚いた。驚く事ばかりで何から話せばいいかわからないが、まず最初に言いたいのはここが地下千階層と言う地の底だって事。そしてこれから向かうヒュアニークの長はクズが多いだろうという事だ。

 石碑には昔、六つのプラント、いわゆる村があったと書かれていたが、その内二つをヒュアニークの長達は意図的に崩したと書かれていた。理由は一応書いてあったが、どんな理由があろうとも数十万人が住むプラントを二つも予告無しで崩す連中だ。命を粗末に扱いすぎて腹が立つから俺は嫌い。とにかくヒュアニークの長達にはしっかり警戒しておかなければなるまい。二つのプラントを住民もろとも崩して殺す非情な連中だ。迂闊に近づくのは危険だろう。


 斬撃が止んだら、今度は炎の斬撃を放って来た。数人が一気に放つものだから炎が壁のようになって迫ってくる。その熱は通過した岩石が熔けるほど。

 対して俺は手のひらをおもいっきり振って強引に風圧を発生させ、一瞬の隙間を炎の壁に作り、そこに体を滑り込ませて回避する。

 回避した先には水の斬撃が構えられており、炎の壁を抜けた俺を水圧で叩き潰そうとしてきた。特殊な結晶の粉末を大量に含んで真っ黒に染まったその水は、直撃した地面の岩盤に陥没を作るほどの威力がある。俺は後ろに大きく飛んで避けた。服が汚れるからくらうのは避けた方がいいだろう。ちなみに服はヒュアニークのゴミ捨て場から拾ってきた。


 ムツキには長老達に連絡を頼んでいる。その後はヒュアニークで落ち合う予定だ。追っ手がかかるようになってから長老達とは距離を取り、連絡はムツキを通してしかやらなくなった。ただ、毎日毎日返ってくる返事が『寂しい』しかないのはどういう事なのだろうか。この頃ちょっと心配だ。追っ手は来ていないらしいから単に寂しいだけみたいだが、その内寂しすぎてこっちに来るんじゃないだろうか。大人しく教えてあげた将棋やってろよ。気に入ってたでしょうに。

 メシは自分で調達しなければならなかったから、食べれる結晶や酸の湖に住む魚やらを食って生き延びてきた。

 そうやっていると嫌でも自分が漁師の仕事を好いていたかますます実感する事になってしまい、俺は海の上にいなければ生きていけない人間なんだとますます自覚するはめになった。落ち着かないのだ。時々海が恋しくて恋しくて恋しくてたまらなくなる。だから俺は外に、海にもう一度漁に行くために千の階層を登る事を決意した。


 やつらを殺すつもりは無いが、気絶させるのも面倒だから逃げることにしよう。しかし、足をムチのようにしなる剣に絡め取られて逃げられなくなってしまった。体が固いからそうそう簡単に切れはしないが、服がますますボロボロになるからやめてほしい。俺に露出性癖はない。

 俺が動けないと勘違いしたやつらが、今度は変な軌道を描く斬撃を放ってきた。しかもきっちり俺に当たるように軌道も完璧だ。だが、そもそも足にムチが絡まっているだけで動けない訳ではない。地面の岩盤を力任せにめくり上げて強引に盾にする。ここらへんの岩盤は固いお陰で表面にうっすらと傷が付く程度で斬撃はとめられた。不規則な軌道を描く分、斬撃の威力は低いらしい。


 サラマンダーの巣で暮らす間、知恵を持たないサラマンダー達が俺をエサにしようとしてきたから返り討ちにしていたらいつの間に敵う敵がいなくなっていた。他にも溶岩スライムやら、巨大岩石クモやら、ミニマムネズミやらが俺に喧嘩売ってきたから返り討ちにしていたらさらに敵がいなくなった。

 どうにも俺は生き物を気絶させたり殺したりすると、経験値が入ってレベルが上がるゲームのように強くなれるらしい。なにせ先日倒せなかったバケモノが、他のバケモノを倒した次の日にはさほど苦労せず倒せるようになるのだから決定的だ。いくらなんでも成長が早すぎる。明かりが少ないから自然と目も闇に適応してきたし、寝ている時でさえ襲ってくるバケモノ達のお陰で不意打ちにも強くなった。何よりサラマンダーの火炎放射や体当りをくらってもさほど痛くないし火傷もしなくなったのだから間違いない。


 非常識な防御方に連中がわめいている間に、足に絡まったムチを素手で掴んで力任せに引っ張り、その剣を握っていたフードの一人を強引に引っ張ってフルスイングで投げ飛ばす。ボーリングのピンのように数人巻き込んで吹っ飛んだ。

 いよいよ怒り顔を隠さなくなって来た連中が、今度は無数に分裂する斬撃を飛ばしてきた。避ける隙間は無し。さっきみたいに岩盤を持ち上げて盾にしても数で切り崩されるほど多い斬撃だ。

 ちょっと本気を出して目の前まで迫った斬撃を殴り付ける。乾いた破壊音と共に無数の斬撃がガラスが砕けたかのように割れた。

 しかし、これは囮。

 斬撃の壁の向こうでは、初めて見る『槍』が取り出されていた。

 初めて見る、というのはあの形の槍を初めて見たではなく、槍そのものをやつらが持ってきたのを初めて見たという意味だ。やつらは今まで剣しか使って来なかったからどんな威力があるのか少し楽しみ。おめがねにかなったらもらってやる。

 その槍は四人も人がいなければうまく持ち上げられないほど重いようだ。左右に二人づつついてなんとか投擲。一メートル飛ぶか飛ばないかぐらいの速度でしか投げることができていなかったが、空中に投げ出されたその大槍が、途中で急加速した。しかもかなりの速度が出ていて、まるで風をまとっているかのように周囲の岩石をガリガリ削りながら俺に向かって飛んでくる。


「ほぉ」


 回避行動を取ってみるが、誘導機能までついているのか軌道が変わってしっかり俺を追尾して飛んでくる。俺との距離が残り十メートルほどになったとき、俺は無意識に笑って呟いていた。


「合格だ」


 ガシッ、と掴んで受け止める。

 文字通り、そのままの意味で、その通りの絵面で、大槍を両手で掴んで受け止めた。

 十分な威力と機能。申し分ない。多少持ち歩くには大変だが、そこら辺も特に問題は無い。

 ありがたく、


「もらっておく」


 ポカンと口を開けて呆然としている彼らに一言残し、俺は走ってその場から逃げた。


 そう。成長著しい俺の体は、特に筋力の成長が常識外れだった。崩壊する地盤すらも受け止められるようになってしまったのだからいろいろおかしい。しかもなぜか力加減を間違う事も無い。俺の体がバケモノやあいつらを返り討ちにする度に勝手に強くなっていくものだから、幼少期の三歳の頃から今までの三年間は戦い続けの積み重ねだったから、筋力が大変なことになっているはずだ。自分の筋力が真面目に恐ろしい。

 しかし、それでもまだ足りない。石碑に書いてあった千の階層を登りきるには筋力だけではダメだ。階層一つ一つについてはあまり情報が記されていなかったが、それでもわかる範囲だけでも非常識な難易度であることは容易に想像できる。

 外に出るためにはもっと力と知識が必要だ。

 知識をもっと集めなければ。

 図書館とかはないのかな。

 もしくは学校。

ソルク・ウォーハン

種族  人間

ジョブ 漁師

Lv42

HP 12653

MP 0

体力 1253

筋力 ーerrorー

敏捷 815

耐久 5481

器用 Lv8

精神 Lv7

五感 Lv8

称号  『呪われし種族』『縄師』『?』

スキル 『ステータス』『?』


数字はほとんど適当です(ボソッ)

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