イジェットの日常
イジェット視点
俺はイジェット。
前世名、西咲鋼太。
俗に言う転生者だ。
親友と川の側を歩いていたら行きなり銀色の何かに食われ、気づいたらこの世界に転生していた。
こういうフィクションマンガのような世界には少し憧れていたから、落ち着いた今は嬉しく思っている。
サイクロプスとして産まれた時、まだ生きる事ができる喜びより前世の親に仕送りが出来ないことと、親より先に死んでしまった事への罪悪感で絶望して三日間ほど放心状態になり、開き直るのに時間がかかった。しかし、立ち直った今は皆のために自分を鍛えて役に立つ事が目標だ。
将来の目標は、最初は外に出る事だったのだが、親に話したら叱られて最後には泣かれた。何でも上に登ることはとても恐ろしい事と言われ、不幸を呼ぶらしい。ドワーフやサイクロプスにとって上は悪、下は善、らしい。
親にはあまり苦労掛けたくないから諦めようと思うのだが、なかなか未練がましく記憶に焼き付いているせいでふとした瞬間思い出して恋い焦がれてしまうのを止められない。ここに転生してからというもの全く太陽や空といった話題も単語も聞かない。そもそも存在するのかどうかすら怪しい。いい加減諦めたいが忘れられないのも事実。
将来どうするかはもう少し成長してからでもいいだろう。
サイクロプスの特異な能力は三つ。
一つ目は第三の目を使っての鉱物探し。
サイクロプスは鉱物の発掘と加工に優れた種族らしく、少しだがどこに鉱物が埋まっているか匂いみたいな物が感じられる器官、第三の目を額に持つ。つまり鉱物、結晶を見つける事にたけている。
二つ目は固い皮膚。
岩石並みに固く、一回ビーズ君にハンマーで叩いてもらったが全く痛くなかった。
三つ目は、体内に内包されている熱。
どういう原理かサイクロプスは体内の特殊な熱を体外に放出することができるらしい。サイクロプスはこの能力を使って岩石などを加工して、ただの石に能力を付与するらしい。ビーズ君が熱中している衝石もサイクロプスが作っていた。自然生成された物質じゃなく、サイクロプスにしか作れない石だからこそ需要も高く、前世の親とは違い、現世の親は金持ちだった。
まだ加工に使うハンマーでさえ自由に振れない俺は、腕立てや腹筋と、とにかく筋力を上げる必要があるため筋トレをしていたのだがそれだけじゃダメな気がする。なにより暇だし飽きた。
と言う訳で発掘仕事をしてる現在の親父に付いていこうとしたら母さんに全力で止められた。何でも地下だから地崩れが起きると発掘隊は生き埋めになりやすいらしい。大人のサイクロプスはそこいらの鉱石や鉄より固いから生き埋めになっても自力で這い出る事ができるらしいが、それでも運悪くサイクロプスより固くて重い鉱石にサンドイッチにされたりして死んだヤツも結構いるから、子供はダメらしい。
しょうがないからそこら辺に埋ってる鉱石や結晶を取ってもいいかと聞いたら許可が出た。
そういうわけで現在何か面白い結晶や鉱石が無いか散歩しながら探しているところだ。袋と発掘用のスコップ、そして腰には鉄の糸。家と俺を繋いでいる。道に迷っても糸をたどれば迷わないから洞窟を探検する時の必需品だ。
ちなみにカンテラや懐中電灯みたいな明かりは必要ない。サイクロプスの目は闇をとらえてモノを見るらしい。確かに光が多いところより闇のなかの方が視界が良好だ。
後驚いたのが時計があった事。しかも超複雑なぜんまい式。カッコイイ。針が一周し時間が来たらアラームが鳴る仕組みらしいから、それまでに戻らねば母さんがかわいそうなことになる。心配が度を越すと泣くんだよ母さんは。
ちなみにヒュアニークの一年は365日の長さだが、太陽が無く月も無いから60個のマスが彫られた秒を現す地球で馴染みの小さい時計一つと、5で割られた73個のマスが彫られた365日を表す大きい時計一つ。24個のマスが彫られ上下を黒と白で半分に別けられた一日を現す中ぐらいの時計一つ。73個のマスが彫られた大きい時計一つ。これが一年と日付と時間と昼夜を決めている。
これが一年の日付と時間と昼夜を決めている。白黒の昼夜は俺が勝手に言ってるだけで、実際は起きて仕事をする時間と寝る時間を区別したものだと思う。
外の岩壁にデカデカと設置されてるから一目でわかった。
人気が無く知らない場所を通っているが好奇心に任せて突き進む。
普通の子供が遊んでる場所から少し離れた場所に洞穴、と言うより亀裂みたいなものがあったから好奇心にまかせて入ってみる。
「……おおお?」
そのまましばらく歩くと形のイビツな石の柱のが乱立する場所に出た。人工物には見えないから自然物か。手の届く範囲にあまりいい素材はありそうに無いな。でも天井がじゃっかん光ってて綺麗な場所だ。
そして匂いがする。これがサイクロプスの勘なのか、第三の目が天井に点在する鉱物とか結晶とかがそうそう手に入らない上物だと教えてくれる。
でも大人達がハシゴを持ってきても届きそうにない。ガッカリだ。ざっと100メートル位上の高さにあるからな。ちなみにサイクロプスの大人の身長は大体250センチ以上。俺はまだ100にも届いていない。
仕方なくそのまましばらく進むと今度は湖みたいなところに出た。湖の底に発光する鉱石があるな。あれは使えるかも。
「いって……!」
しかし、荷物をおろして湖に潜ろうと手をのばしたら、水に触れた瞬間激痛がした。
あわてて手を引っ込めて手を確認する。大ケガにはなってないな。強烈な酸で溶かされるみたいな痛みだった。何だったんだこれ? これじゃあ潜れない。石は諦めるしかないか。これまたガッカリ。
もっと奥に進んでみよう。時間あるし。
その後、ちょっと変な石をゲットしてたら時間が危なかったから急いで帰った。
最後に見つけた石は父さん達も知らないしそもそも見たことも無いらしい。
「石にしか関心示さない癖にイジェットの質問にも答えてあげられないってどう言うこったい! この役立たず!」
「なんだと!? そもそも新しい石なんざ毎日毎日新しいのが産み出されているんだからわかるわけないだろ! 俺に当たるなイデデデデデ!」
別に気にしてないんだからそれだけで喧嘩しないでよ母さん。まったく短気なんだから。
父さんにはその後羨ましがられたが、くれとは言われなかった。取った物は取ったヤツの物、ということらしい。そもそも見たことない石が見つかることもそこまで珍しい事でも無いらしいし。
口喧嘩している二人はソッとしておいて、俺は加工部屋に入って今回見つけた石の錬成圧縮調合を始める。
結合させたい石を両手に持って擦り付けながら、体内にあるエネルギーを両手から放出する。真っ黒な炎のような煙のようなものが出ながら石が真っ赤に発熱し、両手に持った石がゆっくりと結合し始める。両手が合わさる頃には、二つの石は一つに融合して錬成は終了する。この時二つの石を余すところなく全て融合させなければならないのだが、これがかなり難しい。ちょっとでも元の石の部分を残すとそれだけで価値が下がってしまうし、純度も下がって加工が難しくなる。
大人になれば粘土みたいにこねたりできるようになるらしいが、俺みたいな五歳児の手では小さすぎるし、そもそも筋力が足りなくてできない。この先は俺の課題だな。
出来上がった石はまだ完璧に調合できていない不完全な粗悪品だ。ここもまたよう練習だな。
「ああそれと、イジェット。近い内に学校に入学してもらう予定だから幼馴染み達にも話しとけよ。多分アイツらも入学して来るだろうけどな」
口喧嘩が終わったのか、部屋に父さんが入ってきた。
相変わらずノックしない人だ。いや、サイクロプスか。
それにこの世界に学校ってあったんだな。
「うん、わかった」