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地鍛冶屋から  作者: 一滴
第一章 転生と始まりの始まり
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マリーの日常

マリー視点です

 どもー、お久しぶり~。

 キツネの獣人、ぴっちぴちの5歳児幼女、マリーや。(精神年齢19歳)

 今ウチは食料の調達と修行のために、プラントの外側に向かいよる。

 ここには『サラマンダー』って言われとる燃えるトカゲがおって、その肉がたまらなく美味いから修行と小遣い稼ぎのため、そして来るべき大会出場のため向かいよる。

 サラマンダーは死ぬと色が抜け落ち、燃えるオレンジ色からくすんだ灰色みたいな色になる。切った断面を見ると肉まで灰色になる。ホンマに食えんのか? 思ったら、仕留めた直後は生でもいけたけん驚いた(まあ、もともと燃えとるトカゲやけど)。マジ美味かった。釣りたてのマグロってこんな感じなんかな~って少し漁師の気持ちが理解できた瞬間やったわ。

 そんでもう一つの理由は、サラマンダーの単独撃破が獣人の大会参加条件やからや。毎年の大会にあんだけキラキラした目を向けとるビーズのことや。十中八九大会に出場することを目指すやろうから、アイツの作る剣に釣り合うようにウチもがんばらなな。ビーズの役に立つために。

 しかも、ウチは大会の出場者に致命的な弱点を見つけとる。

 みんな武器しか見てへん事や(ビーズもやったけど)。確かに剣は宝石みたいできれいやったけど、使い手が貧相過ぎやわ。何なんあれ。大人でさえ動きは素人以下のヨチヨチ剣術や。獣人だけ多少振り慣れたマシな剣やったけど、それでも違和感だらけや。殺し合いにはほど遠い間延びした感じの腕やった。

 完全に剣に使い手の実力が剣に釣り合ってなくて違和感マックスやった。

 実際に剣道やら武術やらを習ったわけやないけど、マンガや映画はたくさん見とったし、前世の父ちゃんに連れられて一回本物の武道の試合やって見たことやってある。それと比べたら明らかに動きが悪いし、重心は定まっとらんし、動きもぎこちないし、極めつけは何で一発斬撃放ったらそれで一旦終了なん?

 連続で撃たんかい!

 何で一発放ったら「ふぅ~」みたいな顔で一休み入れとんねん。あれは試合のマナーみたいなものなんやろうか? 無視したらあかんのやろか? めっちゃ無視したいんやけど。

 まあどっちにせよ、あのまばたきの間に飛んでくる斬撃くらいは避けられるようになろ思うて、今ウチは単身でサラマンダーの巣に向かいよる。

 最初はあんなヨチヨチ剣術の連中でも狩れるんやからサラマンダーもそんなに強くは無いやろ、ヨユーヨユー、とか思っとった時期がウチにもあった。サラマンダーって火を吹くトカゲって聞いとったけど、全然ちゃうねん。全身火だるまのバーニングトカゲや。なんか換気口みたいなものが肩や背中に生えとるし、何より大きいいやつは5メートル近い。

 一回、母ちゃん達食料調達チームと一緒に狩りに来た事があったとき、心底驚いたんはまだ記憶に新しい。「ガチモンや、ガチモンの恐竜がおる~!」ゆうてビビって逃げたけんなぁ。母ちゃんに首根っこひっつかまれて逃げれへんかったけど。猫の気分がちょっとわかった気がする。

 そんて肝心のサラマンダーの倒し方なんやけど、母ちゃんが腰にさした剣。ビーズの父とイジェットの父が協同開発した最高傑作、『ラーギラ』がサラマンダーに向けて構えられ、一線。後に轟音。トカゲは死ぬ。それだけやった。


 そんな数ヵ月前の事を思い出しながら歩いとったら、とうとうサラマンダーの巣穴に到着。中からはほんのりと熱気と光が見えとった。サラマンダーは匂いがマグマの硫黄の匂いに生物の生臭さが合体したような独特の匂いがする。そのお陰で見つけるのは簡単や。

 問題は、こいつをあのマジキチ剣を使わずに、いかに綺麗に余裕を持って倒せるかってことや。

 一応マジキチ剣でサラマンダーを倒したとしても大会出場は認められる。と言うか、すでに数ヵ月前に母ちゃんと一緒にサラマンダー狩りに行ったときやらせてもろうたけん、ウチはすでに大会出場権を持っとる。あんまりにも簡単過ぎるから大会の獣人達の動きは悪いままなんやろうけど。ウチはちゃう。それだけで満足しとる獣人の皆とウチはちゃう。しっかり実力をつけたるためにウチはギンギラ剣を使わずにサラマンダーを倒したるわ。

 巣穴を前に、ビーズに頼んで作ってもろうたナイフを取り出す。

 何でわざわざこんな場面で5歳児の子供の作品を取り出すかというと、一般的な市場で売られとるほぼ全ての剣は、捨て価値でも名刀と呼ぶしかないほどの切れ味がおかしいものしか売られとらへんからや。恐ろしく頑丈、凄まじい切れ味、吸い込まれそうな深い色、様々な剣やナイフがところ狭しと並べられ、ほとんどタダに近い価値の剣ですら鉄をバターのように裂きよった。

 そんな感じやからサラマンダーを倒せへん武器がそもそも売られてへん。どいつもこいつも簡単にサラマンダーの鱗を貫き骨を断つから市場の剣で狩りに行ってわずか数日でサラマンダーを無傷で殺せるようになってもうた。それからさらに数日でどう綺麗に殺すか考えるようになっとるせいでほとんど作業ゲーみたいになっとる。お陰で自身の成長がいまいち実感しずらくなってもうた。

 やから無理言ってビーズに頼んで性能の低いナイフを作ってもろたんや。

 前世でスタンガン改造すんのが趣味やったウチはちょっとこった要求をしてもうたんやけど、ビーズは難なく作ってもうた。

 五歳児でこんだけしっかりした物を作れたってのが素直にすごい。ちゃんと握り心地はええし、刃の部分はちゃんと切れるし、何よりウチの要望にちゃんと沿って作られとる。ホンマに五歳児かいな?

 あの子、将来はガチで大物になるな。恋とかノロケとかやなくガチでなる。確信できるわ。さすがはマジキチ剣を作った男の息子ってとこか。

 何よりオーダーメイド品や、オーダーメイド品! ビーズがわざわざウチのために作ってくれたオーダーメイド品や! 絶対放さへん! だいじにするでぇ~。


 のろけよったら三匹巣穴から出てきよった。

 目の前に現れた三匹のサラマンダーを睨み付け、その一挙一動を見逃さんように神経を研ぎ澄ます。

 真ん中の一番手前におったサラマンダーの喉がわずかにふくれた。


(ブレスが来るな)


 その前に隣におったサラマンダーが燃え盛る尻尾をムチみたいに上から振り下ろしてきた。

 まずは回避。

 大会で飛びかう斬撃よりは遅いムチを軽くジャンプして横に避け、一気に姿勢を低くする。

 直後、頭上を炎が通過した。

 ブレスが途切れた瞬間、逆隣におったサラマンダーが火だるまになって体当たりをかましてきた。

 両腕をクロスして受け止める。

 これは怪力と防御力、そんで火耐性の鍛練。

 どうもウチらキツネの獣人は熱に強いらしく簡単には焼けへんらしい。熱に強く火にも耐性があるんなら鍛えれば直で耐えることもできるようになるんちゃうかな、と思って頑張ってみたらあんがい何とかなった。

 そして怪力は狩った獲物をプラントまで運ぶ作業で鍛えられた。近頃五匹は軽く狩りよるから重量はすでに二トン近くは軽く持ち運べる。五歳児の幼女が二トンくらいのトカゲを運んでる姿は中々シュールや。この世界で理屈は通じんのはダイヤモンドを噛み砕いて食しとるビーズを見てもう開き直った。

 受け止めたサラマンダーを力任せにぶん殴る。

 鱗にヒビをわざと入れないように吹っ飛ばしたサラマンダーが、後ろでブレス準備しとった一匹に激突。

 一緒につぶれたサラマンダーをかばうように前に立つ最後の一匹から、ウチはいったん100mほど離れてスタートダッシュの姿勢をとる。


「お次は速さと繊細さや」


 足の裏に力をため、構えた姿勢から一気にトップスピードへ。

 100mを数秒で突っ切り、手前のサラマンダーの首筋にある大きな脈をすれ違いざまにかっ切る。

 そのままの速度で重なっとった残り二匹の首筋も切る。

 綺麗にパックリと開いた傷口から、ほぼ同時に血しぶきが飛んで周りを赤く染め上げた。

 ナイフに刃こぼれ無し。

 どうも獣人って身体能力が桁違いらしく、いろいろ前世では運動音痴やったウチとしては嬉しい限りや。これでビーズの役に立てるわ。

 結果に満足していざ運ぼうと振り向いた時、小さな人影が視界に写った気がした。


「……子供?」


 五歳児の自分は棚に上げて疑問に思った。

 一瞬だけ見えた姿は、どう見ても子供やった。

 でも、体の節々にオレンジ色のスジが入ったような姿しとった。

 あんな種族おったっけな?

 何しとったか知らんけど邪魔せんのやったら別に問題ないな。気にせず行こ。

 いつも持ち歩いとる鉄糸をサラマンダーに巻き付けて引きずっていく。

 サラマンダーを売った後、もらった金でちょっとした買い食いをしながら家に帰ったらおかえりより先に母ちゃんからこんな言葉が飛び出した。


「マリー、もう少ししたら学校に行ってもらうからね~」


 学校あんのかい、ここ。

 うぇ~、めんど……


「ビーズ君も一緒よ~?」

「その学校っていつから!?」


 それをはよ言うて~な~♪

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