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地鍛冶屋から  作者: 一滴
第一章 転生と始まりの始まり
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ビーズの日常

ビーズ視点

 真っ赤を通り越して黄金色になるまで熱した炎がゴウゴウと音をたてながら鉄のインゴットを真っ白になるまで熱っしている。

 それをハサミで取りだし、親父のお下がりの金槌で叩き伸ばす。

 縦に伸ばしたら折り曲げて、今度は横に伸ばすように叩いてまた折り曲げる。

 集中して叩いている時、鉄の塊であるはずのインゴットからは、なんだか形容し難い声のようなものが聞こえてくる事がある。


『ここを叩け。そこは強く。ここは優しく。そこは丁寧に。ここはしっかり。そこは念入りに。ここは勘の(おもむ)くままに』


 こんな感じ。

 これがドワーフの持つ能力の一つ、『勘』なのだろう。

 無視して叩けば気分は悪くなるし、完成しても物足りないモノになる。しかし、聞こえた通りに叩けば気分もよく、完成度もより高くなる。


 どうも、五歳になりました。ビーズ・ドロットです。

 五歳になったおかげで父ちゃんの仕事場の隅っこを借りて鉄を叩くようになりました。材料集めに母ちゃんと買い物に出たりして、できることが増え暇から解放されてご満悦な今日この頃です。まだ一人で出歩かせてもらえないのは残念でしょうがないけど。

 いろいろやらせてもらえるようになってから作ってみた換気扇は母ちゃんに大好評だった。作って渡した日は一日中ご機嫌で、俺にかなり高いハンマーを買ってくれたほどだった。

 以外と作るのは簡単だった。ここ、ゼンマイはもちろん、『転石』とか言うひとりでに回る石とかがあったお陰ですぐ作れた。まあ、プロペラ部分の形はイビツだが、機能はしてるから目をつむってもらおう。

 しかし、母ちゃんに対して父ちゃんには大不評だった。あの煙りはドワーフの父ちゃんにとっては健康剤のようなモノだから、それから十日間ほど親父は口聞いてくれなかった。確かに半分ドワーフの血が混ざっている俺も少し気分が悪くなったような気がするけど、できれば喜んで欲しかったな。

 家族会議の末、換気扇は台所と母ちゃんの寝室のみ稼働を許されたが、それだけでも母ちゃんは満足してたから作ってよかったと考えよう。


 俺はこの頃親父の仕事場の一部を使わせてもらいながら、思い思いの剣を作らせてもらっている。

 俺の今の目標は『衝石』を叩けるようになることだ。なぜなら、衝石を叩けるようになることが【大会】の参加条件だからだ。

 俺が鍛冶師を目指そうと決めてからさらに数日後、あの長い名前の大会があった。そこで受けた衝撃はいまだに俺の胃袋の深いところで煮えたぎっている。


 正式名、『エネイブル・テトラド・クリスタル』


 語呂が悪いしセンスも悪い。だがバカにすると、散る。己の全てを掛けてるやつらが多すぎて冗談抜きでチリにされる。いや、誰よりも先に父ちゃん達にぶん殴られる。

 年|(365日らしい)に一回行われるこの大会は、四つある村、『プラント』全てで同時に行われ、四つ全ての村の中で鍛治師の頂点を決めるものなのだが、この村の鍛冶師は化け物だ。そして彼らが打つ剣はまさに魔剣とか聖剣の類だ。

 何が言いたいのかと言うと、この村の鍛冶師の半数以上が勇者の剣を独自に個人で作ってしまうようなインフレ鍛冶師ばかりだと言いたいのだ俺は。

 それを知るきっかけになったのが、あの大会。詳しい話は省くがヒュアニークとは四つに別れたプラントの総称で、俺が今住んでるここがドワーフが多く住んでいるドワーフプラント、人間の多いヒューマンプラント、獣人の多いアニマルプラント、サイクロプスの多いサイクロプスプラント、合計四つのプラントがあり、それぞれに『歴四』と呼ばれている四人の最高責任者がいる。そしてプラントは全て逆円錐台の形をしていてプラントの底にある十ヶ所に別れたコロシアムで試合が行われる。

 俺が住んでいる場所からは試合が全てよく見えたんだが、そこで行われた試合ほぼ全てで常識外れの剣が試合会場を破壊しながら振り回されていたのが記憶に焼き付いている。

 オノとかヤリとかは一切見当たらず、使われているのは一種類。シンプルにして王道の騎士が携えるような『ロングソード』一種類だけだった。

 灼熱のように鮮やかな紅色の剣。深海のように深い蒼色の剣。森林のようなさわやかで濁りの無い深緑色の剣。刀身から持ち手まで全てが一つの鉱石、クリスタル、宝石で創られていて、物理法則をガン無視するようなめちゃくちゃな剣だった。

 その威力は一振りで地面に亀裂が入り、刀身が届いていないはずの場所までその切り口は広がる程。しかもそれを受ける側はさらに強い斬撃で打ち消し、さらにそれを他の選手が打ち消し続けるという、斬撃のキャッチボールが繰り広げられてい

 二次元世界ではよくあることでも現実で見るとほんと納得するのが難しいわ。斬撃が飛ぶとかどう言うこっちゃ。避けるの無理だろ。

 しかもそれが参加者ほぼ全員の手に握られている時点でふざけてる。


 しかし俺は不覚にも感動し、歓喜し、興奮し、思ってしまった。

 そう、思っちゃったんだ。


 『作ってみてぇ!』……と。


 そういう訳で、俺はすっかりこの村の鍛冶仕事に夢中になってしまい、ハンマーを握らせてもらえるようになってからと言うもの、四六時中頭の中は鍛冶の事でいっぱいになってしまった。


 そしてようやく話は衝石に戻るのだが、こいつが振っただけで地面に亀裂を作っている原因だった。

 名前の通り、少しでも衝撃を与えると逆に衝撃波を跳ね返して来る特殊な石で、うまく加工できれば斬撃や遠距離まで届く突き技も放てるようになる。加工の仕方、上手さで放出される衝撃の形や速度、距離が変わり、大会の剣には一部の例外を除いてほぼすべての剣に使われていた。

 だが、問題が1つ。

 加工が半端ないくらい難しいのだ。衝撃を与えると衝撃波を返してくる石。おまけに叩く以外に加工方法が確立されていない。一回親父に小さな衝石を叩かせてもらった事があったが、軽くコツンと叩いた瞬間ぶっ飛ばされた。

 部屋の壁に叩きつけられて親父と一緒に母ちゃんの前で仲良く正座させられちゃったよ。あぁ~痛怖かった。

 話がずれた。

 つまり加工が難しいのだ。軽く叩いただけでもぶっ飛ばされ、おまけに加工手段は叩く以外なし。そのメカニズム、構造、原理は実際に使って加工できる親父にもわからないらしい。どうやって加工すんの?

 親父はもちろん『勘』と、まことに短く簡潔でこれ以上無いほど困った回答をくださったが、それでは……


 わかるか(努)!!!


 実際に叩いてもらったら叩き方や場所によって衝撃波が返って来ない場所があるらしく、そこを勘で探り当てて叩いているみたいだった。

 そしてドワーフは衝石を加工できるまでに勘を鍛え上げる事ができてようやく大会に出られるようになる。ようするに衝石を叩けるやつしか大会にはいない。

 そういう訳で、俺は今衝石を叩けるようになるのがこの頃の俺の目標だ。


「ビーズ、ご飯よ~!」

「はーい!」


 作業を中断して台所に向かう。部屋に入った途端、煙が晴れて視界が数倍にも開けた感覚がするがもう慣れた。鍛治部屋には晶煙が立ち込めてるから視界が悪いけど、台所は換気扇を回しているから煙が無くて視界が良好だ。スッキリするけどやっぱり気分は悪くなるな。めんどくさい種族だな、ドワーフって。俺の事だよ。

 そしてドワーフの食事は主に岩石や結晶だ。一応普通の料理も食えるけど、なぜか岩石や結晶の方が美味しかった。人間から離れてる気がして最初はホロリと来たのは内緒。

 そして今、食卓に並ぶのは光を乱反射する美しいダイヤモンド達だ。


「ごめんなさいね。朝寝坊しちゃって市場に行ったら安いダイヤモンドしかなくて」


 まずダイヤモンドが安値で、しかも食用として売られている市場ってどうよ? すでにかじったから食える事は身をもって実証済みだが、価値観による違和感が半端ない。かじった瞬間バキッと簡単に噛み砕けたのは驚いた。ちなみにコンニャクみたいな味がした。熱っした炭素の粉をつけて食べてみたら、ミソを乗っけたコンニャクみたいな味がしたのは蛇足か。親父が気に入ったのはもっと蛇足か。

 ドワーフは本当に石を食えるし、どうやら数百度の熱でも舌はやけどしないらしい。でたらめ種族め。俺のことだってばよ。


「あ、それとビーズ。6才になったら学校に行ってもらうから」

「へ?」


 聞いてないってばよ?

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