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地鍛冶屋から  作者: 雨水
第一章 転生と始まりの始まり
4/17

ドバドバドバドバド!

一人称視点です

■■■から視点が変わります

 鍛冶師になることを決めてから数日たったある日の昼頃。


「そろそろ出来た頃だと思ったぞ!」


 いきなり玄関のドアが開けられ、サイクロプスの男が入ってきた。

 デカい。3mいくんじゃね?

 でもいきなり入ってくんなや。

 ビックリする以前に母ちゃん達が……


「「静かに入りなさい(入れ)……」」


 ……怒るんですからマジやめてください。人前でチビりますから。

 親父と母ちゃんは息子である俺に関しては必要以上に神経質だ。

 普段全く喧嘩しない母ちゃん達も、俺が原因で喧嘩したことがあった程だからな。


「はっはっはっ! すまんすまん!」

「コラァ、ヴォーリー! ドロットさん家にも赤ちゃんいるんだからもっと静かに入りなさいよ、このバカ!」


 後ろから赤ん坊を抱えた女性が入ってきていきなりサイクロプス、ヴォーリーさんを叱りつけた。嫁さんか?

 とりあえず自分を棚に上げてヴォーリーさんに負けない大声出すの止めてもらえません? まだ小さい俺の鼓膜がプルプルしだしてそろそろキーンとしてくるから。


「……よくわかったな」

「ハァ……、それもサイクロプスの勘ってやつ?」

「はっはっはっ! 俺ぐらいになれば自分の創った『石』の気分や状態ぐらい大体見当付くわ!」

「もう……」


 見た目は三十ぐらいだけど中身は結構年いってるのかなこの二人?

 それと母ちゃん達がこんなに友好的にしゃべる所なんてはじめて見た。

 昔からの旧友とかそんな感じか?

 そんなことを考えていたら、親父が布に包んだ棒のようなモノを持って部屋から出てきた。

 よくわからない『圧』のようなモノを感じる。

 何だろう、アレ?


「どんな感じだ?」

「……最高傑作だ」


 親父とサイクロプスのおっさんがガッチリ握手を交わしてうなずき合う。

 職人は心と作品で会話するって本当なんだなぁ、と半ば他人事のように眺めていたら、サイクロプスのオッサンが俺を覗き込んできた。


「ほう、この子供がビーズか!」


 近くで見てみると親父とはまた違ったカッコよさだな。

 ファンキーな感じ。


「お前みたいなボンクラがこんなガキをねぇ~。長生きはしてみるもんだ!」

「フンッ……」


 親父は目をそらしたが、母ちゃんは暗い笑顔を浮かべてさらっと毒を吐いた。


「ちょっとヴォーリー、失礼なこと言わないの! ガレンさんに嫌われるでしょ!」

「あんまり冗談が過ぎると怒るわよ、ヴォーリー?」


 女性陣二人がヴォーリーさんに非難の台詞を投げるが、それより母ちゃん、アンタ俺のこと気にかけてくてれるんだったら怒る回数減らしてはくださいませんかねえ?

 切に願います。

 割りとガチで!

 てかそろそろボイン姉ちゃんぐらい出ろおぉおおぉぉぉぉお!

 異世界行ったら一度はネコミミ美女をこの目で見ておきてえんだよ!

 融通聞かねえ異世界転生だなオイ!

 ヴォーリーさんの嫁さんもペッタンコだしよぉ!

 ああああああああ、巨乳成分が足りねぇ!


「ヤッホ~、出来たって聞こえたから見に来ましたたよぉ~?」


 出たあああああああああ!

 ネコミミじゃなくてキツネミミだけど、美人のケモミミボイン姉ちゃん来たあああああああ!

 フラグ回収早くね!?

 気が利くねえ!

 異世界グッショブ!


「なんだかビーズが目に見えて元気になったのが不愉快でたまらないんだけど……?」


 うおおおおおお母ちゃんカンベンして!

 精神年齢十七歳の思春期真っ盛りの俺にこんなボイン姉ちゃん見て元気になるなって方がムリッス!


「どうも、突然お邪魔しますドロットさん。妻が急に出掛けると言い出すものですから何も準備できていないんです。すみません」


 今度はいかにも優男といった出で立ちと態度の男性が現れた。

 ボインさんの夫か?

 とりあえず、死ねっ!


「男の子もかわいいですねぇ~。はいはぁい、レスカお姉さんですよぉ~?」

「あーい!」


 はーい!

 やっぱボインな姉ちゃんはええのぉ~!


「ビイィィズウウゥゥゥゥゥ……!」


 ゲッ、母ちゃんがガチ泣きしてる!

 久しぶりに見たな……。

 じゃなくてごめんなさい、不可抗力です!


「はっはっはっはっはっはっ! オイ、ガレンよぉ! お前さんのムッツリが見事に受け継がれたみたいで俺は安心したぜ!? 将来が楽しみだ! はっはっはっはっはっ!」

「クッ、黙ってろ……」

「あはは、男の子は正直ですねぇ……」


 からかうヴォーリーさんに父ちゃんが消え入りそうなほど小さい声で反論している。

 そっか、親父はムッツリだったか……。

 優男さんは苦笑いしてるし。


「はっはっはっ! こりゃあ数十年後の『エネイブル・テトラド・クリスタル』が楽しみだぜぇ!」


 エネイブル・テト……え?

 ナンゾ?

 大会名かなにか?


「ビーズ、ちょっと出掛けてくるから待っててね? ミラノ、ジャッセさん、お願いね」

「ハイよっ!」

「わかりました」


 二人の赤ん坊を俺が寝ていたベッドに置いて父ちゃん達はどこかへ出ていってしまった。

 レスカさんの子供とヴォーリーさんの子供だ。


「はじめまして、ビーズ君。僕はレスカの夫のジャッセといいます。そしてこの子が子供のマリー。我らが天使です」


 とりあえずジャッセさんは親バカ優男で固定。


「私はヴォーリーの嫁、ミラノだ。んでこの子が家の子のイジェットだ。よろしくな、ビーズ!」


 男勝りな人だな。でもってペッタンコ。

 今俺たちはこの二人の保護者に面倒を見てもらっている訳だが、まずケモミミの赤ん坊のマリーちゃんがやけに気になる。

 端的に言って暗い。あまりにも不幸オーラと言うか不機嫌オーラと言うか、そんな感じの真っ黒な絶望オーラが全開で放たれている。

 一歳未満が放っていいオーラじゃないと思うんですが大丈夫、この子?

 なんでも、ジャッセさんの話だと産まれてからしばらく、全く泣き止まない子供だったらしい。やっと泣き止んだと思ったら今度は無表情。それどころか暗いオーラすら放出し出したと話していた。病気か?

 俺は起き上がって一人一人眺めているのだが、精神年齢十七歳からしてもやはり赤ん坊ってかわいいなぁ。

 イジェット君は寝てる。熟睡中だ。一歳未満でもしっかり第三の目はついてるんだな。イジェット君は熟睡中。マリーちゃんは寝ているイジェット君をボーっと眺めている。

 しかしこの真っ黒オーラはどうにかならんのか……。


 なんとなく、本当になんとなくホッペを引っ張ってみた。


「あ~ぶ……」

「いひゅ~!」

「あーコラコラ、ビーズ君。マリーちゃんをいじめないの」

「マリー、大丈夫か?」


 ……はっ、俺はいったい何を!?

 いや覚えてます、すみません。

 あはは、いや~赤ちゃんのホッペって触ってみたくなるんだよね~……ごめんなさい。


「……」


 ん?

 怒るでもなく、泣くでもなく……マリーちゃんはぼーっとしてる。

 なぜ?


「む~……」


 と思ったらすぐホッペを膨らませてご機嫌斜めになっちゃった。

 うん、カワイイ。

 でも意外と最初見たときより黒いオーラが減った気がする。

 ホッペ引っ張ったから?


「ま~う!」


 しかしいきなりホッペをペチッってされた。

 なんじゃいこのやろ!


「ぶぁ~!」


 打ち返した。

 ただし相当弱く。

 イヤイヤ、女の子のしかも赤ちゃん相手に本気でなんか殴りませんよ!?

 もちろん手加減しましたとも!

 でもポヨンと軽く弾かれるモッチモチの感触がした。

 うわぁ~、やわらけぇ~!

 こりゃあ確かに大人の女性が欲しがるはずだわ。

 モッチモチのフワッフワのスベッスベだもん。


「むぁ~!」

「だ~や!」

「れゃ~っ!」

「ん~にゃっ!」


 そのままペチッと叩いてポヨンと叩き返すスケールの小さい叩き合いが幕を開けた訳だが、止められると思った肝心の保護者二名はと言うと、


「「ドバドバドバドバ……!」」


 一人は涙、一人は鼻血で大変なことになっていた。


「カワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワ…………」


 ミラノさんは精神面と出血量が両方大変な事に……。

 早く血を止めないと死んじゃいそうだな。

 本気で『メディーック!』って泣けば母ちゃん来てくれるかな?

 別の意味で母ちゃん来そうだな。

 ってか、それやったら最初にしゃべった言葉が『パパ』とか『ママ』じゃなく『メディーック!』になるな。

 父ちゃん達がどんな顔するかちょっと気になるけど止めとこう。


「やっど……やっど、むずべが笑っでぐれだぁああぁぁぁ……!!!」


 そしてジャッセさんは感極まって嬉し涙を流していた。

 たしかに、いつの間にかマリーちゃんが少し笑ってる。

 よかった。

 スケールの小さい叩き合いをしてただけだけど面白かったらしい。

 そう言えば彼女の親ってマリーちゃんの泣き顔と無表情しか見ていなかったんだっけ。

 そりゃうれしいわ。


 それでも俺たちの叩き合いは終わらない。

 意外と楽しいから。

 まさか赤ん坊の叩き合いがここまで癖になるとは思わなかった。

 ほほえまし過ぎてニヤけがとまらん。


「ま~!」

「でぃえ~!」


 そして、


「だ~!」


 さっきまで寝ていたイジェット君も起き出して参加した。


「へぁ~!」

「にゃ~!」

「きゃ~!」


 どうやらイジェット君も癖になったらしく、三人の間で本当にスケールの小さい叩き合いが続いた。

 しかし、なにかおかしいような気がする。

 確かに楽しい。楽しいんだが、変だ。

 普通折り重なったり服とかをつかんだり噛んだりぐらいは赤ん坊でもやるんじゃないか? 俺はうっかりで大変な事になりかねないからビンタだけにしてるけど、他の二人は何で『ペチ』以外してこないんだ?

 なんて考えてたから気づくのに遅れた。


「「「「ドバドバドバドバ……!!!」」」」


 用事から帰ってきていた父ちゃんと母ちゃんとヴぉーリーさんの三人が気づいた時には血の海に沈んでいた。

 鼻血で床が真っ赤だ。出血多量で既に顔が真っ青なのに、目だけは血走ってこっちをロックオンしてる。

 怖っ!

 人外でも血は赤いんだな……。


「マリイイイィィィィィィイィイィィィよがっだようぅおぉぉおおぉおぉぉおおぉぉお!!!」


 レスカさんはジャッセさんと全く同じ反応してる。

 大号泣だ。

 よかったね。


 その日は大人六人が出血多量、もしくは脱水症状のどっちかでぶっ倒れた以外は特になにも無かった。

 ただ、レスカさんとジャッセさんだけは脱水症状がなかなか治らなかったらしい。

 理由は、水を補給すればするほど涙腺から排出されて全然体に蓄積されないから。

 後で聞いた話だけど治るのに三日かかったらしい。

 気持ちはわかるけどバカじゃなかろうか?





■■■





 ウチはキツネの獣人と人間のハーフ。

 名前はマリー。


 前世の名前は三川識みながわしき

 俗に言う『転生者』で、転生前は中学二年生やった。


 家の中で自分のスタンガンのコレクションをイジリよったら、いきなり窓から巨大な銀色の昆虫が飛び込んできて一口で食われてもうた。

 転生したときは前世のクソ兄貴がおらへんのが泣くほど心細かったんは意外やったな。いつもケンカしとって「消えてまえ!」って思った事は一回やあらへんかったのに。ほとんど蹴って蹴られて殴って殴られての関係やったけど、やっぱり家族としての思い入れはあったんやろうな。寂しさと心細さで長い間泣き続け、少し落ち着いたと思ったら今度は無気力感に襲われて長い間放心しとった。

 そんなある日、親が友達に会いに行くっちゅうて出ていったと思ったら、いきなり同い年ぐらいの赤ん坊と一緒にさせられた。

 頭に三つめの眼があるヤツなんてはじめて見たな、とかヤケクソ気味に考えよったら、いきなり黒色の髪で瞳が金色の赤ん坊にホッペをムニィーってひっぱられた。

 何されたんか、そんときはすぐには理解できひんかった。

 そいつはすぐ保護者二人に止められとったけど、なんちゅうか、現実だって教えられたような気がした。夢か現実か判別するときホッペつねるみたいな感じ。あれって実際夢の中でやったら全然効果ないらしいけど、他人から、しかも赤ん坊からされたからかもしれへんけど、ウチは現実に戻って来れたような気がした。


 まあ、黙ってやられたまんまにしておくっちゅうのは、看過できひんけどな!

 てなわけでやり返した。

 その後はなんとも小さい叩き合いが始まってもうて、正直やっとれんとも思ったけどなんか少し楽しかったからそのまま続けとった。

 ウチの親がやっと笑ったゆうて号泣しとったんは、少し申し訳なかったな。ホンマすんまへん。

 ウチをつねった子は、たしかビーズとか言われとったな。

 ウチを現実に引き戻してくれた恩は覚えとくで。次に会うときまでに自分を鍛え上げて、頼れるお姉ちゃんになったるわ! なんせやられたらやり返すのがウチら兄弟の唯一の決まりみたいなもんやったもんなぁ、クソ兄貴!

 次会ったら、恩を数倍返しさせてもらうで、ビーズ!

転生する前の年齢ではビーズより年下なマリーちゃん

それを知るのは遠くないけど近くもない未来

登場人物が多いので整理、


主人公

前世名安藤涼あんどうりょう

現世名ビーズ・ドロット (ハーフ)

父ガレン・ドロット   (ドワーフ)

母フォキナ・ドロット  (人間)


サイクロプス

息子イジェット・リブーム (ハーフ)

父ヴォーリー・リブーム  (サイクロプス)

母ミラノ・リブーム    (人間)


獣人

娘マリー・ロイローム  (ハーフ)

父ジャッセ・ロイローム (人間)

母レスカ・ロイローム  (キツネ獣人)

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