悪い貴族と微妙な貴族
「クハハハハハ、いい気味だ序列者の子供達!」
「ウフフ、まったくいい気味ねぇ」
「……フン」
「……」
廃墟を前に唖然とする俺たちの耳に突然小バカにする声が飛び込んできた。
見るときらびやかで豪華な服を着た男女四人組がいた。四人の背後に『ババーン』て効果音が浮かんでるように見えるのは幻覚か?
おそらく全員年上の上級生だ。見た感じ中学生くらい。
一人顔をうつむかせていたが、それ以外は俺たちを嫌な顔で見下している。
なぜわかるかって? 顔が見たまんま見下してる顔をしているからだ。
はっ倒すぞこら。
「お前らは学校で暮らす間ここに住んでもらう。変更は認めない。喜べ、ここは学校からプラントを挟んだ反対側にある最も遠い場所だ。せいぜい苦労しながら学校に来るんだな!」
「簡単な概要はカミに書いてあるから無くしちゃダメよ。それと学校では私たちに近づかないでね? 汚らわしいから」
「……フン」
「……ッ」
一人目は高圧的でたぶん人間。
二人目はイラつくツインテールでたぶん獣人。
三人目は鼻息荒いな。たぶんドワーフ。
四人目はオッパイがでかい。もう一度言おう、オッパイがでかいサイクロプスだ。
一人目と二人目がなにかわめいてるけど俺はオッパイに夢中でそれどころじゃない。ちょっと黙ってろ。
「そして学校では俺に逆らうな! これは貴族としての命令だ!」
「それと近づかず、話しかけずよ。いいわね?」
「……フン」
「……」
そこまで聞いた辺りで、オッパイに夢中の俺に代わってマリーやイジェット、他の序列者の子供達が我慢できずに文句を言いだした。
「ちょっと待てや! 貴族だからって好き勝手な命令権は無かったハズやろ!? アンタらに従う義務は端から無いわ! ウチらは勝手にやらせてもらうで。関わりたくないんやったらそっちが距離おけばええやろ、頭悪いな!」
「確かに、アンタらに従う気も義務も、尊敬も無い。俺たちが嫌いなら関わってくるな。相手するのがめんどくさい」
「そーだ、そーだ! オヤジに聞いた通りだ! 貴族ってやなヤツばっかり!」
「こんな廃墟とかやだ!」
「バーカ、バーカ、お前らの言うことなんか聞くかよ~!」
黙って聞いていた四人だったが、一人目が我慢できなかったのか一喝した。
「黙れ!」
年上の一喝に一斉に静まり返った皆を、貴族はさらに喚き散らす。
「少なくともこの廃墟にすむことは決定事項だ! もし別の場所に出入りしていることがわかったら発覚次第厳罰だ! 覚悟しておけ! クハハハハハ!」
「どれだけ持つかしらね~? ウフフフ」
「……フン」
貴族の三人は言うだけ言うと高笑いしながら去っていったが、一人だけ例のオッパイ姉ちゃんが残っていた。
子供達の避難の目が向けられる中、他の貴族達がいなくなったとたんに、ガバッと地面に額を叩きつけた。
「ごめんなさい!」
本気ですまなそうな謝罪が地面の亀裂とともに放たれた。
よく見ると長い銀髪、女性なのに二メートル以上の大きな背丈と腰に剣をさしている。
「「「……は?」」」
突然さっきまでの貴族とは180度真逆の行動をとる彼女に皆の目が点になった。
皆が唖然とする間に彼女は舌を謝罪のために振り回す。
「私はハス・クォルン。『貴族』クォルン家の八女です。あんなバカどもに好き勝手させる事を許しておきながら謝罪などおこがましい限りですがそれでもこんな事になってしまった謝罪をしたい。本当に申し訳ありませんでした!」
そう言って彼女は再び深々と土下座した。
場違いにも美しいと思ってしまった俺はおかしいと思うが眼福です。
ありがとうございました、じゃなくて……
「とりあえず頭をあげてください! 女に土下座されるって思った以上に居心地悪い!」
「そやそや、女が軽々しく頭下げんなや!」
マリーがやけにトゲのある声で頭を上げるよう言っているが、その視線が彼女の土下座しててもわかる大きなオッパイに向いているのは突っ込んでいいのかな?
マリーはまだ6歳だから胸がなくても気にしないでいいと思うんだが。
「見たところアンタのせいでこうなったのでは無いんだろ? なら謝るべきはアンタじゃない」
「しかし、止めることができなかったのも事実です! こうでもしないと私の気がすまないんです!」
俺、マリー、イジェット他にも数人の子供達が頭を上げるよう呼び掛けるが、彼女はガンとして譲らない。
そもそも彼女は俺たちにたいして暴言を吐いていないから許す許さない以前に、そうすべき人が違う。
「それより何で俺達はこんなところに住むことになってんすか!? しかも男女共同!」
「それは私達貴族のただの嫌がらせです。私達貴族がアナタ達にいい印象を持っていないのはご存じかと思いますが、それがこのような形で露骨に現れたんです」
「いや、もう十分だから! 恥ずかしいから土下座やめて!」
「もうエエから頭上げぇや、見苦しいぞ!」
「頼む、頭上げて欲しい」
「お姉ちゃん、もういいから顔を上げて!」
「姉ちゃんがやったんじゃないんだから顔を上げてよ!」
「見苦しくていいんです! 今後も私達貴族はアナタ達に嫌がらせやイジメを起こし、私はそれを止めきれないでしょう! 私以外の貴族の皆はほとんどが嫌がらせ賛成派。反対派は私と数人しかいないのでほとんど意味がなく……! 本当に、申し訳ありません!」
そう言いながら自分の頭を地面にゴリゴリと擦り付けるハスさん。
サイクロプスは固いから地面が削れてクレーターができはじめる。そろそろ自分の頭で穴掘ってそのまま入ってしまいそうだなこの女。
いたちごっこのこの状況に見かねたのか、最後まで口を出さなかったちょっと汚い男の子が口を開いた。
「そんなことより、この廃墟は俺たちの自由にしていいんでしょうか?」
「え………………………………………………あ、どうぞ……」
土下座の謝罪をあっさりそんなことと片付けられ、予想外の質問を投げられたハスさんは頭を上げて少し呆然とした後、そう答えた。
何する気、君?