学校と貴族のテンプレート
説明回です
突然だが地下都市、ヒュアニークについて簡単な説明をしたい。
ヒュアニークとは、四つのプラントに別れた大きな地下都市の総称だ。プラントは俺達が住んでいるドワーフプラント、サイクロプスプラント、ヒューマンプラント、アニマルプラントの四つがあり、それぞれに『歴四』と呼ばれている四人の最高責任者がいる。
そしてヒュアニークには階級があり、最高責任者『歴四』を筆頭に、その下に『貴族』。その下に大会の『序列者』。それ以外の『序列外』。最後に『奴隷』。この五つにこのヒュアニークの住人は別れている。
まず歴四は、何でもこの地下都市を作った本人だとか子孫だとか言われている存在で千年以上生きているとかいないとか。このヒュアニークでは神とほぼ同じ扱いを受けていて『歴四は全て』がここの絶対憲法だ。まあ、ほとんどなにもしていないらしいし、なにかを無理強いすることも『大会』以外そうそう無いらしい。大会を毎回見に来ているドワーフの歴四であるポラディーファ・アクシャフス・ジェカン様だけは見たことがあるが、他の歴四は見たことがない。本当に四人実在するのかすら怪しい存在だ。
そしてその下の貴族が歴四の子孫として明言されている者達。彼らがヒュアニークの政治関連の仕事を行っていて、実質的な大会の運営と責任、そして権力を持っている。そのせいで威張り散らすやからが多いとか。俺達が住んでいるドワーフプラントにはジェカン家がいる。
次に序列者。あの長い名前の大会で予選を通過した者達のみに与えられる称号で、ヒュアニーク全体で千人しかいない。その千人には大会の結果で地位が決められ、入っただけでもかなりの待遇が約束される。序列は大会以外で上げることはできないし、毎年大会に参加して序列内に入らなければ序列を剥奪、リセットされるため参加者や序列者達は必死に序列を維持、もしくは上げようと大会に躍起になる。
そして序列外。いわゆる鍛冶以外を主な仕事にしている人達や、大会に出ても予選を通過できなかったりする者達でぶっちゃけ見下されがち。この村のほぼ六割がそれに当たる。
そしてそのさらに下に奴隷、いわゆる人権剥奪者達が存在する。彼らは首輪を付けられていて完全に他の者達と区別されている。普通に暮らしていれば奴隷になる事はないのだが、罪や犯罪を犯した者、貴族にたてついたりして怒らせた者が奴隷に落とされる。奴隷から解放されるためには落とした貴族に許しをこうか、それとも他とは圧倒的悪条件下で大会に出場し、優勝するしかない。と言うのも、奴隷は普段クワトロプラントの奴隷街という無法地帯に押し込められており、その環境は極めて悪い、らしい。しかも優勝したとしても景品は無し。奴隷から解放されるだけで序列者にもなれない。そんな場所で剣を作って非常識な大会に出場しろと言うんだから、奴隷から解放する気無いだろと言いたくなる。
だから序列者以外の皆は貴族に歯向かえない。自分達の地位は貴族の心一つだから。
そして階級を挙げる唯一の手段、大会『エネイブル・テトラド・クリスタル』。これに優勝すれば奴隷でない限り貴族と同格にまで階級が上がり、歴四が許可する範囲でならどんな願いも一つだけ叶えてもらえる。貴族になることはできないが、大会優勝者という箔はここでは何にも変えがたい名誉であり栄誉なのだ。
ただ、ここで一つ問題が起こっている。先程言った通り、貴族は例え大会で優勝しようともなることのできない『特別』であり、その地位は生まれてから死ぬまで、犯罪でも起こさないかぎり保証されている。そして大会優勝者は貴族と同程度まで地位が上がる。
さて、ここまで来れば勘のいい人は分かると思うけど、大会優勝者と貴族はすこぶる仲が悪い。一方的に貴族が嫌っているとも言うが、貴族からすれば『特別でなかった者』が自分達と同じ場所に立つと言うのは気にくわない事なのだ。
当然と言えば当然かもしれない。生まれた時から特別扱いされていれば、自分とは違い実力で地位を手に入れた者の姿は勇ましく闘った勇者か、ゴミ溜めから這い上がって自分達特別にたてつこうとする虫。どちらにしろいい気はしないだろう。俺ももし記憶無しで貴族に生まれていればそういった者達の事を危険視すると思う。
まあ、貴族も一枚岩ではない。気のいい貴族も変な貴族もたくさんいる。ただ、嫌な貴族が半分以上だから埋もれがちではあるが。
昔何度か貴族対優勝者で色々あったらしいのだが、この小さい地下都市ではあまりに被害と影響が大きいせいで結局歴四が介入し、やり過ぎて怒りを買いすぎるような事はしてはならないと貴族に言い聞かせてくれたお陰で、なんとか問題が起きない程度でヒュアニークは落ち着いている。
それでも水面下で問題は起き続けており、その一例が、序列者や優勝者の『子供』を親元から離れる『学校』でいじめると言うもの。
つまりなにが言いたいのかというと、親父の息子、娘である俺、マリー、イジェットの三人は非常に貴族から嫌われているということだ。
父ちゃん達は何度か大会で優勝しているから何度か貴族と同じ地位まで登り詰めている。そのお陰で今現在、学校の校長が入学した俺達を体育館に集めて挨拶を行っている最中、貴族からの視線が痛い痛い。貴族は子供から保護者の大人まで揃いも揃って親の仇のような視線を送ってきやがる。
ちょー居心地悪い。
「……び、ビーズぅ。今すぐこっから逃げ出したいんやけど、一緒に逃げへん?」
「ダメだろ。校長も貴族の一人だよ。さっきからこっちをチラチラ見てにやけてる。僕達が居心地悪そうにしてるのを見て楽しんでるんだよ、あのクソジジイ」
隣にいるマリーが袖を引っ張りながらここから逃げようと誘って来るが、逃げる訳にはいかない。ここから出たらそれこそ貴族に憎まれ口叩かれる。
不安な気持ちはよくわかるし、居心地悪いのも痛いほどわかる。
俺も今後の学校生活が不安でしょうがない。
「うぅ~……ここに味方はおらへんのか~。かわええ子狐が震えとるっちゅうのに~……」
自分で言うかコラ。
確かにマリーの容姿はかわいい。いまだ6歳成り立て(精神年齢22)の俺としてもガチでロリコンに堕ちかねないほどかわいい。が、かわいいと同時に少しズル賢さが顔に現れだしている気がするのはなぜだろう? なぜかわからんがどうにも彼女には裏があるような気がしてならない。これもドワーフの勘か?
校長の挨拶は恒例とばかりに長々と続いた。ほんとうにどこの世界でも校長の話が長いのはお約束らしいな。マジダリー。
ヒュアニークの学校はなんと奴隷街のあるヒューマンプラントにのみ一つだけしか存在していないから、生徒の数が半端じゃないマンモス学校だ。しかも十年間の授業カリキュラムだからさらに多い。
進級にはそれぞれに見合った結果を毎年一つづつ残し、教師から合格をもらう必要がある。つまり合計で十個の結果が必要になる。毎年分不相応の目標を掲げて留年するやつが必ずいるんだとか。ちなみに三回留年すると退学である。
生徒は親元を離れてここに来るため、それぞれ学生寮を与えられている。校長の挨拶が終わった俺達は自分達の寮がある場所が書かれたカミをもらって、カミに書かれた場所へ向かっていった。マリーとイジェットは荷物を取ってくると言って別れている。
ちなみにカミとは糸石と呼ばれる糸の石を加工して作られるこの世界の紙だ。頑丈だしめっちゃ薄いし、肌触りも最高。
そんなカミの地図にしたがって着いた目的地は、予想の斜め上だった。まずボロい。次に汚い。そして埃っぽい。最後に半壊している。ハッキリ言って最悪だ。間違えたかと思ったのだが、
「お? ビーズも同じとこかいな。こりゃ嬉しいわ……ってここ!? 何やねん、廃墟やないか!」
マリー到着。
「む、ビーズにマリー。二人もか?」
さらにイジェットも合流。
「ここ、か……」
さらに髪が伸び放題のちょっと汚ならしい男の子や数人の男女がやって来た。念のため皆の地図を見比べてみたが、皆の地図は全てこの場所を示していて間違いでは無いらしい。
ってかマジでここなの? 俺泣くよ?
こりゃ貴族の作為を感じるでやんす。