閑話 とある少女と相棒達の日常
もう一人の謎の人物視点です
ご主人は寝坊助だ。
私を助けてくれた時はあんなにキラキラしててかっこよかったのに、一度でも眠ればどんな時でも状況でも、ずっとグウグウ無防備に寝ってしまう。なにか危険な事がない限り全く起きない。
そう、起きない。
では失礼して。
私はご主人の隣に潜り込んでスリスリする。ご主人は寝てるとき温かいからピッタリくっついてるとポカポカして気持ちいい。この頃ご主人が寝たらこうやって体温をちょっともらうのが日課になっている。
と言うか癖になっている。
「~~~……」
ポカポカしてぬくぬくしてて、何より安心するし癒される。ご主人は日を負うごとにどんどんカチコチに固く強くなっていくからフニフニしないのが少し残念だけど、固いなら固いで肌触りが気持ちいい。ほんのり感じる温かさがとっても心地いい。
なぜかわからないけど、とても懐かしい感じがするし。
充分堪能したらご主人のためにヒュアニークへ情報収集に行く。今日はまだ行ったことのないところへ行ってみるつもり。
通り穴に潜ってヒュアニークの上層に向かう。そうそう人は入って来ない場所だからもしかすると何かあるかもしれない。
裏道をスイスイ通ってヒュアニークに到着。
市場をちょっと通るから少し見ていこう。
ここは面白いものがたくさんあるから毎日見ても飽きない。
ちょっぴり寄り道ごめんね、ご主人。
「嬢ちゃん、このランプ見て行かねえか!? ちょいとクセのあるやつが作った物なんだが……」
「お嬢ちゃん、こっち見てみな! きれいなカップだよ! これで晶水を飲めば……」
「おいおい、そこの女子! そんなボロボロの服じゃその容姿が泣いてるぜ! こっちの服を……」
行く先々で声をかけられるが、軽く流し目で見るにとどめて進む。
じっくり見てたら時間がいくらあっても足りない。
軽く歩き回って満足したら、目的の上層に向かおう。
「あら、かわいい子。でもここらじゃ見たこと無いわね。もしかして奴隷街から来たのかしら。悲しいわね、かわいくても生まれが貧相じゃ」
「こんにちは。一人でいると迷いますよ?」
なんだかムカッと来ること言う人が後ろから声をかけてきた。
見ると、きれいな人が二人いた。
一人は黒い髪を両サイドで結んでいるギラギラした眩しいドレスを着たいろいろ小さい女。生意気な雰囲気。
もう一人は逆に太ってはいないけどいろいろ大きな長い銀髪の女。額に三つ目の眼を持つ剣を腰に下げている。リンとしたたたずまい。
何のよう?
「あ、こっちに来ないでね。汚ならしい空気吸っちゃうからそれ以上近づいて来ないでよ? でも変わった耳してるのね。近づかないようにしながらこっちによく見せなさ……」
「貴女は少し黙っていてください。すみません、彼女は少々足りない頭と選民意識が強い方で、自分より下だとわかったらなるべく距離を保ちたがる変態なんです。帰り道がわかっているなら関わらない内にここから早く離れる事をおすすめしますよ?」
「コラァ、ナチュラルに私をでぃするな!」
「事実なんですから文句を言う事はできませんよ? それとも貴女はこれ以上私に近づいてほしいですか?」
「あ~……うん、それ以上別の意味で近づかないで。それ以上はあなたの範囲内だから」
……、うん。
二人が言い争いをしている内にさっさとここから離れて目的地に行こう。
関わる気が起きない。果てしなくめんどくさそう。
二人に背を向けて走り出す。
「あ、待ってください。せめてお名前を……」
銀髪の女が後ろから手を捕まえようとしてきたからバッと体を捻りながら避けて市場の隙間に潜り込む。あんなのほっといてさっさと目的地に向かおう。
裏道の岩の隙間をいくつも通り抜け、小さな隙間に体を滑り込ませ、いくつも曲がって登って降りてを繰り返してようやく目的地にたどり着いた。
そこは薄暗い真っ暗な部屋だった。
地面から細くて淡い光の線が延びていて、幾何学模様を刻んでいる不思議な空間。
私がそこに降り立った瞬間、なぜか光がピカッとして爆発した。
部屋が一瞬明るくなり、バリバリと肌が焼けるような痛みが走る。
瞬時に体を固くさせたおかげで一応無事だったけど結構痛かった。
トラップ?
『……貴様、何者だ』
違った。任意だった。何しやがるコンニャロ。
いつの間にか幾何学模様の真ん中に男の人が立っていた。
全身が光ってて見えずらいけど、たぶん人間。
そいつが私を観察してくる。
『どうやってここを知り、侵入したのか。しかも雷撃を受けてその程度。少なくともAランクの実力は必要だ。どうやってそこまで成長した?』
「……」
Aランク?
何の事だろ?
正直めんどいしイライラする。
見つかったのは失敗だったな。
明らかにこいつめんどくさいヤツだ。
『だんまりか。ならば直接吐かせるまで』
人間がピカッとしたものを放って来た。
早い。避けられなかった。
痛くないけど体内、特に頭に何かモヤモヤしたものを感じる。
けど、弱い。
フルフルと頭を振ってサッパリさせる。
『ん? 一瞬で魔術回路を打ち破ったのか? 貴様いったい……』
ちょっと本気でイラッと来たから一発やっちゃおう。
目の前の人間に右ストレートをかます。
でも、スカッと通り抜ける感覚がして空振った。
『無駄だ。この私に実体は無い。今ここに見えているのは映像だ。物理攻撃どころか魔法も大した意味はない』
感触はスカスカした薄い感じだったけど、あった。
変なモヤッとした感じを意識して、再び右ストレート。
『学習しなかったのか? 無駄……ゲフウ! な、投影した映像を越えて私の本体にダメージを!? なんなのだ貴様!?』
あ、ヤバイ。
部屋に人が入って来た。
逃げよう。
これ以上はダメだ。
『逃がすか!』
後ろの奴がうるさいけど関係ない。
さっさと逃げる。
後ろにクルッと方向転換してダッシュ、した瞬間地面に大きな亀裂がズバッと入った。あっぶな。足が切れるところだった。
さらに後ろからヒュンヒュン音が聞こえたと思ったら背中がさっきとは比べ物にならないぐらいゾワッとした。
すかさず大きく飛んで壁に張り付いて眼を向けると、ちょうどさっきまで私がいた場所がドカァってえぐれた。
「ッ……」
あれはちょっとヤバイ。
ご主人は大丈夫だと思うけど、私だったら一回ぐらいはブシャッてなるかも。
ちょっと本気で逃げよう。
入って来た岩の隙間に滑り込む。後ろから数人の足音と破壊音が立て続けに鳴り響いたけど、なんとかやつらの攻撃圏内から逃げ切れたみたい。
そのまま走ってご主人にところまで戻る。
途中で同胞を引きずる獣人がいたけど無視。
早くご主人の腕の中に戻ってぬくぬくしたい。
道のりがやけに長く感じながら、ようやくご主人|(まだ寝てる)の懐に潜り込んでギュッとする。
「~~~……!」
はふぅ~、安心する~。
ヒュアニークに行くときはアイツらをご主人に近づけさせないようにしなきゃ。特にあそこにいた四人には気を付けないと。
ご主人は私が守る!
……そのためにもうはちょっと強くならなきゃダメだな~。
一緒に頑張ろうね、『ラボル』。
後日、変なフードを被った連中がご主人に襲いかかった。
ご主人の敵ではなかったけど、その後も時々フードを被った集団が襲いかかって来るようになってしまった。
これってどう考えても私のせいだよね?
ご主人、ごめんなさい。
『ラボル』はキャラクター名です。ねんのため。