第2話 幼馴染エレナ
誤字脱字や読みづらいなどありましたらご指摘いただけるとうれしいです。
いろいろ修正しながら読みやすいものを作っていきたいと思います。
魔法の才能がない。
というよりも、魔力そのものがないと判明したときは、ものすごく落ち込みました。
だって、魔法使えるとかすごいじゃないですか。
炎とか操ってかっこよく魔物倒したりしたいじゃないですか。
せっかく、魔法の存在する世界に生まれ変われたのに魔法使えないなんて。
ヒト族は他の種族に比べて、個人の得手不得手にばらつきがあるのが特徴です。
魔法が得意な人がいれば、剣が得意な人がいる。かと思えば、鍛冶など物作りが得意な人もいる。
千差万別なのです。
魔法が使えない人もたくさんいます。
私だけじゃないです。私マジョリティです。
気づけば私も13歳になっていました。
魔法の件で受けたショックも今ではそんなに気になりません。
魔力がないんですから、どうしようもないです。
気にしても仕方ありません。
それに、魔法が使えなくとも私の周囲からの評価は良好でした。
なんせ、前世の記憶がありますから。
振る舞いも他の子どもよりは大人びていましたし、算数なんかは得意でした。
特に教わってもいないのに、加減乗除は完璧でしたし。
「将来は大商人になるぞ!」
なんて、ちょっと親バカな父は私を撫でくりまわしたものです。
ですが、私としては商人は避けたいです。
商人としてやっていくには、当然、土地から土地へと旅しなければなりません。
旅には常に危険が伴います。
その危険を減らすために護衛やなんやらと準備しますが、
それでも去年来た商人が今年は来なかったなんてことは珍しくありません。
下手したら、冒険者よりも危険な仕事なのです。
商品やお金を抱えたまま旅しますから、悪い人たちからすればカモです。
私なんか戦闘力5以下のゴミ状態ですから、盗賊さんたちからみたらカモがネギしょってるもんです。
今夜はカモ鍋でパーティーしようぜ!ってなっちゃいます。
そんなわけで、私の生活スタンスは前世と同じようになりました。
目立たないように。疎まれないように。
可もなく不可もなく、平凡に生きるのです。
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そんな風にのほほんと日々を過ごしていたある日のことです。
自室でのんびりと過ごしていたところ、旅の魔法使いの情報が飛び込んできました。
「魔法使いが来てるのよ!」
幼馴染のエレナはノックもせずに、部屋のドアを勢いよく開けました。
なにやら興奮気味に声を張り上げています。
エレナは物心つかないころからの幼馴染です。
いつも明るく元気で、村の誰からも好かれています。
もちろん、男子からの人気も高いです。
たまに、彼女との仲を取り持ってくれと頼んでくる男子がいるほどです。
幼いころは今よりもずっと大人しい性格でした。
私の後ろをついてきて、そりゃもう目に入れても痛くないほど。
むしろ、ずっと目に入れておきたいくらいかわいかったです。
それがいつの間にやら、少々やかましい破天荒な娘になっていました。
どこで間違ったのでしょうか。私、こんな子に育てた覚えありません。
エレナは肩で切り揃えた焦げ茶色の髪を今日もポニーテールにしています。
彼女が落ち着きなく跳ねる度に、ゆっさゆっさと揺れていました。
ちょっと前までは腰まで長い髪で、結ったりせずストレートでした。
最近では邪魔くさくなったのでしょう。ばっさりと切り、動きやすいよう結っていることが多いです。
エレナは少し息を乱していました。
おそらく、ここまで走ってきたのでしょう。
健康的に日焼けした小麦色の肌に薄っすらと汗が光っていました。
急いで伝えにくるような情報でもないでしょうに。
ですが、彼女がそうして駈け込んできた理由も分かります。
それは、この時期のこの村はヒマだからです。
この村は特産品である薬草で生計を立てています。
というよりも、薬草だけで生計が成り立っちゃってます。
つまり、薬草を売るだけで日々の生活には困らないだけの通貨が手に入るのです。
その薬草も冬期にしか採れないものなので、収穫期以外はわりと自由になる時間が多いのです。
ヒマなんです。
このヒマさというものは、彼女のように、とにかく動きたくてウズウズする性格の者にとってなかなか耐え難いものなのでしょう。
ですからこうやって、わりとどうでもいいような情報を迅速に伝播させようとするのです。
そうして退屈を凌いでいるのです。
「今日きた旅人さん!魔法使いらしいのよ!」
ちなみに私は旅人が訪れていたことも知りませんでした。
私は出不精ですから。今日は一日中、ベッドに寝っころがりながら本を読んでいました。
特産品のおかげで交易が盛んなこの村では旅人が訪れるのは珍しくありません。
「へぇーすごいですね」
露骨に興味なさそうな反応を返す私。
それでもお構いなしにエレナは続けます。
「しかも、カッコイイらしいよ!会いにいこうよ!」
むう。それが目当てでしたか。
エレナも年頃ですから、やはり異性が気になるのでしょう。イケメンであれば特に。
私もイケメン嫌いじゃないですけど、応えは決まっていました。
「イヤです」
即答します。
ですが、おそらく無意味でしょう。
エレナは自分のしたいことをするタイプです。
私はいつでもそれに振り回されているのです。
以前、エルフが隣村に訪れたときもそうでした。
隣村に旅のエルフが滞在しているという噂を聞きつけたエレナは、私を部屋から引きずりだしました。
そして、あろうことか着の身着のまま隣村まで歩き出したのです。
隣村は、旅慣れた冒険者の足で4日かかるほどの距離です。
私たちは冒険者でも、ましてや旅慣れてもいません。
本来なら、十分な食料と水を用意し、万が一、魔物や野生動物に襲われたときを考えて戦闘経験のある大人に同行してもらって出発するものです。
あのときは、ほんとに危なかったです。
道を見失ってしまい、食料もない中で、私たち2人はなすすべもありませんでした。
たまたま通りかかった冒険者さんに助けられなければ死んでいたかもしれません。
あの冒険者さんにはいつの日か必ずお礼をしなくてはなりませんね。
もちろん、エルフには会えませんでした。
生きるか死ぬかの瀬戸際だったのですからそんな余裕はありません。
冒険者さんにこっぴどく、子供2人で無謀なことするもんじゃないと叱られ、まっすぐに帰宅です。
この一件でエレナも少しは大人しくなるかと思ったのですが、そんなことはありませんでした。
彼女はいつでも晴れ渡っているのです。過去を気にせず、今をただ進むのです。
私にもその性格少しでいいから分けてほしいです。
そして、今も私の手を力の限り引っ張り、部屋から引きずりだしています。
何も変わってません。
「はーなーしーてー」
「いこうよ!魔法だよ!ま、ほ、う!」
ちなみに私の抵抗はその形をなしていませんでした。
体格的にエレナのほうが大きいので、ずるずるとそのまま引きずられていきます。
誤解のないように言うと、エレナは一般女性となんら変わらないボディサイズです。
ですが、普段お外を駆け回る野生児なので力持ちです。
対する私は、平均よりもちょっとばかし小さいうえに、お部屋でじっとしてるのが大好きな文学少女です。当然、筋力に自信なんてありません。
とうとう家の外まで引きずられたところで私は観念しました。
私が一切の抵抗をやめると、エレナは人懐っこい笑みで勝ち誇っていました。
ポニーテールのよく似合う笑顔です。
ハツラツとした健康美人。
彼女は万人受けする陽気さを無意識に外へと滲み出せるのです。
一緒にいるだけでなんだか楽しくなるような雰囲気がエレナにはあります。
ですが、勝ち誇られるのはなんだか癪なので憎まれ口をたたくことにしました。
私はけっこう負けず嫌いです。
「そのしてやったり顔やめて」
「うふふ。そんなこと言ってもほんとは好きでしょ?」
「……」
あなたのことなんかお見通しよ。という風に笑ってみせるエレナ。
…まあ、キライではありません。
毎度のように散々振り回されても最終的には許しています。
それもすべてこのエレナの笑顔が憎めないからだと言われても否定できません。
それでも、分かったうえでその笑顔振りまくのって卑怯じゃないですか?
「幼馴染の特権ってやつだよ」
「わけわかりませんよそれ」
くすくす楽しそうにイタズラっぽく笑っています。
こういうときのエレナはほんとにかわいいと思います。
脇目も振らずにエレナルート攻略するぐらいには魅力的です。
私が男性だったらベタ惚れでしたでしょう。
思わせぶりな事言われた日にゃノックアウトです。
兎にも角にも、今は魔法使いさんです。
エレナのことですから、ちょっとぐらいでは諦めないでしょうし。
魔法使いさんが去ってしまい、村の外まで追いかける。
なんてことになるのは避けたいです。
とっとと旅の魔法使いさんのお顔を拝みに行きましょう。