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第1話 わたし、魔法つかえません。

ほのぼのライトでコメディタッチな作品を心掛けていきたいと思います。

主人公の名前未定です。

私は生まれたときのことを覚えていました。



気づけば、女性の腕の中でした。

まるで、ガラス細工に触れるかのように抱き、愛しそうに私を見つめる女性の腕の中でした。


何事か私に話しかけているようですが、うまく聞き取れません。

ただ、とても温かい何かが体の中に満ちていくような。

そんな気持ちがしたことを覚えています。


なにせ生まれてすぐのことですから、もやもやと曖昧にしか記憶がありません。



次の瞬間には、ベッドの中でした。

四方を柵で囲われたベッド。


おそらく、生まれてからいくらか時間が経っているでしょう。


中には、カラカラ音が鳴る大きな玉やぬいぐるみなんかがありました。

私が玉に触れると嬉しそうな声が、上から降ってきます。


見上げると、先ほどの女性と見知らぬ男性が肩を並べていました。

女性も男性もとても優しい笑みを浮かべています。



このとき、私は普通の赤ん坊なら思いもしない意識に囚われていました。



私は生まれ変わった。



生まれた直後の私には、前世の記憶が残っていたのです。

その記憶が、私を生まれ変わったという意識に縛っていたのです。



---



私には生まれつき前世の記憶がありました。


より正確には、前世の意識がありました。



前世の世界には、携帯電話や車、インターネットなど。

そういった「科学技術」と呼ばれるものが発達した世界でした。


その世界での私は平凡に暮らしていました。

日本という豊かな国に生まれ、特別な苦労をすることもなく生きていました。

ただ、劣っているという意識が他人よりも強かったように思えます。


学校では、常に目立たないように過ごしていました。

劣っている自分が晒し者にならないように。他の人に煙たがられないように。

そうやって、ひたすら他人の顔色をうかがっていました。




ですが、最期は散々なものでした。



小さい頃から思いを寄せていた幼馴染。

彼に勇気を振り絞って告白したところ、返事は、



「ごめん。あんた誰?」



降りしきる雨の中、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしました。

メガネが水滴で見えなくなるのも構わず、顔を拭うことすらせずに泣きました。

すれ違う人たちはギョッとした顔で振り返っていたように思います。


なんせ、周りに気を遣う余裕などなかったものですから、そこら辺の記憶は曖昧です。



それがいけなかったのでしょう。



気づけば、フラフラと道路に飛び出していました。


土砂降りで視界が最悪でしたから。

運転手さんのブレーキも遅れたことでしょう。



強い衝撃を感じ、一瞬の浮遊感のあと、全身を地面に叩きつけられました。




その後のことは分かりません。


地面衝突と同時に--あるいは、数瞬前に、私は意識を手放していたのです。



---



生まれ変わってからというもの、この世界への興味が尽きませんでした。


なにせ、前世の世界とこの世界は大きく違っていたのです。



私の前いた世界は、道路がコンクリートによって整備され、高層ビルが建ち並ぶ科学技術が進歩した世界でした。


ですが、今の世界にはそういったものは一切ないのです。


この世界は剣と魔法の世界。

魔法に秀でており、男女問わず美しい容姿をしているとするエルフ族。

鋳造技術に長けており、立派な口髭と短躯でがっちりしたドワーフ族など。

そんな者たちが存在するお伽噺のような世界なのでした。



魔法の存在を知ったとき、私の胸は高鳴りました。


前世で魔法といえば、それだけで題材として取り上げられるほど人気でした。

私もよく、魔法が使えたら...と妄想したものです。


その魔法がこの世界では存在するのです。

当然、私は魔法について知りたくて仕方がありませんでした。


「わたしもまほうつかいたい!」


そう元気に両親に話したのは、たしか、4歳のときでした。

このころは誰でも魔法を使えると思っていました。

希望に満ち溢れた瞳をキラキラさせていたころでしょう。


そんな私に両親は


「魔法を扱えるのは限られた才能ある人間だけなんだよ」


と困った笑みを浮かべながら頭を撫でてくれました。


両親は私に魔法の才能がないと思っていたのです。

ですから、娘が傷つかないように優しく撫でたのでしょう。


しかしながら、私は自分に魔法の才能があると思っていました。


なぜなら、私は前世の記憶を持つ、言うなれば、転生者だからです。


前世の世界では、転生者が異世界でとてつもない能力を手に入れて大活躍する作品が多く存在していました。

そんなものですから、何の根拠もなく転生した私には絶大な才能があると思っていたのです。



私の住む村は、薬草の産地として有名です。

この村にしかない薬草もあるらしく、商人が頻繁に交易にやってきていました。


ある日、そんな商人たちの護衛として、元冒険者の魔法使いがやってきたのです。


私は、この機会を逃してなるものかと、魔法を教えてくれないかと頼み込みました。

私には珍しく無駄にアクティブでした。

だって、使いたかったんですもん、魔法。


幸いにも商人さんが商談している間はヒマらしく、簡単な初級魔法を教えてくれるとのことでした。

その元冒険者さんは子供好きで、親切丁寧に教えてくれました。



結論、私に魔法の才能はありませんでした。



魔法に必要なものは2つあります。


1つは魔力。

これがなければ話になりません。

魔法を魔法と成す材料とも呼べるもので、魔力がなければ魔法が発動することは絶対にありません。


2つめは制御。

魔力があっても、その魔力をコントロールし、自分の思う通りに使えなければ意味ありません。

魔法使いとして熟練すればするほど、魔力制御の緻密さが求められるのです。


たいていの人は魔力制御がうまくいかず、魔法使いの道をあきらめるそうです。

実のところ魔力制御こそが魔法使いに必要な才能だそうです。


魔力はほとんどの人が持っているものだそうです。

そして、生まれてから死ぬまで、どんなことをしようともその総量は変わらないそうです。


魔力総量というのは、おおよそ種族で違うそうです。

たとえば、魔法に秀でたエルフ族は魔力総量に優れる人が多く、自然を愛するアニマ族には魔力がない人が多いそうです。



ちなみに、アニマ族とは身体の一部、特に耳やお尻に獣の特徴を持つ種族らしいです。

ようするにケモミミです。ケモミミ。



ヒト族に関しては、魔力総量は多くないもののほとんどの人が有しているそうです。


ですが、私には魔力がないようでした。



通常、魔法はそれぞれの魔法を発動するための呪文を唱えて発動します。


呪文を唱えることによって、体内の魔力を消費し、魔法の元となるものを形成します。

ここまでは誰にでもできるそうです。魔力さえあれば。

その形成した魔法の元を制御できるようになると、やっと魔法を発動できるのです。


呪文を唱え、魔法の元を形成したときには光るそうです。

呪文の種類によりますが、とにかく光るそうです。

その光こそが、魔法の元を形成した証なのです。



私が呪文を唱えても何も起きませんでした。



元冒険者さんは言いづらそうに、


「お嬢ちゃんには他の才能があるよ」


と慰めてくれました。

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