表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/119

めんどくさがりの自由行動

短いです




 真冬だというのに体が熱い。闘いの高揚が後をひいているのか、血沸き肉踊る体。紅葉。


 俺の体から立ち上るこの煙が、正に心情を表している。


 うん。風呂上がり。

 サービスシーンが見たい方はくノ一湯とやらにセルフで頼む。代償はその後の人生さ。等価交換? 価格は常に変動するものなので。


 まあ一人風呂したかったから部屋つきのに入ったんだがな。


 ガランとした部屋に俺一人。


 つまりなんだ?


 俺が神か。


 テーブルに備えついている座椅子に座る。ジャージなうな私。雅。湯呑みにポットからお湯を注ぐ。お茶の元な粉が溶け緑茶に。暖房が効いた室内で寒空をチラリ。そのまま一口。にげぇ。マジいらない。


 口直しに茶菓子をパクリ。にげぇ。どういうことだよ。


 神の口が大変な事になってるよ。ゴロゴロと悶絶しつつも他に食べ物なんてないので絶望。しかし転がった先でぶつかったテーブルからルームサービスのメニューが落ちてきた。


 ……神よ。


 素早く開けばメニューの頭に羊羮の文字。


竜屋の羊羮


¥1200


 ……神よぉ。


 これが神を自称したための報いということか。天罰。なら地獄の沙汰も金次第という言い伝えも真実味を増すね。自宅の沙汰は金次第で間違いないわけだし。


 しかしお金に余裕があればカーストの最底辺なんかをうろちょろしてないのである。


 格差社会の現実に絶望だよ。


 届かない目標に手を伸ばすほど主人公してないので、メニューをポイ捨て。素直に口を濯ごう。


 洗面台にてガラガラぺっ、へっ! 悔しくなんてないもんね!


 ノスタルジックに浸ってアンニュイ表現なんて考えたのがいけなかった。デモクラシーは、でも暮らしーー並みにフェードアウト。


 普段通りの行動が大切だよね。女性から逃げるは最上位だから。二番目。


 すなわち睡眠。


 ……行動? 英気を養うのは立派な行動だ。完璧な理論武装。英気の意味はよくわからないけど。多分イギリス被れ的な意味合いで良し。


 シエスタだ。メイドさんだ。


 そうと決まれば襖をスパンッ。たぬきもーん。


 襲いくる布団に埋まってしまった。神の怒りかな?


 布団の下敷きになってしまった俺に、何ができるっていうんだ。なにも、何もできやしないっ!


 なら仕方ないね。


 鍵とチェーンまでしてしまった室内で、動けない俺。不可抗力。


 だから誰かが訪ねて来たとしても、ね? うん。仕方ない。


 この拘束は自由時間の終わりまで続きそうな気がするし。事故ならね、事故ならしょうがない。


 ああ、遺憾。遺憾だなあ。


 コンコンコン


 いかん。


 扉を誰かがノックする音が響く。昔話なら食べられる展開だ。今日(こんにち)に至っては骨すら残るまい。扉の向こうには狼(男の子)なんて生易しい存在じゃなく、大神(じょせい)がいるんだ。きっとそう。男を怖がるのなんてコブタぐらいな自然界。


 我々は淘汰されてしまう身の上。


 だから息を殺すのは自然な行いさ。


 早くあっちいって! ほらいって!


「……」


 間取りはどうだったかな? 窓は東側だよね? いざとなったら教会で復活できないのが現実。なにせ俺が神だもの。


 そこはかとない沈黙に獣臭を感じ取っていた俺だったが、ノックの主は長居することなくパタパタと足音を立てて遠ざかっていった。


 …………ふう、行ったか。


 そりゃ誰かが訪ねてくるかもとは思ったけどね? フラグの回収が早すぎるわ!


 ともかく。山は去った。すげえ文だな。


 後は夕食が夜食になる時間ぐらいまでこのままでいいかな? オーディエンスならいいともって言ってくれる。


 なら安心と笑みを浮かべて瞳を閉じる。するとどうだ。耳に響いてくるメロディー。


 シューベルトの「魔王」。


 怖いわ!


 カッ! と目を見開くと体にまとわりつく布団を撥ね飛ばす。既に2コール。3までは大丈夫だ。ただそこから1遅れる毎に心筋を一本そがれるらしい。ようくシンキンして「それじゃ一本でも死んじゃうよ~」と冗談っぽく纏めたら真顔でコクコク頷いたうちのダーティーワーク(あー、ねー?)。


 間に合えー!!!


 3コール目が終わり、4コール目が始まる前に通話ボタンを押す。……セーフ。もちろんセーフ。


『遅い』


 音の壁を越えた弟を遅いと断言できる人害(姉)。


 判定基準が人から外れ過ぎじゃないだろうか?


「すいません」


 しかし謝罪である。


 どんなに理不尽なことでも頭を下げなきゃいけない時がある。具体的に? 命がピンチな今とかだ。


『……仕方ないわねー』


 おや? 機嫌がいいのかな? 声が幾分柔らかい。


『肋骨三本でいいわ』


 あっ。1コール遅れる毎にって最初のコールからだったんですね。3コールまでは死なない(姉基準)みたいな?


 なんという死の電話。回避不可とか掲示板が荒れるよ。


 神にもできないことはある。荒ぶる姉を抑えるとか。荒ぶる女性を宥めるとか。荒ぶる女の子を落ち着かせるとかだ。神話を紐解いたらご理解いただける。


 大体女性が強い。


 任侠物の定番は指なのに、女子大生の姉は骨を所望。


 これは罠だ……!


 プロボクサー並みの一撃を貰えば済むと考える同性はボクシング漫画の読みすぎである。


 相手は暗黒面に生まれついた姉なのだ。きっと火葬と見間違わんばかりの炎で燃やされたあと、「じゃあ肋骨三本貰うわね」とか骸骨に話しかけるつもりに違いないのだ。やだ死にたくない。


「あたしも海に連れてって!」


『東京湾でいいかしら?』


 あれ、おかしいな? 生きたいっていう事を分かりやすく伝えたはずなんだが、沈められる系にチェンジしてるよ?


「し、沈められる以外の選択肢をください」


『うーん、…………えっとね。やだ』


 最初に提示していた肋骨はなんだったんだ?! 肋骨でいいよ肋骨で!


『……まあ、電話には出たしね……許してあげるわよ』




 おお……! 時代の夜明けって呆気なくやってくるんだなぁ……。


『たーだーしー、今度会ったらご飯を奢ること』


「うんオッケー。炊飯器から山のようについでやるよ」


『ぶっ飛ばすわよ。外食に決まってるでしょ』


 しかし逃げられないってやつだな。ボスなの?


 懐の寒さがリミットブレイクな俺としては決して頷けない条件だ。雑誌やコンビニのアイスを上回ってくる。ていうか、自宅での強制イベントキャラのくせに外飯なんて求めんなよ。


「てんやもので」


『レストラン』


「ファミリーなら」


『フレンチ』


 ふざけたアマだな。


「駅前に個室のイタ飯あったろ? あそこは?」


『……駅前? そんなのあった?』


 ああ、あるよ。店長がガチガチのヲタクで漫画飯の再現を目指してる痛い飯屋がな。リーズナブルで。


『んー』


 考え深げな声を出す姉にゴクリと唾を飲み込む。落ち着け。嘘は一つもついていない。俺ほど正直な人間もいない。そんな逞でいくんだ……!


 俺の平常心に裏を嗅ぎとれなかった姉が色好い返事をしてくる。目指せるオスカー。


『んじゃあ、そこも(・)ね』


 はは、おかしな日本語使いやがって。それは複数系だよ。不思議。


「やだな姉さん。冗談は存在だけにしてよ」


『……あんたって、ほんとバカよね』


 業界ならご褒美的な発言なのだが、諦念と呆れを含んでいたら違う風に聞こえるから不思議だ……。つまり不思議ちゃんだ。


『……あたし、今回代理で出ることになったのね?』


 ……ん? なんに? いきなり話がトんだよ? 性格だけにしてくれない?


『健くんが道理だと思うんだけど、金髪ちゃんのガードするって断ったのよ。健くんはそういうとこがカナちゃんを不安にさせてるってのに……はあ。まあだから次点でお母さんだったんだけど、そんな心配ないのにお父さんにつきっきりよ。で、あんたは奄狼様の電話ガン無視するし。じゃああたししかいないじゃない?』


 我が家の大黒柱はどうなってしまったんだろうか……?


『だから、これは貸しだと思うのよ?』


 ああ。貸しだな。間違いない。コクコク。


「しっかり弟から取り立ててやってくれ」


『ええ、しっかり取り立てるわ』


 あれ? なんだろう。第六感が『おまっ、ちょっ! おまっ……』って言ってる。


 わかってる。大丈夫だ。


 姉が危険だなんてわかってる。その辞表はなにかね?


「場所もちょうど良かったし、どうせなら一緒に行けばいいかって思ってたのよ』


 ドクンと心臓が高鳴る。厨二病かな? どこにいくんだい俺の六番目の感覚。君の実家は俺だよ。


『まあ、あんたのことだからどうせ部屋でダラダラしてるんだろうとは思ったけどね。電話には出ないし、もしかして修旅だからってハッちゃけちゃったのかと思ったわよ」


 俺の意識と関係なく汗が吹き出る。冬。目がチリチリに乾き喉が干上がる。微細な振動が続く地震大国かと思いきや我が体じゃないか!


 意識の外に外にと願っても解錠を意味する電子音が無情にも響く。


 せめてもの抵抗とばかりにチェーンが闇が溢れでるのを防ぐ。チェーン先輩!


 扉の隙間から人の物とは思えない白くキメ細やかな指が現れ、チェーンを摘まむ。


 クッ、という軽い音と共にチェーンが崩れ床へと落下していく。


 チェーン先輩?!


 まるで『へへっ、役目は果たしたぜ。……あれ? なんで逃げてないのん?』とばかりに横たわるチェーンの残骸を踏んで、消えぬ璋気()が現界へと降臨。


「……きちゃった」


 人を(物理的に)蕩けさせるような笑みを浮かべて、悪魔(姉)が終了をお知らせしてくる。


 たぶん、あんたの寿命がきちゃったとかで間違いないので、世の男性は惑わされないでほしい。


 正しい対応は塩をぶつけて扉を閉めるだな。



短いです(主人公の自由時間)











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ