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めんどくさがりと襲撃

みじかめ



重ねていきます



 なんとなく、このままじっとしてたら扉が閉まってエレベーターが降りていくんじゃないかとかじゃなく、姉が部屋に潜んでいる時の雰囲気を醸し出しているから足を踏み出せずにいます。


 ついさっきまで人波に揉まれてたとは思えない静けさだ。ははーん、都会のオアシスってやつだな?


 しかし人がいないならいないで、もう手を繋ぐ必要もないな。ライオンにリードつけて散歩ぐらいの難易度だったぜ。朝飯前レベル。


 だが、手を離そうにも、三つ編みがしっかりと掴んでくるので離せない。


 ……もしやこれが噂に聞く……吊り橋効果ってやつなのでは?


 そんなことしなくとも、女性ってだけでドキドキするわ。過呼吸。姉に急接近(物理的)するとよくなるやつだ。そのまま接触で叫び声を上げる。するとどうだ。姉は親切にも俺の鼓動を止めにきたではないか。


 叫び声を上げる理由も分かろうというものだ。吊り橋効果かな?


「……これ、あかんやつやわぁ。でもなんやろぅ? 原則禁止なのにぃ……」


 三つ編みが何事かブツブツと呟く。恐らくは呪詛の類だろう。姉もよくリビングで言ってるやつだ。気にせず隣に腰掛けてテレビを見だすとこちらに気付いて怒るアレだ。八つ当たり。


 学習能力がずば抜けて高い俺はわかってる。こういう時は女性に近付いてはいけない!


 やだ手がガッシリ。しかしボスからは逃げられない。


 更にしかし! それはゲームでの話。現実特有の裏道を見せてやるぜ。


「……あのぉ……手を、ですね」


 再び唸れ俺の交渉力。下手に出るのが基本。ビビってるわけじゃない。


「……どこや? 今回は公安も……」


 しかし三つ編みは聞いていない。くそだなリアル。まだ何もしてないというのに三つ編みの口調が鋭くなってる気がするし。


 ミシミシいってる己の右手は置いておこう。


 いつものことだし。


 溜め息を吐き出しながら最上階の展望フロアを眺める。大きくガラスが張ってある外側は、近くで見れば絶景なのだろうが遠くからでも見れる。なんとなく見覚えのある建物でもないかと探している時に気付いた。


 視界の真ん中に女の子がいる。


 青い瞳に強い興味を宿したその子は、長い金髪をそのまま肩から流し、赤い質の良さそうな革ジャンにキュロット、ニーソックスにブーツという出で立ちで手すりに腰掛けている。


 強い視線に目線を合わせる。熊の対処法だ。だって女の子だもん。


 逸らしたら襲いかかってくるんだろう? と視線を固定させていると、女の子の白い顔が驚愕に彩られる。


「うっそ! ……もしかして見えてる?」


「見えません」


 幽霊の方でしたか。


 先程までの対処もなんのその、直ぐさま視線を逸らす。見ちゃだめな類いだ。女の子だもん。


「えー、ええー! なんでー? ちょっと自信無くすー。……まあでも、納得は言ったかなー」


 くりくりと首を傾げていた外人系女の子が、顎に人差し指を当ててニパッと笑う。危険信号。


 その時、俺の手の血行を止めている存在が反応した。


 ジャカという鈍い装填音を響かせて、一瞬で三つ編みの手に現れる黒光りする弾丸発射装置。瞬間たなびくスカート。見えないとかどうなってるの世界。


 あれ? 離された俺の手が変形してるよ? 不思議。


 俺の手に止まっていた赤い血が流れ出すより速く、三つ編みが引き金を引く。


 予想より軽い気の抜けるような発砲音に驚くより先に、狙われた先の存在が笑い声を上げる。


「あはははははは! むだむだ。それにしても、お国関係の人って、なにかといっちゃ撃つよねー。他の芸はないのー?」


「うーん、わからんなぁ。ねぇ八神くん……あそこに、何が(・・)おるん?」


 三つ編みは、まだどこかノンビリした口調で――――微動だにせず弾丸を発射し続ける。怖い。


 そして外人系女の子の周りには、着弾時の衝撃で火花を放つ弾丸が飛び交っている――――のに、不適に笑う外人系。怖い。


 あばばばばばば。女の子同士の喧嘩だ。キャットファイト。街一つ消し飛ぶレベル。


 砲身を冷やす間もなく撃ち続ける三つ編み。放出される空薬莢が物理的に熱い。痛い。


「ちょっと待て! 落ち着け!」


 パンパンパンパン撃ち続ける三つ編みに止める俺。


 具体的には、空薬莢の出る方向とか考えようよ。被害は広げない方が吉。


「あは、優しー」


 おうよ。俺は自分に優しいからな。


 外人系女の子が再び俺にニパッと笑いかけてくる。周りを撃たれながら。全然止めてくれてない。


 というか。


「お前、絶望的に下手だな。なんなの? 兄貴の形見かなんかなの?」


 それ相棒にイジられてる系?


「むぅ…………。でも見えんしぃ。うちの腕が悪いとちゃうよぅ……多分……」


 見えない? いや……。


 つい指差した先には、パタパタと手を振るパツキンの少女。幽霊。


「だな。なにもいないわ」


「わはー、いまさらー? あのねー、悪いけど逃がす気はないよー?」


 シット!


「待て。本当に落ち着け。お前には見えんかもしれんが、あそこには世にも恐ろしい悪霊がいる」


 女性の霊なんだ。あんだすたん?


「そーそー。いくら撃ってもむだなんだし、国民の血税を……あれー? ちょっと、いまなんてー?」


 コクコクと頷いていた悪霊が、首を傾げて聞いてくる。その瞳には光沢がなく、その顔には表情がなく。


 間違いないな。悪霊だから弾丸がすり抜けて当たらないんだよ。物理的に退治とか無理だよ。アロハのオッサンを召喚しないと。アフロのオッサンじゃ駄目かな?


「はぁ、しんどなりそやねぇ……」


 ふと目を離してないのに、三つ編みが手にしていた弾丸発射装置が消え、やたらと黒光りする球形の爆発物がとって変わっていた。


 三つ編みがピンを抜く。


 いや待って。


「じゃあ、いこかぁ」


 ポイっと軽い感じで投げた割には直線的に外人系女の子に飛んでいく。三つ編みは投げた着後に俺の手を掴んで駆け出した。


 その姿勢はしなやかで低く、鼻が地面につきそうな程なのに倒れることなく俺が浮かび上がらんばかりの速度でエレベーターから飛び出し、外人系女の子の方から離れていく。


「あはー?」


 何がそんなにおかしいのか、外人系は手榴弾をニヤニヤと可笑しそうに見ている。


 爆音が響く。


 衝撃波が硝子に到達すると受け止めきれず、その表面が一瞬でひび割れる。空気の振動が建物を揺らし爆炎が床を焦がす。瞬間的に増大した黒い煙が空間を覆っていく。


 ちょっ、ほんと俺がいないところでお願いします! え? 捕まる、これ俺捕まっちゃう? 現在進行形で掴まれてるけど。国家権力と女性、どちらを敵に回した方が厄介か…………なんて、考えるまでもねえ。


「姉御、こっちです」


 グイッとね。


 引きずられる力より強く引っ張り返すと、三つ編みの体が一瞬浮く。そのまま落下して裁判沙汰にされるのが目に見えていたので、浮いた三つ編みをキャッチ。


 お姫様だっこ。


「あ、え、……え?」


 目を白黒させている三つ編みに説明している暇はない。なにせ、


「人を害そうとするってことはー、害される覚悟があるってことだよねー?」


 噴煙の中に煌めく金髪が見えたからだ。


「馬鹿かと。んなもんあるわけねえわ! 俺なんて家に帰ったら常に命の心配してんだよ?! これ以上俺の心労増やしてどうする気なの?! あ、ははーん、分かったぞ! 吊り橋効果だな?!」


 その好意は受け取れない! ごめんなさい!


 目的の扉を見つけて一目散。決して振り返っちゃいけない。連れてかれてしまう。


 扉には文字が。


 STAFF ONLY


 読めないな? 日本語で頼む。


 高身長に際した俺の長い脚が、勢い余って扉を蹴り開けてしまう。なんてことだ、俺の脚が長いばかりに……!


「……あ、あのぅ」


 直ぐさま飛び込んだ扉の向こうは非常用の階段。三つ編みの恥ずかしげな声は、追い掛けてきた声に塗りつぶされる。


「あはははははは! おいかけっこー? いいよ、あたしが鬼ね!」


「ばーかばーか! こちとら追い掛けられっこのプロだぞ! アマチュアが俺に追いつけるわけないだろ?! 三年は姉弟に追い掛けられてから出直してこい!」


 声はすれども姿は見えず。


 それもそのはず。


 三つ編みを抱えた俺はのんきに階段なんて降ってはいない。折り返しの踊場から踊場へ飛び降りては地面を蹴り、鉄骨を蹴り、空中軌道で直線的に階段を降りていってるからだ。ふはははは! 追いつけまい? 更に姉の場合は気配を消す必要もあるが、もはや外人系の姿形も見えないので必要はないだろう。


 カンカンカン


 と、何かが上から落ちてくる。雨かな? それにしてもやたら金属的な音だ。


 流石に自然落下するスピードには勝てず、その何かは俺の視界に入ってくる。


 つい先ほどまで三つ編みが手に持っていたアレとよく似ている。流行ってんの?


「あらぁ、あかんわぁ」


 あかんね。


 しかし直ぐさま爆発すると思われた手榴弾は、何故か爆発せず、そして紐で括り付けられているかのように、一定の距離をついてくる。


「あのねー、その女は駄目だから殺すんだけどー、あんたにはまだ用があるんだわー」


 そしてどこからともなく声が聞こえてきた。直ぐ後ろにいるような近さで聞こえてくる。


「だから今は止めて(・・・)あげてるからー、その女、早いとこ捨てちゃって?」


 その声は、特に冷たいわけでも無機質なわけでもなく、ただそうするのが当たり前とばかりに、既に決定された当然のことを言うかのように、普通の響きを伴って耳に届いた。


 だからお返しとばかりに、ひたすらめんどくさげに返事を吐き出した。


「あーとーでー」


 蹴り足に力を入れてスピードを上げる。三つ編みが俺の体から落とされまいとしがみつく。


「…………そっかー。ざーんねーん」




 本日二度目の爆音が実体を伴って俺に襲いかかってきた。



みかじめ



一文字でえらい違いに?!

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