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めんどくさがりと観光



 旅行というのは実に不思議なものだ。普段の己からは考えられない行動をとる。開放感。


 見たことのない景色に街並み。溢れる人の群れは足早で、止まることを許されない行進のようだ。人生かな?


 さすが日本の首都と張るだけあって人が多い。


 ゴミのようだ。


 ここで無双乱舞を物理的にかましたら逮捕されるだろうか……待てよ? ゴミ掃除はボランティア精神溢るる行い……つまりは。


「表彰物っ……!」


「迷うたねぇ」


「……」


 人ゴミの中、流されるままに足を進める手を繋いだ男女。カップル……。


 ではなく迷子です。ええ本当にありがとうございます。


 ちょっとどういうことですか? 作品が違いませんか? 俺は方向音痴属性持ちではないんですけど。


 正に魔都東京。


 まさか抜群の方向感覚を持つシティーボーイの俺ですら惑わすとは……?! 東京に誘惑が多いというのはホントだったのか……。怖い! 都会怖い! お外怖い!


「ひとまず宿に戻ろうと思う」


「そやねぇ」


 すごい自然に自分の要求をさも当然と意見に混ぜる。これが交渉力。永きに渡り、世の不自然な違和感(姉)と戦い続けてきた俺には造作もない。


 押せばいけるってやつだ。多分。大体合ってる。


 ふんわりと周りを物珍しげに見渡していた三つ編みの手を引きながら携帯を取り出す。


 さあ、グーグル先生。お願いします。


「わぁ、ここなんやろかぁ? なんや、ごちゃごちゃしてるわぁ」


 三つ編みが足を止めるに合わせて俺の足も止まる。今となっては手を離すタイミングが掴めず、二次被害を出さないためにそのままにしているためだ。


 三つ編みが見ていたのは……商店街? いや、なんつーんだろうか。都会的な言い方はわからないが、三つ編みの言い方は的を得ているように思う。


 ごちゃごちゃしてる。


「ここぉ、通り抜けてみぃひん?」


「嫌です」


 最短距離をサクッと戻ろう。早ければ早い程いい。宿で安らげる時間が長くなるから。


「そうかぁ。んー、でもなぁ……うちら、あっちからグルッと回って歩いてきたやろぉ? だからここぉ通った方が速いんやないかなぁ……」


 そうなの?


 なんだ、意外と道順覚えてんのな。俺なんか授業中レベルの真面目さで前を歩いている人を眺めていたら、いつの間にか知らない場所だったからね。七不思議。てっきり三つ編みもそうだとばかり。


 さすが女性。さす女、刺す女。


「……ならここを通って帰るか」


「そぉ? じゃあ、いこうなぁ」


 先程までは、若干俺が先導するように手を引いていたのに、気が緩んだ瞬間に手を引かれたので、なんだか引き連れられるように足を踏み出した。


「あ、なんかぁ……変な店あるよぉ?」


「いやいや、変なて、ほんとだ」


 特に見て回るつもりもなかったのだが、指差された方にある店を見て反応してしまった。


 一見、ただの洋服を扱っている店に見えるが、置いてあるラインナップが特殊過ぎて二度見レベル。


「全身タイツにロケットアームが並べて置いてあるんですけど?!」


 いつから都会は機械の国に?!


「着脱可能かぁ……。でもうちなぁ、赤ってあんまり……」


「色の問題?」


 もっと色々問題あるだろ?


 思わず足を止めて店を観察してしまう。三つ編みがウイッグというには余りにもなカツラを手にとる。


「それ時代劇で見たことあるな。あるね」


「お姫様みたいやんなぁ?」


「一昔前のな」


 ここパーティーグッズ売ってる雑貨屋なんじゃないの?


 需要はあるんだろうかと、心惹かれるままに指なしグローブを手に取っていたら、店の奥から店員さんが出てきた。


 アフロでグラサンの。


「ハハハハ! いらっしゃーい! 遠慮せずに店の中のも見てってよ! なんでも取り揃えてあるよ!」


 マジか。首都ぱねぇ。


「じゃあ、トルティーヤの海老カツを巻いたやつくれ。ドリンクは水で」


「古製和本のぉ、『元東記』でぇ、出来るんなら改定前の原書がええなぁ」


「店間違えてないかい?」


 まずなんの店なんだよ。ハッキリさせとけよ。


「おいおい、俺の地元なら『既にご用意してます』って返ってきてるよ。サービスでハバネロもついてくる段階だよ?」


「あぁー……洋書でもええよぉ?」


「開店以来初めて口にするけど、服限定で頼めるかな?」


 最初の勢いはどうしたのか、急にげんなりとしたアフロに店の中へと促されたので入ってみることに。躁鬱が激しいな都会人。


「まともだな」


「まともやねぇ」


 店の中は至って普通。照明は明るく、広めにスペースを取られた店内にはお客さんがチラホラといるレベル。地下への階段があるところを見るに、二層構造なのか?


 カジュアルなボトムにシンプルだがセンスのいいシャツと品揃えも普通だ。店頭のディスプレイを考え直せ。


「パンツスーツからゴシックなドレス! タキシードにインバネス、地下に広がるコスプレ空間となんでもあるよ! 気に入ったんなら試着室はあちらだ! おっと、流石に試着室には一人ずつ頼むよご両人?」


「そこは古着からブランドまでとか言うとこじゃねぇの?」


「うち、コスプレしたことないなぁ」


 トコトコと階段に向かう三つ編みに引っ張られるままに地下へと向かう。テンションを取り戻したアフロが手を振って見送ってくる。


「おい待て。別にコスプレしたことないからするとかじゃないんだよ。あれはパッションなんだよ。愛、覚えてますか? ノー、ってやつだ。わかるか?」


「むずかしわぁ」


「無理してすんなってことだ」


「はぁい。じゃあ、普通の服見よかぁ」


「おう、そうだよそうだよ。それがいいよ」


 いやよくない。なんで服見る流れになってんだよ。あれ?


「うち、濃いめの青とか好きやし……ああ、これええなぁ」


 首を傾げる俺に、何故か三つ編みがTシャツを宛ててくる。


「いや待て」


「なぁん?」


 whatみたいな意味でオケ?


 器用に片手で服を元通りに畳む三つ編みに要求をぶつける。


「どちらかと言えば白が好きだ」


「ほうかぁ。そんならあっちかなぁ?」

















「はっ?! 違う!」


「やっぱりぃ? そやんなぁ……白あんもいいけどぉ、タイヤキは黒のんが……」


 そうじゃない。


 昼飯も真っ只中な時間になったので、小腹が空いたと匂わす三つ編みに断固拒否の姿勢をとった俺の意志や赤短髪レベル。全国制覇すら狙えただろう。ぶっちゃけ混み混みでお腹いっぱいです。


 それならばと歩きながら軽い物を指差された先には、元祖で有名なたい焼き店。昔から泳ぐで人気らしい。意味分かんない。昔の人はちょっとおかしい。


 しかしその案は素晴らしいと思い、朝食が未だ消化されてない俺でも手早く食べれると購入。


 購入は三つ編みが、


「白好きやんなぁ?」


 と白餡をチョイス。色の話だと思っていたが食べ物の話だったらしい。女の子だもの。油断した私が悪いよね?


 どちらかと言えば、白より黒で、こしよりつぶが、などと言おうものなら「やだエチー」と鉄拳制裁いやさ鉄拳展開。素晴らしい学習能力でこの事態を回避した俺にノーベルさんも驚きだろう。思春期なんてみんな頭ん中ドぴんくなので。


 俺思春期。


 黙々と手を繋ぎながら食べ歩き。行儀? なにそれ。


 東京やべえと舌鼓を打った所でハタと気付く。


 迷子(迷える仔羊)だったと。


「鯛のニセモンなんて食ってる場合じゃねえ!」


「美味しなぁ」


 食べ終えて叫び声を上げる俺に通行人が視線を向けてくる。やはり俺の隣にいる田舎者オーラ全開のおっとり三つ編みが珍しいのだろう。都会に溶け込んでいる俺と違ってレアさがぱない。生焼け。


 まさに手枷となっている手繋ぎだが、離せば次に会うのは来世と言わんばかりの人波。みんなどこに住んでるんだろうね? とある書物を紐解くと橋の下すら住環境らしいのでその辺りだろう。


 もぐもぐとゆっくり尻尾を咀嚼する三つ編み。頭から食べるを体現するなんてやだ女性らしい。


 よく噛んでたい焼きを飲み込んだポツリ。


「……お茶欲しいなぁ」


「コーヒーで我慢しろ!」


 ポケットから紳士の必需品であるパックコーヒーを取り出して押し付ける。


「……冷えてるけどぉ?」


「冷たい方が美味しいぞ?」


 互いに鏡写しに首を傾けクエスチョン。なに言ってるのこの子?


 パックコーヒーなんて冷蔵物なのに温めて飲みたいだなんて?! 今まさに女心と秋の空な状況だ! 予測不能。


「……すとろぉ」


 この女!


 押し付けたコーヒーを奪い取り、パックを開けて一気飲みする。


「あぁ、うちのコーヒぃ」


 俺んだ!


 飲み干したコーヒーをグシャっと潰して握力をアピール。スチール缶? 手がズタズタになっちゃうから愚者かな。


 ポケットに再びゴミを収納するエコな俺。特に垂れてないけど口元を拭い、首を傾け親指で背後を適当に指す。


「いくぞ」


 帰宿だ。


「……あんなぁ、うちなぁ? そういうんはどうか思うわぁ……」


 んん?


 手を引っ張って歩き出そうとするのを、三つ編みに初めて抵抗される。よく見ると目の奥が姉(攻撃)色。


 なにやら俺の指した先を警戒している模様。特に深く考えず、戻るという意味合い的にバックと掛けて後ろを指しただけなのだが。


 そこには宿の英訳表記。やだー、ご休憩とか常にしたいわー。


「違う。そうじゃない」


「どう違うん?」


 高尚な冗句だよ。宿に戻る、バックのホテルへゴー、的な?


 通らないよね。


「すいません。一刻も早く戻るべきだと思ったので、もう来た道を帰ろう的にですね……ええ、はい」


「ほうかぁ。……でも、気ぃつけてなぁ?」


 いや全く。俺の知りうる女性なら九割二分で挽き肉だった。


 頭を下げる俺を尻目に、三つ編みが顎に手を添えて考え出す。処刑法かな?


「うーん……ならぁ、あっこ登ってみいひん?」


 今度は三つ編みが指差した先を俺が見つめる。


 そこにはタワーを抜いて頂きに建ったツリーがあった。


「……それは、どうかなあ?」


 めんどくさいなあ……。


 なんて、やらかしたばかりの俺が言える訳もないのだが、遠回りせずに最短距離を帰りたい。


 もう新幹線に間違って乗って自宅帰宅もありだ。名案。


 しかし明暗を分ける三つ編みと俺の表情。明担当は良いこと言ったとばかりの笑みだ。


「あっこならぁ、知ってる場所が見渡せるなぁ。それに、誰か知り合いが居ったらぁ、あとは道ぃ聞いて帰ろかぁ」


 なるほど。それは理に叶ってはいるかもしれない。ただダルいという欠点が全てだ。人間は楽を求める生物(なまもの)。つまり俺の意見のが正論ということだ。論破。


 いくぜ! それは違うよ! ここからが交渉(ネゴシエーション)


「それは」


「ホテルいこう言うんと、うちのツリー登ろういうんは……どっちの意見がええんやろなぁ。違う言うんならぁ、あとで誰かに聞いてみんことにはぁ……」


 にっこり。


 おっと、女性かな? 女性だね。女性の笑顔はマジ勘弁願いたいものだ……。ほら、あれだ。




 眩しすぎてさ。


 ……目から水が漏れてきちゃうだろう。



めんどくさがり


交渉力:5

レベル:ゴミ




三つ編み


交渉力:ボンッ!

レベル:バ、バカな?!



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