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めんどくさがりと粋



 決め手はソースと鰹節だと思うんだ。


 認めない。認めないよ! たこ焼きの具がイカでも美味いだなんて! 百歩譲ってもネーミングでアウトだろ。


 パクパクとイカ焼きを食べ終えポイ捨てもどうかと思ったのでゴミ箱を探すが見つからない。人気のない方に人気のない方にと歩いてきたのが失策だったか。


「マジ凄くね? ね、ね、マジ凄くね?」


「あー、わーったって、しつけえ」


「これ飲んだらすげぇから」


「バカ、さっきの見たろ? 多分俺が一番多いっつー」


 おう、なんだ。今どきまだいたのレベルの柄の悪さの不良どもが前から六人ほど歩いてくるよ。分かりやすく学ランとか着りゃいいのに、普通に自分の学校の制服着崩してタバコとか噴かしてる。制服で身バレしませんか?


 ギラリと睨まれたのは俺のサトラレが故か。自分の能力が妬ましい。


 サッと壁際に引いて目線を逸らす。通り過ぎる際に「ぷっ」「マジだせぇ」とか聞こえるように言われた。


 ふっ、運が良かったな。ゴミ箱さえ見つかっていたらポイ捨てしてたところだ。


 しっかり姿が見えなくなった所で中指を立てておいた。こういう小さい積み重ねが大事だって偉い人が言ってた。


 掲示板に安価を求めても応えないで有名な俺は再びゴミ箱を探すために前進した。


 すぐの曲がり角でボロボロのヤ○チャを発見。自爆を喰らったレベル。ポイ捨てですね。あの不良どもの来た道の先に遺体、ぴーん。わかっちゃったよ、じっちゃん。


「うっ、ごほっ」


「大丈夫か? 直ぐに気を高めろ。もしくは腹いっぱいになる豆とか持ってない?」


「……あんな、高い塔、のぼっ、ごっほごほ」


「ひまわりを描いたことで有名な?」


「……ゴッホ」


 こんな実力者が不良にやられたというのか?! てかデブチンじゃねーか。


「とりあえず怪我は軽いな。骨にヒビぐらいだ」


「……今まで生きて、きて、そんな怪我っ、たいっ! ゆ、ゆっくり起こして」


 俺はデブチンの脇に手を入れて壁にもたせ掛からせた。


「野郎集団で良かったな。女だったら…………ひ、ひでぇ」


「お前が、ハア、何言ってんのか、よくっ、わからん」


 だろうな。大切な所はボカしたからね。優しささ。


 一応確認は取っておこうか? 勘違いとかだったらマジ恥ずかしいからね。


 デブチンの油ぎった髪は乱れ所々に固まりかけた血が泥を含んで付いている。まだ流れ出たばかりの血も頭から顔を伝って顎まで垂れてきている。制服はボロボロで腕やら裾やらが破け、足は痺れているのか軽く痙攣しているように見える。腕を持ち上げるのも困難なのか、中途半端な位置で固定してるのはそこが痛くないからだろう。


 なるほど。


「何があった?!」


「え、うそ? わ、分かるっしょ? ねえ? 俺の、ボロボロ、具合を、ぐっほ、ごほ……見ればさ?」


「姉がいるとか?」


「なんでいま家族構成?! み、見て! 正直かなり辛いんだけどぉ!」


「重要なことなんだ!」


「逆ギレ?! んだよマジ! 俺ん家は妹しかいねぇつーの!」


「祈れ。それが最期の仕業だ」


「な、なんでぇ?! いや違うよ? お前がなに考えてんのか分かるけども! 最近とか虫を視るような目で見られるし、俺が冷蔵庫開けた後にティッシュで掴んだ部分拭いてるから」


「これ、やるよ」


「ゴミじゃねーか! ……うっ、ゲッホゲホゴホ」


「ほらぁ、叫ぶからー」


「ぐっ、ゴッホゴホゴホ」


 うーむ、咳こんでたから肺でもやられてんのかと思ったが、叫べるし呼吸音も声質もおかしくない。大丈夫。


「よし、じゃあ保健医呼んでくるわ」


 こういう時は丸投げが吉。別に運ぶのがめんどいとかじゃないよ? ほら、よくある動かしたらヤバいかもっていうあやふやな知識のせい。


「ま、待て」


 保健室に行こうとした俺の腕をガシッ掴むデブチン。大丈夫だって。あれでも保健医って学校に雇われてっから。運んでくれるって。


「先生はいい、先生はヤバい」


 女だからね。


 いや待てよ。彼はこう言いたいのかもしれない。


『先生はイイ! 先生はやばいぃぃいいい!』


 変態だ。


 友達になれる。


 しかしこのタイミングで性癖をカミングアウトとは。そういえば彼を保健室で見た覚えが……?!


「そんな時間ねぇから……早く、止めなきゃ」


 フラフラとよろめきながらも、歯を食いしばって立ち上がるデブチン。


 おい止めとけ。寝てろって。俺なんて寝てろって言われたら起きろって言われるまで寝て、起きろって言われても「寝ろって言った、寝ろって言ったじゃん!」って言って抵抗する自信があるのに。


「いや待て待て」


「あ、痛い痛い。そこ痛いから、ってなんで頭掴むの?!」


 え、だってうちの家族なら引き留める時はこうするか、頬に打撃かなんだけど……。


「どこいくか知らんが、傷が開くぞ?」


「現在進行形で開いてっから! ちょっ、圧弱めて! 優しく!」


 ヤサシ……なんだって? それ人に存在する感情?


「いいから休んどけって。どうせあれだろ? 悔しくてトイレに籠もって泣くんだろ?」


「なんでイジメられっ子メンタル?! ち、ちげーって、今わりかし急いでっから、離せって」


「ほい」


「おお、意外とあっさり……」


 ギリギリと前進するデブチンに言われた通りに手を離してやったらたたらを踏んで、そのまま膝をついた。


「ほら、膝ガクガクじゃん。無理すんな。保健医は女性だけど治療系だから大丈夫だって。加撃とかされないって」


「どんな先生だよ?! ……いや、いいよ。マジ急がねーと、ライブが始まる……」


 おっ、ブーメン? 俺も行く行く。


 カタツムリにも抜かされそうな速度でフラフラと歩くデブチンの隣に並ぶと、デブチンが微妙に焦点が外れた目でこちらを見てきた。


「仲間にはしない」


「いや、うるせーよ?! なんだよ、なんで付いてきてんだよ……」


「いや、俺もライブ見にいこうと思っててさぁ、デブチンに付いていって場所が分かるならそれにこしたことはない」


 実はちょっと迷ってたんだよねー。多目的ホールってどこ? ぶっちゃけこの学校、付属の建物多くね?


「……いや、俺、ライブ会場には行くけど……」


「おお、ラッキー」


 言いよどむデブチンに笑顔を向ける。ならいいだろ? 大した手間でもあるまい。


 足を引きずるようにヨタヨタと歩くデブチンは暫く俺を見つめると、


「まあ、いっか。旅は道連れって言うし……俺、リア充は常々痛い目見ればいいって思ってたしなー」


 と、何故かヤケクソ気味に、へっ、と微笑んだ。


「気が合うな。俺も久々紅葉が見たくなったよ」


「……いや、会話になってる、今?」


 もちろんさ!


「あることないこと囁けばいいんだよ」


「なってないね。お前が大分やべーってのは理解できたわ。……ま、地獄への道行きだ。悪いがそこまで付き合ってくれ」


 ああ、ブーメンの歌詞だね?















 おお、やっちまったい。


 新作ハードの魅力(みりき)に抗いきれずに踊ってしまった。某掲示板で馴らすあたしにとってこんなんはイージープレイだったけど……人前で踊るとかベリーハードだわ。


 踊り始めようとした時に、係員風の生徒に言われて初めて気付いたよ。


 そういやあスカートでしたわ。


 短パンを履く更衣室が備えつけてあったので三つ編み眼鏡の委員長っぽい娘に手招きされたけど…………めんどい。いいよもう。撮られてアップされても。それを理由に引きこもれるしー。


 そんな感じのことをフワッと伝えたら凄い剣幕で更衣室に連れ込まれた。たっけてー。


「もう! あのポニテの格闘技バカといい先輩といい、少しは自覚を持つべきですよ!」


「……委員長っぽい娘は何でも知ってるなー」


「万象遍く網羅恢々、普請に至る円の理から身の内に棲む鬼が種まで、私に透せぬ事無き」


 怖い。大人しく短パン履いときます。


 年下と思わしき委員長娘に怯えながらも着替え終わると、それまでの恐怖も新作ハードには勝てなかったのか、全力で踊ったよ。


 アンコールにも応えちまったい。


 おかげでライブがギリギリだ。結構見に行く生徒が多いのか人の流れ乗ることに。


 ううっ、恥ずかしい。なんか見られてない? 自意識過剰?


 あたしは我慢しながらも流れに合わせて歩く。


 ライブの開幕は間近だ。間に合うかな?


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