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めんどくさがりと文化祭 1



 事件とか、ないから。


 ハッキリ言って普通に生きて普通に暮らしてる限り事件とかない。そんなん求められても困るし起こる要因もない。


 男子高生が普通に学校生活を送っていれば、幼女と絡むことも、銃器と絡むこともない。


 押すなよ? 絶対押すなよ?! じゃないよ? 泣くぞ? すーぐ泣くぞ? でもない。


 文化祭に向けて文化祭実行委員長がギャハ系でお助けクラブ的な所にヘルプして悪役クライムになることもなくー、実に淡々と文化祭への準備が進みました。


 別に実行委員が怪異に巻き込まれることも無かった。


 マジ間違ってる。


 そんな、朝パンくわえた女子高生がいない世界で、今日も頑張る時間がやってきた。


 朝ですってよ、へっ。


 いつか弟が俺の布団を剥がなくなる日がくるんだろうか? 正直、寒くなってきたのでやめてほしい。


 低血圧で起きるのに時間が掛かっているだけなのに……。鬼! 人でなし!


 そんな朝の儀式も終わったところで、鬱々と囚人ふ……制服に着替える。今日は文化祭なので鞄はいらない。溜め息を吐き出し重力に耐えて一階に降りる。せめて甘いコーヒーブレイクでもなきゃやってられんよ。


 キッチンの扉を開けると、笑顔を浮かべておしゃべりする母ちゃんと茶髪がいた。


「あら、おはよう」


「おはろ〜」


 もういいよ、お腹いっぱいだよ。そゆのいいから。最近は異世界に通じる洋食屋だって看板掲げてんだよ? ちゃんと『女子在中』って札掛けといてよね!


「ご飯どうする?」


 明らかな異常事態だというのに、うちの母さんはいつも通りだ。駄目だ、既に手遅れだったんだ。


「いらね。コーヒーだけ貰える?」


 俺? ああ、慣れた。


 茶髪の隣に腰を降ろす。茶髪はニコニコと嬉しそうに白いマグカップを啜っている。


「ねー、聞かないの?」


「なにを?」


「だって、ビックリしたっしょ?」


「あー、確かに……」


 そうだね。ここらで聞いとくべきだよね。


 俺は目の前に差し出されたコーヒーで喉を潤すと、滑りがよくなった口で茶髪に話し掛けた。


「うん、どう思う? 興行収入が歴代の上位に食い込んで今や社会現象に及ぶように」


「なんの話?!」


 名前を忘れちゃう物語。わかる。


「もー!」


 牛かな?


「そうじゃなくて!」


 妄想でした。


「あ・た・し・が! ここになんでいるのか聞くところでしょ?!」


「なななななんでお前がこんなところにぃ?!」


「ふざけてるっ!」


 至って真面目ですよ。


 母さんがクスクス笑っているのに気付いた茶髪がバンバンと机を叩いた手を引っ込めて「あっ、ご……ごめんなさぃ」と真っ赤なってモジモジしだした。


 俺はそれを横目に見ながらまたコーヒーを啜って頷く。


「わかればいいんだよ」


「君に言ったんじゃない!」


 叩くのは机だけにしてくれませんか?


 俺の体の耐久値的にも早めに話を終わらせた方がいいみたいだ。机を叩いて謝罪したのに、人体を叩いて謝罪がないのは決定的な身分差を表してると思う。マジでカーストパンデミック。下剋上なんて存在しない。あれ言葉だけだから。実際に持たざる者は皇帝を討てないから。


 俺は性差に負けて……俺は性差に今日も負けて相手の望む問い掛けをすることに。


「それでー、あなた様は何故このようなところにー?」


「うっわ、興味なさそ」


 なんでわかったんだ?!


「もう……ま、いっか。あのね、今日文化祭じゃん?」


 ああ、そうね。さすがにここ連日、それの準備してたからね。わからいでか。


「……」


「……」


 …………。


 ………………。


「トゥビィ?」


「それ、続きは? って意味じゃないからね」


 ……え? 伝わったんなら続きを語ってくれんかね?


「うん。文化祭だね」


「そう、文化祭だから、ね?」


 いや、わかるだろ? 的に言われても。正直女子が理解不能なのに。


 …………はっ、ピーンときた。


「友達が、いない――」


「いるわっ! そうじゃないでしょ! 今日は!文化! 祭! な、の!」


 ブーメラン? 何を言っているのかね。あれは投げたら戻ってこないで有名なシロモノじゃないか。今の状況とは何の関係もないね。ああ無い。


「あら〜、それじゃ駄目よ莉然ちゃん。その子、結構なアレだから、だいぶアレしないと」


「ですよねー」


 あの、本人が前にいますけど? もっと包んで。もしくは隠して。


 母さんが「頑張って!」と拳を握ってる。知ってる? この人、俺の母親なんだけど。


 しかし、はっはーん、わかったぞ。この勢いはアレだな? 告白的ななにかだな? 家族の前とか何この罰ゲーム。いきなり本丸だよ。スタート地点の隣の城だよ。


 俺が軽く身構えているのに対して、後押しされた茶髪が言いづらそうにしながらも口を開く。


「文化祭だから……」


 うん、だからー?


「あ、あ、あたしのクラスに、よ、寄ってって? ……くれる?」


 ………………おぅ、客引きでした。


 別に期待してなかったけどね? うん全然。全く。
















 というわけで文化祭(非日常)。


 初日の午前は体育館に集まってステージで出し物をするクラスの発表を見る。正直激ネムだ。


 クラス毎に分かれて並んでいるのだが、照明を落として暗くなったら知ったことかとバラバラにバラける。どうせ終わる前に並び直すので俺は移動せずに胡座をかいてその場に残る。


 正直子供騙しな催しだ。くだらな、ダンスやべー。すげー面白いよ! 考えた奴は天才じゃなかろうか?!


 続く出し物の劇とバンドはそんなに面白くなかった。劇は普通だったんだが、バンドはもうね。あちゃーって言いたいぐらいだった。ぶっちゃけ現実を見た感じだ。せめてオリジナル曲じゃなけりゃ良かったのでは? なのに器材の撤収が行われず、次もバンド演奏ですと。おい、やめろ。この空気の中、続けてバンド演奏させるとか自殺行為だよ。せめてインターバル挟んでやれ。


 ガヤガヤと騒がしい体育館内でバンド奏者が入れ替わる。全員が意識してる系のナルシストっぽい奴らから、全員がデブへ。おいおい、女子から黄色い声援が上がってるよ。阿鼻叫喚だよ。


 しかも大した距離じゃないのにマイクまであとちょっとの所で疲れたジェスチャーとかして笑いをとってる。ゼヒーゼヒーとか言うところでブヒーブヒーって言ってる。ヤバい期待できる!


『続きまして、三年、有志一同によるバンド演奏。グループ名「ブーメンの音楽隊」、曲は――』


 今日最高潮の盛り上がりを記録した。














 ステージの出し物は時間を区切って一般公開の時もやるらしい。ぜひ観に行かねば。歌と曲もうまかったが、パフォーマンスと顔芸の方で笑いをとりにきていた。すげーよ! だてに一年多く年とってねーよブーメン!


 興奮覚めやらぬ中解散になったが、いつまでもブーメンの話題を上げるわけにもいかず、うちのクラスの喫茶店の裏方に入る。


 女子は接客、男子は裏方。当番制で二交代の勤務になった。


 俺は先に昼過ぎまでやるんだと。


 ちなみに女子の服は白のセーラーだ。何故ならうちは海兵隊喫茶『団子屋』だかららしい。高校生って凄いよね。


 女子のセーラーの御披露目があった時に、つり目とロリ子から感想を聞かれたので、スカートすげー短いね? と言ったら、魅せパンだから平気! と返されたので、ありがとうございますと言いながらピラッたらクラスの半分からボコボコにされた。げせぬ。しかしクラスの残り半分からはヒーロー扱いされた。


 そんな俺が裏方に行こうものなら、女子との接近禁止令と考えても問題ないだろう。


 むしろありがたい。


 ただ涙腺がムズムズするのは水分の取り過ぎのためと思われる。


 裏を仕切ってあるのれんから女子が顔を出してくる。


「おい変態、みたらし三人前にあんこ二人前、ウーロン三杯だ。あくしろよ」


「はい、ありがとうございまーす!」


 ちなみに返事は「ありがとうございます」だけしか許されてない。なんでも「お礼言うの好きなんでしょ?」とのこと。我が校にイジメなんてない。みんな良い子さ。ただ俺が裏方の時は偶々めちゃくちゃ人員少ないけどね? 不思議。


 海兵隊喫茶『団子屋』焼きそばもやってまーす。塩味。














 さて、仕事終わりです。


 人一倍頑張った僕への報酬は女子の冷え切った視線でした。入れ替わりで裏に入ってきた男子一人一人が僕の肩をポンと叩いてきたのも報酬なんだろうか……。


 廊下にポツンと追い出された俺。ここから自由時間だそうです。つまり帰ってもいいんだろうか?


「先輩!」


 自由ってことは好きにしていいってことだよね? 疲れた心と体を癒やすために自宅へ帰宅するって普通だよね?


「せーんぱい!」


 だいたい文化祭の日だけ下校時刻いっぱいまでいていいってなんだよ。なんで寛容した風に宣言してんだよ学校。そこは午前中に帰っていいって言われる方がご褒美だわ。自分らの立場で考えて。「今日は仕事、夜までやっていいから」とか言われても上司を怨む感情しか出てこんわ。


「聞いてほしいッス! やーがみ、せんっぱい!」


 聞こえてるけど何か?


「おっと、はっはっは。今日は三年生も二年の階をウロウロしてるから、俺のことじゃないかと思ったよ」


 呼ばれた瞬間から逆方向に向かって歩き出してたんだけどね、流石に腕を掴まれたら振り返らずにはおれまい。


 後ろを振り向くと、テンパと軍曹が手を繋いで立っていた。


「ユリかな?」


「どちらか言えばユルい方ッス」


 認めちゃった?!


「…………つか、今の通じんのかい」


「亜丞先輩から提供された『読むと見るとタ(゛)メになるっ! 文化系部活の参考文献、映像付き』を読んでますので!」


 いや、褒めてないよ? なんで『自分、頑張りました!』的な空気出してるの? あとその文献は後で没収します。間違いなく堕ちていく方向なので。


 まあ、一年同士だし? いつの間にか仲良くなってても驚かないが……。


「で? なんだよワザワザ呼び止めて」


「はいっ! この度自分は伝令を承りました! 文化祭といえば文芸部が華! 各部員は速やかに部室に集合するように、とのことであります!」


「断る!」


 んじゃ、以上で。


 スチャっと手を上げて半回転ターン。呆然としてる軍曹とジト目全開のテンパを置き去りに、しようとしたところで再び腕を掴まれた。今度は両方だ。


 しかし気にせず前進。ふはははははは! 圧倒的じゃないかね我が軍は!


「あっ、ああああああ! 止まっ、止まってほしいであります?!」


 なんで? だって止まったら、帰れないじゃないか?


「ううぅぅ、この前泊まった時はもっと優しかった」


「よし行こう。部室はあっちかな? 部長命令とあらば是非もなし!」


「……」


 掴まれた手をグッと握って方向転換だ。ほんと何ほざいてんだ。


 止まる云々言っていた後での泊まる発言だったからギリギリセーフだね。むしろアウトだわ。おっ前ほんとに女子高生かぁ?! そゆ発言は近くに先生がいない時にいいなさい! あのすれ違った先生がうちの、違った、俺の副担なら危ないとこだったぞ?! 全く、証拠として残しておいた記録音声を身代わりにして弟が退学になるとこだったよ。気をつけろ?


 出店やらクラス内劇やらをやっている教室棟を抜けて渡り廊下を渡り、やってきたのは文化系部活の部室が並ぶ部室棟。



 俺の前には『此処を潜る者は一切の望みを捨てよ』と貼り紙が貼られた扉があった。注・学校です。



ちょっ、押すなよ?!


マジ、マジ押すなよ!



いや、マジで言ってっからマジ真剣!!



言えば言うほど増す不思議。ただし日本のみ



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