表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/119

めんどくさがり……?!

「……だっり」


 寝落ちしていた態勢から体を起こすと、口癖のような言葉が口から漏れる。意識したわけじゃないけど、まぁ、なんとなくだ。


 食いかけのスルメと2リットルの炭酸飲料がテーブルの上にちらばり、パソコンの駆動音と、つけっぱにしたまま終わってしまってメニュー画面に戻っているアニメを映したデジタルテレビの予告編の音が部屋に低く響いている。


 …………フタ閉めてて良かったな……。


 とりあえず転がっている炭酸飲料を立てる。カーテンを閉めているので時間の感覚がわからない。

 ……カーテン、開けよっかな…………いいや。朝になってたら眩しいし…………。


 中途半端に伸ばした右手をケツに持っていきボリボリと掻く。


 ……あたしもいい加減女捨ててるわー。


 クマの濃く残った目尻で部屋を見渡す。


 ……なんだっけ?


 クラン総掛かりになるはずのクエストをソロクリアして動画にアップ。気になっていたアニメを二週して、積み上げた漫画をクリアしつつスマホで『黒しゃる』をやっていたら三徹したのが効いたのか意識が遠くなってきて……ああ、オチたのか。


 考えつつもテーブルに残ってたスルメを口に放り込み、炭酸飲料のフタを捻って口にする。炭酸の抜けた炭酸で喉を潤し、しばしぼーっと過ごす。無意識に漫画を掴みパラパラとページを流す。


 3日間風呂に入らずブラもつけずにシャツとハーフパンツで缶詰めだったからか、なかなかイイ臭いになってきている。


 ……風呂、ご飯……。


 風呂に行くために立ち上がろうとしたらフラついて転んでしまい、テーブルの角に頭を打ちつける。


「〜〜〜〜っ?!」


 い、いたい〜〜〜〜。


 右に倒れたら布団だったのに、左に倒れたためにテーブルの脚にヒット。致命傷です。死にます。


 しばらくバタバタ暴れていたら、積んでいた本が倒れて追い討ちをかけてきた。おのれ。古本屋行きにするぞ?


 だいぶ痛みが収まってきた。布団の方までゴロゴロと転がってきてしまった。ふと顔を上げるとほぼ使わない目覚まし時計に目がいく。


 9月15日 AM7:12


 ……あー、そういえば学校始まってんのかぁー。夏休みもこれまでか…………うぇっ、めんど。……でもそろそろ行かなきゃ母ちゃんから電話くるなー。


 もそもそと立ち上がりシャワーを浴びに部屋を出る。


 洗面所で真っ裸になり水のままシャワーを浴びる。伸ばしっぱなしのグネグネした長い黒髪を洗う。


 あー、めんどいなぁ……でも、切るのは、もっとたるいしな……。


 体も洗い終わり、ドライヤーを使うことなくタオルで適当に髪を拭きながら裸のまま部屋に戻る。


 下着をつけた時点で少し考える。


 学校に行くべきか、行かぬべきか、それが問題だなー……。昔の人は良いこと言う。


 よし、止めよう。


 即決でラフな格好に着替えようとしたら、スマホが鳴りだす。着信は好きにアニソンだ。朝から燃える。


「あいあいー。……げっ、母ちゃ……うそうそうそうそ、げっ、とかナハハ! ……えっ? うんうん行ってる行ってるー。今も着替え………………え、うっそー……連絡が、いや、今日はいく、いくから、それは勘弁……うん! 勿論。じゃあ、そろそろ行かなきゃ遅刻だし、はいはい、わーってるってぇー。うんうん、じゃ切るよー、はーい。バーイ……ふぅ」


 手にしたスマホを親が仇のごとく見つめる。間違ってない。


「……はあ、しゃーない。留年もヤーだし、いくかー」


 朝から下がりきって浮上する見込みがなくなってしまったテンションを、今日の深夜アニメがあると己に言い聞かせることで無理やり持ち上げ制服に着替える。


 二学期になって初登校だから制服はパリッとしてる。キメっ。


 姿見の前で一回転。


 変なとこないかな。あったら……いや、直さないわ。めんどいし。


 ふぅ、と溜め息を吐き出し靴を履いてる時に気づいた。


「……やーべ。ブラしてねぇ」










 まだ夏服でいいようだ。


 目の前を通り過ぎていく自転車に乗った同じ学校の男子生徒も夏服だ。


 まあ、あちぃしな。


 正直遅刻ギリギリなので走っても間に合わないぐらいなのだが、足が鉛のように重いので、大事を取って歩くことに。やだわ、何かの病気かもしれない……家で安静にすべきかしら?


 なんとなく視線で追ってしまった自転車は、見るともなしに見るとステッカーを貼っていない。違反じゃん。遅刻を免れても昼のチェックでアウトだぞ? 一年か?


 余命を幾ばくか延ばすだけの一年を哀れに思う。あたしなんて、ふっ、最初から覚悟決めてるぜ。


 と思いきや、


 その一年と思われる男子生徒が乗った自転車は、学校前のボロいアパートに入っていき、直ぐに徒歩で先ほどの一年が出てきた。


 ずっりぃー……。おい、あたしの哀れみを返せ。


 近くの駐輪場に無断駐輪だと? ……………………頭いいな。あたしもやろっかな……。


 値段と立地条件のために、あたしが住んでいるアパートは学校からやや離れてる。第一希望はあたしもあそこだったのだが、意外と人気があるのか空きが無かった。


 その男子が学校に入ってから暫くすると始業のチャイムが鳴る。あたしはようやくアパートにさしかかった辺りだ。遅刻確定。


 ……始業のチャイムかぁー…………始業のチャームだったらヤベーな。なんの勉強させられんだろね? 危ないね?


 そんな益体もないことを考えながら下駄箱で靴を…………あり? 下駄箱の中に上履きがない。それに、なんか、下駄箱新しいね?


 いじめだろうか? ヤダかっこわるい。


 しかし開けても閉めても上履きは現れなかった。二重底の可能性は無いようだ。


 仕方ないので職員室前の下駄箱からお客様用スリッパを取り出して履く。つまりあたしはお客様でオーケー? 関西出身の商人なら神と称えられる存在だと?


 よきにはからえ。


 そんな説明を一限の英語を担当する先生にしつつ教室に入っていったら遅刻を点けられた。


 何故だ。理解に苦しむ。













 昼休みになった。


 朝がギリギリだったからコンビニ寄ってない。学食か購買にいくしかないんだが…………人ゴミがすげーたるい。いつも通りここで空腹を我慢しとこう。いいよ別に。あとで纏めて食えば。あたしって頭Eー。


「駒威芭さん、また昼飯ぬき? ……おにぎりあるけど?」


 神降臨。おおっ、持つべき者はクラスメイトよ。


 顔を上げると、慣れ親しんだファニーフェイスにメガネをかけた男が苦笑を浮かべているのが見えた。


「マジか。代償はなんだ? 体か? おにぎり一個なら胸一回揉むぐらいだぞ? あたしは安くない」


「いや、激安だよね? って、なんか俺が悪い感じになってんだけど何も言ってないじゃん……」


「ただ?」


「今まで金とったことないだろ……」


「ありがと〜、マジいい奴だな、うっ、うー…………ウドは」


「いや、迂朴(うぼく)だから。つーかこのやりとり毎回……いい加減やめようよ……」


 ばっか、違うって。かみまみたってやつだって。つーか毎日顔合わせてんのに名前覚えてないわけねー。


 仕方ないと言わんばかりに対面に腰掛けた迂朴に笑いかけると、直ぐに顔を赤くする。迂朴つーか純朴。こんな干物女の笑顔でも照れたりすんだなー。


 迂朴が渡してくるおにぎりの銀紙を剥がして大口を開けて食べる。


 マジうめぇ。おにぎりを考えたやつは天災だな。お陰で大罪が一つ増えるつーんだから。


 迂朴とだべりながら向かい合って食べる。話す内容は最近上げた動画だ。


「――ったよ。マジでやってたんだね? 夏休みもうとっくに終わってんのに。まあ再生数凄いけどね」


「いやー、何度もトライエラー繰り返した甲斐があったっす。達成感パネぇ。思わずコーラを頭から浴びたわ」


「いや、コーラはわからないけど……つーかクラン・レイドなのにソロアタックってすげーよね? 達成した人が出たせいかチャレンジャースレが阿鼻叫喚になってたよ」


「なっはっは、今度はどこに火を入れるかな?」


「コロニー?」


「んにゃ、只の放火魔さ」


「お巡りさん、この人です」


「あ、裏切ったね? 玉子焼き没収です」


「……あのねー」


 文句を言いつつも少し嬉しそうな迂朴。マゾかな?


 裏切りの代価として徴収した栄養源を咀嚼しながら、話題が途切れたのを機に教室を見渡すと、こっちを見ていた何名かと目が合うも直ぐに逸らされてしまう。


 おう、嫌われてんな。


「迂朴はさぁー、あたしに声掛けてくれっけど、いいのー? ハブられんじゃん?」


「…………いや、それ嫌われてるわけじゃないから。何度も言ってるけど。つーか、いや…………それ聞くかぁ………」


 迂朴に目を向けたら、顔を赤くして視線を逸らし頭をボリボリと掻き出した。迂朴、お前もか。


「うーん、でもさー、話し掛けてもなー」


「だから、あがってるっていうか、緊張してるっていうか……まあ、嫌われてるわけじゃないよ」


「そうなんか、フンフン」


 まぁ、ぶっちゃけ気にならんけどね。これも毎回の話題ってだけでどうでもいいわ。


 あたしがどうやったら迂朴から飲み物を奪えるか策を練っていると、「よしっ!」と教室の後ろの方で気合いの発声を入れたクルーカットの糸目男子が立ち上がった。びっくりしたよ。青春の叫びだろうか?


 注目を浴びた男子が周りの友達に肩やら背中やらを叩かれてこっちに向かってくる。


 視線はバッチリあたしに固定されていた。


「駒威芭、今ちょっといいか?」


「駄目だ」


「「「お、おぅ……」」」

「「「……うわぁ……」」」



 このクルーカットがあたしの前に立ち止まった時に上がった、キャーやら、うぉーやらの声は、あたしの返事と共に霧散してしまった。なんだ?


 じーっとクルーカットを眺めていたが、クルーカットは少し怯んでいたものの、再び目に力を入れて話しかけてきた。


「じゃあ、今でなくてもいいわ。いつなら空いてる?」


 いつならって……。いつでも空いてないって言ったら怒っかな? えー、だって一人の時間が至宝だと思ってるあたしにとって空いてる時間は空いてない時間なんだけどー?


 このまま後々まで延々と空いてる空いてる聞かれるよりは、いま相手をしといた方がいいかなー。


「じゃあ、ちょっとなら今いいけどー……マジちょっとで」


「お、おう。じゃあ、ちょっとついてきてくれっか?」


 え、い、移動すんの……。せっかく得たカロリーがなくなっちゃうよ。


 あたしの表情を見たクルーカットが「直ぐだから、近いし」と慌てながら付け足してくる。


 ……はぁ、じゃあ行こうかねー……。

















 放課後ですわ。


 特に学校に用のないあたしはさっさと家に帰る。


 コンビニに食料を買い込んで帰ろう。曜日感覚なかったけど、明日は金曜日だから休みだしね。


 だしね!


 留年が背後に迫るまでは頑張ろうと思う。落ちる前に頑張る。新しい。


 いざとなったら稼いでくれる旦那を見つけよう。今日告白を断った奴の弁じゃねーな。


 しかし、つき合いねぇ……。


 正直つき合いがよくわからん。つまりなんだ、エッチがしたいでいいのかな? イチャコラもデートもその前段階ならそこにビビッと来たってことでいいんかな?


 あれだ、あたしの体に欲情したからいつかヤらせて、みたいな?


 んー、違うのか? しかし異性とのイチャコラに全く興味が湧かないしなぁー、好きですって言ってきてる奴に、あたしは大して好きじゃないけどいい? って言うのも違うだろうしなー。


 それともあたしは好きじゃなくても付き合っていいんだろうか? それでオーケーなら、それはつまりあたしの気持ちはどうでもよくて、あたしの体が目当てってことだろうか? じゃあ、やっぱりつき合わなくていいんだよな?


 わからんわー。


 コンビニのレジの前の列の最後尾に並びながらそんなことを考える。カゴ二つに満タンだぜ。


 直ぐ前に並んでいるシャギーが入った茶髪の子に自然と視線がいく。可愛いなこいつ。なんか恋百戦してそうだわ。恋愛孫子だわ。


「あっ」


 外に視線を振っていた茶髪の子がそう言って列を離れてコンビニを出て行く。知り合いでも見つけたのだろうか? イタズラっぽい笑顔を浮かべていた。


 魅力的に見える笑顔だった。


「…………」


 会計を済ませ帰途につく。なんとなくさっきの茶髪の子がいないかと探してしまう。あんな顔を浮かべるほどの何を見つけたんだろうか。


「たでーまー」


 家に帰り着き玄関にある姿見に顔を映す。


「んー、ふう、にぃー」


 ダメだ。あんな表情浮かばんぞ?


 んむむ。どうやったらあんな顔が出来るようになるんだろうか?


 …………………んんんんん、よし!




 とりあえずパソコン立ち上げてから考えよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ