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私のなっつやっすみぃ!

ここで閑話とかすいません。ネタ切れとかじゃないんですよ? ただネタが逃げ出しちゃって。ネタ逃げですね、はい。


 う・み・だぁ!


 八月も頭の方、炎天下の最高気温の中、私たちは海にやってきた。


 もっと早く来たかったのだが、恵理のスケジュールに合わせたため遅れてしまった。


 恵理は毎年夏休みになると忙しくなるらしく、なかなか捕まらない。


 なんでもパーティーがあったりするんだそうな。お金持ち〜。


 しかし羨ましさは半分といったところかな? だって夏休みなんだよ? 遊べない夏休みなんて大人になったら嫌ってほど過ごすんだから、今は楽しくするに限るね、うん。


 そんな灰色なんだか赤色なんだかわからない青春を送っている親友を、引っ張り出して海に連れていく私ってやっさしー。


 日差しを照り返す海を満足げに見ていたら、疲れた顔の親友から裾をクイクイ引っ張っられボソボソと話しかけられた。


「……ねぇ、真綺ちゃん」


「なんじゃら?」


「……男の子がいるんだけど」


 私は後ろを振り向く。


 白い帽子に膝丈のワンピースの上からラフなシャツを腰で絞って留めた夏使用の親友。真田さん家の恵理ちゃん。


「あつぅ〜〜〜い〜」


 そしてその後ろにデニムのショーパンとロンTを合わせた垂れ目の違う高校に進んだ友達。シテっちゃん。


 アンド、男の人が三人。ガッツリ荷物なんて持っちゃってくれている。わぉ、すてきー。


 未だ戸惑っている親友に私は頷いた。


「いるね。んで? どかした?」


「……どうって、よくないよ……たぶん」


「あれあれあれー? でも私いったよね? ラインで『男子もくるよぃ!』って」


「あれは……だ、だってあんな言い方したら……男子って言ってたから……」


 ボソボソと続ける可愛い生物に抱きついて頬ずりする。


「あーん、ごめんよー恵理ー! だって、恵理と遊びたかったんだよー。そのためにはこうするしかなくてねー? 八神くんのためなら必死こいてスケジュール空けるだろうと思った私を許しておくれー」


 かいぐりかいぐり。


「……もういいよ」


「怒んないでおくれよぅ。なんなら勇気を出せない親友のために八神くん家一緒に凸っちゃってもいいからー」


「……もう」


 少し赤くなって拗ねている親友。可愛過ぎる。なんだこいつ? 私を殺す気か。


 私の顔に戦慄が駆け抜けていくのも気にせず、シテっちゃんがニコニコとゆる〜い笑顔で話しかけてくる。


「エリチーにマッキン、相変わらず仲いいねぇ〜? にぃーちゃんがパラソル立ててくれってさ〜。とりま、着替えてくるぅ〜?」


「ういうい。じゃあ更衣室いこっか」


「……はぁ」


 私は親友を引きずりつつ更衣室に向かった。










 むふふん。どうだね、我が肉体は?


 お菓子の制限に週三のウォーキングまでして手に入れた黒き明星(胸から痩せる)よ。


 幾多の乙女がこの自然とは思えない摂理に泣いた。希望はないのかと悲嘆にくれた。


 だが! 私は例え悪魔と契約しようともこの水着に似合う女でありたいと思うのだ! ならば解決策はこれしかない!


 つーめつめっと。


 なんの擬音かって? 乙女の秘密だ。


 去年はワンピースタイプだったから今年はビキニにしてみた。恵理と一緒に買いにいったのだが……大変だったー。あの娘の場合デザイナーさんが家に来て、何千着とある水着の中から試着専用ルームで選ぶのが水着選びだっつーから、引っ張ってってデパートで買うってことを納得させるまでえらい時間掛かったよ。


 まぁ、努力のかいがあったけどね。えへへー、かわいいんじゃないかな?


「どう恵理? かわいい?」


 あたしキレイ?


 小動物のようにビクビクしながらタオルをまいて赤ら顔で着替える恵理。自分の全裸が恥ずかしいというより、他人の全裸を見るのが恥ずかしいんだそうだ。修学旅行めっちゃ楽しみなんですけど。


「うん。真綺ちゃんはいいね。スタイルよくて……」


 ズーンと効果音がつきそうな目で見つめてくる。そこは欺瞞が詰まってるからあんまり見ないでくれたまえ。


 そういう恵理だって十分可愛いと思う。


 髪はいつも通りの双括り。花柄のセパレートタイプの水着はフリルがついてて可愛い。手足は長く顔は小さく、肌のしっとりと透き通るような白さはどこか妖艶としていて、思わず飛びつきたくなるほどだ。


「恵理も可愛いよ。つかエロい。これ八神くんに渡すのはちょっとなー」


「も、もう!」


 牛かな?


「エリチー、マッキン、着替え終わった〜?」


 顔を赤らめる親友をとりなしていたら、場所がとれなかったためロッカーを一つ挟んだ所で着替えていたシテっちゃんが顔を出してきた。


「よーし、じゃ……」


「…………」


「どうしたの〜? 二人ともぉ〜?」


 首を傾げるシテっちゃんに、私たちは返す言葉を持たなかった。


 たゆんたゆんと揺れる二つの球体。ビキニからこぼれ落ちんばかりのそれに私たち二人とも自分の胸元と比べていた。


 牛かな?


 ……なに食べたらそんなんなんのよ。













 た・の・し・い!


 出鼻で転ばされた感はあったが、それ以外は概ね予想以上の楽しさがあった。


 水かけ合ってるだけなのに楽しいとか十代ぱないね。イカレてる。


 男子対女子でビーチバレーもどきもやったし、昼のBBQは美味しかったし、余は大変満足じゃ。


 食べてすぐ水に浸かるとよくないらしいので、ゴムボートの上で食休み中だ。海に入ってないからセーフで。


「おいしかったねぇ〜」


「うん。椎手ちゃん、ごちそうさま」


「そだそだ。お礼言わなきゃね。ありがとう」


 特に貝が絶品でした。


「い〜え〜。にぃーちゃんがマッキンにかいしょー見せたかっただけだからぁ〜……う〜ん、気持ちいいねぇ」


 なぬ?


「おいこらシテ。寝るんじゃない」


「……え? な〜に〜?」


「今のはどういうことだ? 詳しく話せ。キリキリ吐け」


「……真綺ちゃん……言い方……」


 女三人ゴムボートで海の上。顔をつき合わせる。


「え〜? だからぁ〜、にぃーちゃんがマッキン狙ってるってだけでぇ〜?」


「椎手ちゃん、それストレート過ぎる気がする……言っちゃ駄目なんじゃ……」


「ほうほう」


 シテっちゃんの兄貴は、特に髪をいじってないストレートのメガネイケメン。しかも都内の有名大学の大学生。


 むむ。有望株だな。


 ついてきた残りの男二人も同じ大学仲間だとか。全員似たタイプの草食系イケメンで、ピアスしている人と短髪の人だ。


 いや、名前がまだうろ覚えで……もうしわけない。


 …………年上かぁ。


 親友が恋の真っ最中だから、私だって、彼氏欲しいなぁ、とか考えたりする。


 こちとらもう十七になろうってーのにキスもまだだ。ここらで一発、いやファーストを捧げるのも悪くないかもしれない。


 しかしなぁ、こう、ビビっとくるもんがないんだよなぁ。アイドルの発掘のごとく。


 まぁ悩んでても仕方ない。迷った時はアンケートだ。


「ねぇ、あの中で、もしつき合うとしたら誰とつき合う?」


「え? うーん。…………ううううん〜」


 恵理がググッと手に力を入れて決めかねている。


 まぁね。恵理には決められないでしょうよ。


 私の目がもう一人の爆乳に向く。


「え〜? あたしぃ?」


 そうだ。貴様の乳ならどんな男性だろうが誑かせるだろう。今夜の犠牲者を選ぶといい。


「う〜んと〜。いないかなぁ〜?」


「あ、あたしも。あたしもいない」


「恵理はちょっと静かに」

 しゅんとなった可愛い生物を撫で回しながらシテっちゃんに先を促した。


「ちょっ、ちょっと真綺ちゃん……は、恥ずかしいんだけど……」


 なにが?


「え〜? ん〜? まずにぃーちゃんは話になんないとしてぇ〜?」


「まぁ兄妹だもんね」


「あ〜、そうじゃなくてぇ〜。なんていぅ〜の〜? あまりに楽しくなさすぎる?」


 辛辣だね。


 私と恵理の引いた顔を見てシテっちゃんが慌てて言葉を足してくる。


「あ、違う違う〜。事実としてね? 過去に二回ほど彼女いたんだけど〜、必死さが空回りっていうかぁ〜、実際、あたしとお喋りしてる時の方がぁ〜、彼女さん、楽しそうだったしぃ? 大事じゃない? そういうのぅ」


 まぁ、確かに……。ルックスや甲斐性も勿論重要だけど、重要だけど、重要でしょ? 一緒にいて楽しいってのも結構大きいファクターよね? やだ。私って恵理に惚れてるのかしら。


「……うん。それあるよ。あと、ドキドキするって大切」


 不整脈がか?


 私が微妙にわからないという顔をしたが、恵理もシテっちゃんも気付かずうんうんと同意していた。


「あ〜、ね〜? わかるよぉ〜エリチー。偶に見せる笑顔にドキドキ〜、とかありきたりなだけじゃなくねぇ〜? むしろめったに怒らないのに怒ったときのオコ顔とかもねぇ〜? こうグッとぉ」


「わかるっ! 静かに泣いてるとこなんて見たら抱きしめたくなっちゃうよね?」


「一緒の空間にいるってだけでねぇ〜?」


「こっち向いてくれないかな? って考えてた時に何気なく目が合ったりするとね?」


 キャーッ! と盛り上がる宇宙人二人。え、駄目だ。日本語でお願いしたい。


 ……ふむ。しかし全く持って思い当たりがないなぁ。…………えっ、うそ? 私って初恋もまだなんだろうか。いや、そんな馬鹿な。私ほどの年齢で恋を知らないなんて……たぶん、小学校とか幼稚園とかで淡い感じのを経験してるよ! ……思い出せないだけさ。


「……でもその要素でいったら、確かにあの中にはピンとくる人はいない」


「でしょ〜?」


 でもそんなこと言ったら一生彼氏とかできないじゃん。おばあちゃんになっちゃうよ。


「こうー……、付き合ったみて? 花開くとかもあるんじゃないの?」


 とりあえず優良物件と。


「あ〜、あるかもねぇ。例えばぁ、今フリーで好きな人もいないって時にぃ、カッコいい人がお願いしてきた時とかぁ〜?」


 そうそう。好きな人が既に誰かとつき合ったたり、自分に気持ちが向いてなかったりしたら……ううっ、考えるだけでキツい。


「そうだねぇ。そういうのもあるかもしれないけど〜、つき合ってみて、どんなに良い人で、その人のいいところたくさん見つけても、好きって気持ちとは関係ないからねぇ」


 んん? よくわかんない。


 私が首を傾げるのをシテっちゃんは笑いながら目を向けてきた。


「恋せよ乙女ぇ〜」


 バカ言わないでよ。短命にする気か。


 うーん。しかし、そう考えるとあの三人は当てはまらないね。


 ピアス。まずピアスが無理。痛そうとしか思えない。ない。


 短髪。オレオレ君っぷりが無理。さりげな自慢とか自分本位な発言に気づかないとか無理。恵理への視線の熱さが無理。


 お兄さん。優しいし細かいところに気がつくし、あの笑顔はいいよね。思わず、にへらっ、て笑い返しちゃう。


 じゃあ、いいんじゃん?


 お兄さんが告ってきたら、つき合っても。


 今までの人生で告られたことは数多くある。モテるなぁ、私。ふへへ。


 しかし現実に"つき合う"と深く考えたことのない私は、これまでその全てに断りを入れてきた。


 曰わく、ごめんなさいである。


 しかし親友が恋に暴走を始めてから、私も少し、そういうことに興味が出てきた。


 でもドキドキしたことなんてないんだけど?


 ヤバい。それじゃ彼氏できないじゃん。


 一緒にいて楽しい? 楽しい楽しい楽しい……んー、あっ! 面白いとかでもいいの? それなら……。


 いや待て。それはない。うぉぅ、ない。


 え、だって話してて面白いとは思うけど、全然彼氏としては赤点だし。そもそもこんなこと考えてるのもない。ないよぉー、ない。


「真綺ちゃん?」


 首を傾げて見上げてくる恵理にドキッとしてしまった。これが恋か?!


「う……」


「う?」


「う〜?」


「うりゃあ!」


「きゃあ?!」


「え〜?」


 両サイドからひっついてくる友人が暑かったのでゴムボートをひっくり返した。反省はない。




 その後、現地集合だったけど、帰りはシテっちゃんのお兄さんの車で送ってもらった。何故か車を降ろしてもらう順番が一番最後だった。シテっちゃんがニヤニヤしてたから乳を張っておいた。


 予想通りというかなんというか、別れ際、お兄さんが告白してきた。


 返事は、ごめんなさいにしておいた。


 ふと浮かんだ顔は夏の暑さのせいだろう。きっと。





 ヒュー、ドロドロドロドロドロドロ。




夏の効果音、定番。





他意はない。

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