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めんどくさがりのかくれ……んぼ?



 あ、ありのまま今起こった事を説明するぜ?


 仲居さんっぽい人についていってトイレに案内される筈だったんだが、幾つもの板張りの廊下を曲がりついた先は、四、五十畳程の洋間。でけぇトイレだ。ベッドにソファーにテーブルに、はてはキッチンとバスルームまでついていて説明をうけたよ。勿論トイレもついてた! オカッパの私室らしいです。部屋の中に使用人が三人ほどいてよ? 軽食にお菓子に紅茶を振る舞われたので、「すいません、先にトイレ……いっすか?」って断りをいれて便座に座っているところだ。


 …………部屋にトイレがついていたか。こいつぁ、神をも見逃す盲点だったぜ。しかも窓がないときた。信じられないだろ? ほんとの話。


 思わず無意味にトイレットペーパーをカラカラカラカラ回しちまったぜ。資源を大切にするため逆回転だ。


 ふう、落ち着いた。


 さて、ここからが本題なんだが……どうしよう?


 迅速に行動しなきゃいけない。怪物(女性)が離れた今がチャンスなんだ。なんで山の中に放置されたのかはよく分からないが、今の俺に出来ることは、生きて、帰る、これだけだ。


 目下の目標はこの屋敷を出て電車に乗ることだ。だいたいそれでどうにかなる。タクシー派の人なら大通りを探すになる。


 で、だ。


 じゃあ、さっさとお部屋を出て逃亡したらいいじゃない? お菓子も食べればいんじゃない? と諭されそうなんだが……それが出来たら苦労はしない。ニートでいける。


 問題は使用人の人達なんだよ。


 全員女性だ。


 いや違う。それが一番問題なのは当たり前だったな、俺としたことが。次点が重要。次の問題は、何故か二人が出入り口の脇に、残りが外に繋がりそうな窓際に控えてんだよー。まるで、逃がしはしないと言わんばかり。うん。被害妄想なのは分かってるよ? 単に侵入者が最も入って来そうな位置に陣取ってるだけだよね? どう考えてもオカッパはお金持ちっぽいからね。


 しかし俺も見つからずに外に出られそうにない。


 他の出入り口はない。さっき説明を受けた時に大体の間取りは確認したからね?


 しかしバスルームの使い方とか、いるか? 直ぐ帰る客に。


 まぁ、お陰で脱出口の有無を確認出来たが……。まさかトイレに窓が無いのはなー。


 ……仕方ない。あんまり時間もないことだし、動くとするか。


 俺は便座から立ち上がると、備え付けの洗面台で手を洗った。鏡に向かって歯をキラリ。よし行こう。


 トイレのドアノブを音を立てずに回し、素早く開閉しトイレを出る。トイレは死角にあるため、俺がトイレを出たことは確認されてない筈だ。


 そのままバスルームの前を通り過ぎ、角の所で身を低くする。ここからが難所だ。


 目的地はキッチン。そこに行くには、仲居の人の一人の視界に入ることになる。


 俺の作戦はこうだ。


 俺のトイレが余りにも長い、もしくはオカッパが来る→仲居の人が確認に来るが、俺はいない→慌てて探すも部屋では見つからず外に探しに出る→誰もいなくなったところで俺様部屋を出る、ステルスミッション開始。


 完璧すぎる。なんて恐ろしいんだ。世界が俺の頭脳を狙う日も近いな。ワーグナーが聞こえてくるかもしんない。


 俺は自分の才能に畏怖しながらも角から少し顔を出しタイミングを計っていた。どこぞの軍師ばりに。


 今でしょ!


 ふいに仲居さんの視線が外れたタイミングで、身を低くしたままキッチンの奥へスライディングばりに突入。塾講師の方だったようだ。


 よし、貰った。後は見つからないために隠れる場所が必要だったのだが、多分ここが一番いい。


 キッチンの半ばまで身を低くして進む。そこには引き出し型の取ってが床にあった。


 床下収納だ。


 ここか冷蔵庫の中の二択だったのだが、冷蔵庫の中の物を食べ尽くすのに時間がかかりそうだったため断念した。後は床下が広いことを祈る。


 ロックを外し取っ手を掴んだら、ゆっくりと勝手にせり上がってきた。 おぅ、自動かよ。なんかちょいちょいハイテク入ってくるな。


 上がるドア、開く床下、せりあがる幼女。


 そう、幼女。


 オカッパのミニチュア版みたいな子供が床下収納から顔を出した。


 子供サイズの着物に、くりくりした大きな瞳、オカッパ頭の登頂部をゴムでくくってチョロッとアホ毛を出している。


 座敷童だ。


 バッチリ目が合う。


 見つけたら即確保するのが人情だろう。だからか、乱獲が祟ったため日本政府はこれを忌避。幼女への接近を事案に設定。日本の富の象徴を国外へ逃がさないようにした。しかし近代化が進む現在。古い家屋に棲むという座敷童は姿を消し、バブルははじけ不景気が始まるわけだ。


 つまり日本の未来のためにこの幼女を俺が確保するのは正しい行いになるわけだ。


 正義のためなんだよ。


 バッチリ目が合ってから数秒。


 幼女が口を開けようとするタイミングで素早く口を手で塞ぐ。反対の手で幼女を穴蔵から引っ張り出し小脇に抱え、すぐさま気付かれてないか確認。目の血管が浮き出る、汗がにじみ、息が荒ぶる。喉をゴクリと鳴らしよく磨かれたシステムキッチンの反射を利用して人の動きを察知。どうやらバレてないようだ。


 ふぅ。あらぬ誤解を受ける所だったぜ。


 俺が額の汗を拭いてると座敷童がクリクリした瞳を向けてきた。


 このままじゃ変質者扱いをされてしまうため、俺はそろそろと床下収納に身を滑り込ませゆっくりと扉を閉めた。


 床下はひんやりと涼しく、結構なスペースがあった。ワインとか置いてる。


 階段を素早く降りると未だにじーっと俺を見ている座敷童に事情を説明させてもらう。致し方ない事情だ、きっと分かってくれる。


「静かにしろ。暴れるんじゃねぇぞ」


 こちらの事情を伝えるために大人しくするようお願いをしておいた。きちんと最初から説明するのが大事。今の忠告で、俺の大体の立ち位置が分かっただろう。


 コクコクと頷く座敷童。ニヤリと邪悪に笑う俺。


 座敷童の口から手を離し、地面に立たせてやると、目線を合わせるために座敷童の前に胡座をかき座る。


「おいちゃんだれー? あたし、のこと、見えるのー?」


 コテンと首を傾げる座敷童。流石、妖怪でも女だな。俺の事、殺る気満々だな。


 ここは、俺も仲間だから安全だよアピールと、座敷童が見える理由、一石二鳥でいこう。


「実は俺も、妖怪なんだ」


「すごぉおおい!!」


 口を塞ぎ小脇に抱え、素早く階段を上り扉に耳をピタリ。


 いざとなったら、「こいつがどうなってもいいのかあ?!」でいこう。


 待つこと一分。


 どうやらバレなかったらしい。やれやれ。


 素早く階段を降り座敷童を解放。


「おっきな声出したらダメだよー? おいちゃん、今、かくれんぼしてる途中だから」


 座敷童は両手で口を押さえコクコクと頷いた。なんか嬉しそうだ。やはり同じ妖怪仲間を見つけて喜んでんだろう。


「ふふふふ」


 座敷童の口から笑い声が漏れる。その手はなんのために押さえてんだよ。まぁ、叫んだりしなきゃ、地下だし大丈夫だろうけどさ。


 俺がこれからどう時間を潰すか考えていたら、座敷童がチョイチョイと手招きをする。なんだろう。福でも招いてくれんのだろうか。


 従うままに近寄ると両手を俺の耳に当てて内緒話のごとく話し始めた。


「なんじまで、かくれたら、かちー?」


 汝待て、隠れ宝、地位?


 俺は深く頷くと返信した。座敷童の耳元で囁く。


「待つに能わず、欲せば見えず、得難きに有り」


 俺の言葉に座敷童が興奮してキャーキャー言ってる。妖怪って不思議。


「じゃ! いこう!」


 どっからそうなった?


 急き込んで階段を上がろうとする座敷童をガシッと掴む。待て。


「あ〜ん、いこう? はなしてぇー」


「いやいや、上に戻ったら見つかるだろう? 見つかったら負けなんだぞ?」


「見つからないもん! 見えないようにいけばいいんでしょ? 『あたしと、あなたは見つからない』もん!」


 ……少し考える。もしかして秘密の抜け道みたいなものを知っているのかもしれない。こちらに着いて三十分も経たない俺と何百年と生きてる座敷童じゃ、経験値がダンチだ。え? つまり、座敷童、さん? ここは大人しく従った方がいいのかもしれない。年上の女性に逆らうことの愚を俺は知ってる。



 俺が手を離すと、パタパタと座敷童は階段を駆け上がり、ガチャガチャと扉を開けて出て行く。俺が着いてきてなかったためか、顔だけ覗き込んできて「はやくー」と急かす。静かしろって言ったよね? ハラハラと目から何かが落ちた。


 一縷の望みをかけて俺も床下から出て行くと、ペタペタと座敷童がキッチンから出て行くところだった。伸ばした手は届かなかった。へっ、そんなゴムでもあるめぇし。


 こそっと顔を出したら、仲居の一人と視線がごっつんこ。手前には座敷童が立って手招きしてる。お茶会の続きですね? わかります。


 仕方なく立ち上がり出て行くと、座敷童が嬉しそうに手を引っ張り出入り口へ。


 ……あれ?


 出入り口の扉を開くときに横に控えている仲居さんに視線を向けられたが、何も言われることなく部屋の外に出れた。


 おぅ……なんてイージーな任務だったんだ。まさか普通に出て行くことが可能とは。盲点。


 俺達が扉から外に出ると、仲居さんが一度顔を出し、左右を確認して再び扉を閉めた。


「ねぇー、どこいくー? なにするー?」


 座敷童が嬉しそうに俺の手を引いて飛び跳ねる。


 家に帰って、寝るんだよ。


 後はこのデカい屋敷を抜けて駅を目指すのみよ。


 やたら楽しそうな座敷童に先導されながら歩いていたが、微妙な振動を感知。すかさず床に屈み込み耳を当てる。近い。


 座敷童を小脇に抱きかかえ飛び上がる。


 足をつっかえ棒に天井に張り付く。何故か座敷童が興奮状態だ。しかし手が離せないため、座敷童の耳に顔を寄せ静かにするように言うと、嬉しそうにまた両手を口に当てる。信用ならねー。


 座敷童が足をブランブラン揺らしている下を仲居が何名か通る。


 それを見送ってから下に降りると、座敷童が手をブンブン振って興奮を表す。


「おいちゃん忍者?! よーかい忍者?!」


 忍びだと? 馬鹿言え。忍びっていうのは我が校の教育受けてる奴の総称だよ。あれ? 俺忍び?


 高校って何を学ぶとこだったか考えつつ、俺は座敷童の導くままについて行った。



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