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めんどくさがりと合宿 2



 家を出たくない。


 間違えた。布団から出たくなかった、だった……。


 リフレインしている訳じゃないよ? 別にDVDのラベル見なくても弐で合ってる。妹が弟になってたりセクシーな先生が増えてたりしない。でもさ、いきなり学園から始まったからちょっとさ、ねぇ? 絶叫して銃突きつけあってたんじゃないの? どゆこと? 一話飛ばした?! とか思うよね? むしろ弟が妹に姉が妹になればいいと思う。妹が実際いる人間は、そんないいもんじゃないとか言うけどね? 憧れってあるんだよ。姉? そんないいもんじゃないよ。


「八神? 大丈夫? …………なんかボォーっとしてるけど」


 脳内で宝くじが当たった時の使い道をシュミレートしてたら声を掛けられたので一時中断して顔を上げる。なに? 今めっちゃ忙しいんだけど?


 視線の先には、地味な色のジャージを着てリュックサックを背負ったポニテ、尻尾がいた。

 尻尾は何故か機嫌よさそうな顔をしている。信じられない。

 今俺達は恐ろしい程長い石段の中腹ぐらいを並んで登っている。石段は苔むして所々割れ目から長い草が生えている。今この状況にも草が生えているww。天辺にはきっと猫仙人的な何かが待ち受けてるにちまいない帰りたい。


 今登ってきた石段をチラリと振り返り、尻尾に返事をする。


「俺はもう駄目だ。先に行ってくれ」


「大丈夫。なら休憩しましょ? 私も一緒に待つから」


 りありぃ?


「ここは俺に任せて先にいけぇ!」


「うん大丈夫。分かってるから。一緒に行きましょ?」


 知ってる? 悪夢って振り払えないんだよー。だって本人寝てるだけだからね。起きるしかねぇ。しかし俺の本能は起きるのを拒否してるんだけどね。あ、詰んだ。


 仕方ないので登頂を再開する。そこに山があるから行くんだと。からっぽなの?

 隣で尻尾が俺のペースに合わせて歩き出す。尻尾の機嫌は絶好調で今にもスキップして鼻歌を歌い出しそうなぐらいだ。


「八神ごめんね? 合宿に突き合わせちゃって。予定とか大丈夫だった?」


「え、本当? なんだったら今からでも帰りたいんだが?」


「八神ごめんね?」


 意味合い違くね?


 謝罪になってない謝罪に頷きながら俺達は石段を登り続けた。ちゃんと断ったのになぁ。人生って不思議。

 因みにあの後もキチンとお断りしたのだが、母の一声で何故か参加することに。おかしいよね? 誰かの邪魔にならないよう、一週間の内百四十時間はベッドの上にいたっていうのに。それが原因だっていうんだもん。不思議。


 あと気になるのが、


「……なぁ、この合宿ってさ……」


「うん」


「……俺の知ってる合宿と違う……」


 なんか、深山行っていうのに似てない?


「……」


 フイっと目を逸らす尻尾。抜けていく俺の魂。


「……や、八神はさ、合宿したことあるの?」


 おかえり俺の魂。


「いや。ないけど?」


「じゃあ知らないわよね。これが一般的な合宿よ」


 マジでか。俺、合宿って合宿所的な所に行って練習とは名ばかりのキャッキャッウフフを繰り広げるギャルゲにおける回避不可専用ルートかと思ってた。


「……どうやら俺には荷が重いようだ。ここらでおいとまさせて頂くよ」


「逃がさないわよ。只でさえ私達遅れてるのに、ここで時間くってたらもっと遅くなっちゃうじゃない」


 帰ろうと振り返った俺の襟首を掴みズルズルと引きずる尻尾。痛い痛い。意外と痛いなこれ。もっと楽かと思ってました。


 結局立たされ、抜けるような青空を背に、深い森の長い石段を粛々と登らされました。










 お寺ですかね? いいえ、ケフィアです。


 石段を登った先には、大きな門が開いており意外な程広いスペースが森を切り開いて確保してあった。その中にどう見てもお堂と平屋作りの住まいがあり、他にも道場のような建物やらお堂から続く渡り廊下やらがとりあえず見える。


 いや、でけぇよ。何百人で合宿するんだよ。なんだよここ、日本か? 俺一人いなくても良かっただろうよ。


 色々と想像と違った合宿所にぽけっとしていると尻尾が腕を掴んで引っ張ってくる。


「荷物はあっちよ。本堂には後でいけばいいわ」


 腕を引っ張っられた方を向くと、三階建てのプレハブ小屋が見えた。なんか浮いてね?


「男は二階で着替え、女が三階。ロッカールームになってるから荷物もそこに置きっぱなしにしてね? 鍵は自分で持っててもいいし、預ける所があるからそっちでもいいわよ」


「三階がビップエリア?」


「……一応、私の他にも女性がいるけど、低年齢だから参加してないわ。あとマネージャーの着替えも三階だから覗いちゃ駄目よ」


「マネとかいんの?」


「ここの管理人さんとその娘さん。と、師範のお孫さん。コナかけちゃ駄目よ」


 あ、ちょうちょ。


「……聞いてる?」


「勿論です!」


 だから、あの、指のっスね? ……圧力がですね、その、リンゴがグシャレベルだから、……はい何でもないです。


 プレハブ小屋まで引っ張られ、俺は二階に尻尾は三階に荷物を置きに行く。最初はジャージのままでいいそうなので着替えとかない。


 二階の引き戸を開く。


 ガラッとね。


「あーもーまた死んだじゃない! 一人で殺るとか無理なんじゃないの?! 大体取得率三パーなら三回に一回は落としなさいよね!」


 その計算はおかしいね?


 長い髪を編み込みにしてフリフリの白とピンクのワンピースを着た、小学生ぐらいの女の子が携帯ゲーム機で遊んでいた。


 立ち上がってエキサイティングしていたが、もう一回挑戦するのか、再びパイプ椅子に腰掛け長机に腕を伸ばしてダラーっと寄りかかる。


 どうやら俺が入ってきたことには気づいていないようだ。


 俺は一つ頷くと、リュックサックを長机に置き、この少女の隣に腰掛けリュックサックから携帯ゲーム機を取り出し電源を入れる。


「あっ、誰か来たわ。ラッキぃ。い・っ・しょ・……に・あーめんどい。定型文」


 おk。


「キター。これで勝つるわ! ふふふ、散々苦じぃ、くじゃ、…………くじ? まぁとにかく勝つる!」


 隣に居るのに気づく事なく拳を握りしめクエストに挑む小学生女児。しばらくポチポチと探索していたら、


「ちょっと。荷物置くだけでしょ? ロッカーの使い方が分からないの?」


 戸の外から尻尾が声をかけてきた。


「あー。汗かいたから下着とTシャツ代えてんだわ。今全裸」


「ぜ、ぜん?!」


 戸に手を掛けようとしていた影が引っ込む。


「……わかったわ。じゃあ先に行くから。本堂横に平屋があったでしょ? そこに行けば管理人さんいるから」


「ラージャ」


 尻尾に返事しつつも手は動かし続ける。みっけ。てい。


 尚、尻尾と会話しているのにも気づいた様子のない少女は「いない、いないわね? ふふふ、ビビってんのね? ひき逃げはバンザイなんだからおとなしく殺られなさい! あっ! ピカッたぁ! ここね!」と明後日の方向にキャラを操作していた。当たり屋さんですか? 濁点が余計だろ。


 しばらくポチポチしていたのだが、その間も少女は「くぬ、くぬ!」とか「あぶ、あぶなぁ?! ばかなんじゃないの?!」とか「なんでこっち?! あっち! あっちのあいつの方がおいしいわよ!」とか「きりつけてんのに寝るとかwww」と体を動かしながらエキサイティングしていた。俺はその間、振り回される腕にガスガス振り回される足にガスガスされたぐらいです、えぇ。


 ようやく討伐を終えた俺達は素材の採取を行ったのだが、その時も「名前てきにも、目ん玉えぐったら出そうよね? あとは、男子だったらあそことかかなぁ?」とブツブツいいながら、採取する際にも「ぐしゃあ! グリグリぃ!」と効果音を自分の口でつける始末。ほんとだ。ゲームって子供に悪影響だよ。でも待てよ? この子は女の子じゃないか! 納得。


「あっ!」


 なんだよ? 今度はどんなグロ要素見つけたんだよ。


 少女のゲーム画面を覗きこんでみる。どれどれ?


 恐らく目的の素材だろう。運よく採取できたようだ。


「やったあ! やったやったやったあ! 三回目にしてようやくよ!」


 めちゃくちゃ運いいな?! つーか三回倒してないのに三回に一回は落とせって文句言ってたのかよ!


 あまりの嬉しさに俺に抱きついてきて、椅子の上でピョンピョン飛び跳ねる始末。


「あはははははは! らくしょーよ! らくしょー! たががトカゲのぶ……」


 パチクリと大きめの茶色い瞳が俺を見つめてくる。俺もめんどくさげに見つめ返す。


「…………あんただれぇ?」


「貴様もな!」


 とりあえず掴んでいる顔の皮と髪の毛を離せ! ちょー痛い!

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