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めんどくさがりの休日



 読むの? 二行で終わるよ?




 朝、いつもの時間、いつも通りに起こされた。布団は何故か弟がそのまま持って行ってしまった。


 あいつ。俺に恨みでもあるのか?


 意識が覚醒しない俺は温もりを求めて弟の部屋へ。弟は居らず恋人(布団)もいなかった。

 しかし弟のベッドには布団が配備されていたので、もそもそと潜り込んだ。


 しかたねー。これで我慢してやるか。


 俺は意識を手放した。






 シャッという音の後に体の上にボフッと衝撃がかかった。


「健二くんっ! 珍しいね? まだ寝て……」


 薄く開いた目に、ナチュラルメイクを施した、満面の笑みが眩しい(窓からの後光で物理的にも)おさげちゃんが飛び込んできた(文字通り)。


「ウワああああああッ」


 ……そこはキャーで。


 窓際まで下がるおさげちゃん。普通なら一発で目が覚めそうなものだが、俺は再び目を閉じた。今日はお休みなんだよ?


 唐突(笑)に布団を剥がされ、肩をトントンされ、再びうっすら目を開く俺。俺の視界には、窓際でまだ固まってるおさげちゃんと、薄っすら嗤う弟が入ってきた。


「兄貴。ちょっと」


 ……兄貴ときたか。聡いね、どうも。






 四回転だった、とだけ述べておこう。


 将来オリンピックで金が確実視されている俺は、何故か頬が赤く腫れ、何故か完全に目が覚めたので朝ご飯を頂くことにしました。因みに布団は弟様が干してくれているそうです。校内カーストでも家庭内カーストでも、俺の最底辺率がパない。日本を支えているのは俺で間違いないと思う。


 台所に入ると完全武装の姉がいた。時計を見るといつも俺が学校に行く時間だ。大変! 早く布団取り込まなきゃ!


「あんた今失礼な事考えたでしょ」


 ……どうやら俺のテレパシーは遺伝のようだ。サトリ一家だったんだね。じゃあ日頃の俺の気持ちも汲んでくれ。


 一瞬で不機嫌になった姉の隣に座る。が、殴られはしなかった。流石に考えただけで殴られたら堪らない。……全く。理不尽の権化のくせに! 今日は常識的じゃねーか! ……ビンタが入りました。


「なんで?!」


「なんかツラがムカついたから」


 どこの組の人ですか?


 俺は周りをキョロキョロ。朝ご飯を頂くために母さんを探す。


「母さんは?」


「父さんとデートだって」


 爪を塗り塗りしながら答える姉。


 ……ん? 待てよ? ということは。


「ゴ…姉ちゃんはどっかいくの?」


「……あんた。あたしが爪の手入れした後で良かったわね? あたしも出かけるわ。――けん君達も出るって。図書館らしいわ」


 ぃぃぃぃぃぃやっっったぜ!! つまり今日は家に俺一人! 家庭内カーストも一人なら最高ランクだぜ! そうか。だからおさげちゃん少しオシャレってたのか。ハッハー! お菓子を大量に買い込んでこよう! 布団も早速取り込もう! 何これ、幸せすぐる! 見ろ! 神様はちゃんと見てるんだよ! 日々不遇を耐える俺に心満意息を与えたもうてくれた! ウェーイ!


「はい。これあんたが今日やること。みんな用事あんだからちゃんとやりなさいよ? あんたが寝てる日にはあたし達がやってんだから」


 ゴッド。……なんてこたない。最底辺は最底辺なのさ。つけあがっちゃった? ……無様だわ――。


 俺の口からエクトプラズマがはみ出しているのを尻目に、腕時計を確認して姉が立ち上がった。


「――ちゃんとやれよ。いってきまーす」


 バタバタと姉が出かけた後、余所行きの服をビシッと決めた弟がキッチンに入ってきた。


「兄ちゃん。洗濯と布団干しと風呂掃除はやっといたから。……大丈夫か? じゃあ、いってきまーす」


「おっ、お邪魔しました」


 少し赤くなってるおさげちゃんを伴って弟も家を後にした。


 ……そらモテるわ。神様? 水の上歩ける程度の大工の倅がうちの弟様に勝てると思うなよ! 今宗教興したら間違いなく三年で世界最多信者数になるわ! 今ある宗教と世界を二分にして宗教大戦してやるわ! やだなにそれコワいやめとこ。


 俺は姉ちゃん(新種のキマイラ)が残したメモに目を通す。


 弟がやった分を抜けばあと五項目ぐらいだ。最後の『姉の部屋掃除』だけ筆跡違うんですけど? 姉て。バイオハザード級じゃねーか、あの姉。都市一つ滅ぼして世界に広がるレベル。世界のために今のうちに滅ぼしておいたほうがいいのでは? 勇者的思考でそう考えたが、止めておいた。個人(俺)の命を捨ててまで助ける世界に価値は無いだろうと思ったから。多分最後はポップな死神が助けてくれる。



――なべて世は事もなし。僕らは無力だ――。






 スーパーに買い出しです。


 カートをガラゴロ推しながら買い物メモ(裏に書いてあった)を読む。書かれてある食材やらトイレットペーパーやらをカゴに入れていく。期限もしっかり見てる。俺の寿命に関わる項目なので。


 それにしても、めんどいなぁ〜。何で遊んでない俺が仕事せなあかんねん。シンデレラか? 俺が簡単にデレると思うなよ。ま、これで最後の仕事だしなー、がんばろー。姉の部屋掃除はやってない。徹底抗戦だ! 部屋に籠城してやる! 不当な扱いには反抗するべきだろ?


 俺は兵糧を得るべくお菓子コーナーにやってきた。多めに買っておこうと真剣に吟味していると、コーナーの端から二、三歳児ぐらいの女の子がステテテテと走ってきた。後ろを気にして俺に気付いていない。


 ドンっ


 まぁ、そらぶつかるわ。気にせずお菓子選びを続ける俺に保護者らしき男が頭を下げてきた。


「すっ、すいません?! オレの妹が……」


 クラスメイトだった。 名前は知らない。デカい声メンバーズの奴だ。向こうも俺に気付いたようだが、喋ったことないしな。


「いや、気にす」


「うぇぇぇぇ」


 こいつの(チビ)が泣き出した。


 ……何この展開。めんどくせー。


 溜め息を吐き出しつつ俺はしゃがむと、手に持っていた飴を差し出して髪を優しく撫でてやった。


「ほら」


「いやいやいや、それ売り物だろ? 値札ついてるし?!」


 クラスメイトが突っ込んできた。

 ヒックヒックとしゃくり上げていたチビは飴(値札つき)を受け取ると、「……あいあと」と言った。何、気にするな。


 呆然としている兄とバイバイと手を振る妹に俺も手を振ると、大量の荷物の乗ったカートを推してレジまで向かった。






 まず最初に弟が帰ってきた。


 朝帰りしろや! ヘタレが!


「兄ちゃん、これお土産」


 ……はっ! 私は弟様になんてことを! へへー。ありがたく頂戴つかまつります〜。


「飯食った?」


 俺は空のカップめんの容器を掲げる。弟は苦笑を浮かべて部屋を出て行った。


 お土産はケーキだった。デザートに丁度いい。本当凄い奴だ……。今のうちに媚びをうっといて損はないだろう。何がいいかな? あいつの好みの女子をガンガン紹介するとか? あいつの好みのエロ本を部屋に置いておくとか? 彼女がいる時がいいよね。だって隠してたら紅葉が咲き乱れちゃうもん。……どうやら俺にデレ期はないらしい。






 まだ全然深夜じゃない時間に姉が帰ってきた。


 テイクアウトされろや! 残り物が!


 籠城のため部屋にかぎをかけた。バリケードも張る。トイレには行っておいた。食糧もある。やりすぎ? バカな! 奴は一度城壁(ドア)を破って突破したことがあるんだぞ?! 「戦争にルールがあるとでも思ってるの?」って言われたよ。法治国家日本で。合衆国日本ならわかるけど。理由? 奴のアイスを間違って食べたからだそうだ。 人間じゃないよ!(色んな意味で)


 コンコン


 ドアが軽くノックされる。


「もしも〜し。入ってますかー?」


 僕をチキンって呼ぶなぁ!


「いたら開けてくれる〜? ちょ〜っとお話(肉体言語で)するだけだから?」


 聞こえる筈のない副音声が何故か聞こえた。震える手で再生ボタンを押し、音がガンガン漏れてるヘッドフォンを耳に掛ける。何故か視界が滲んだ。ええもう、チキンで結構です。


「アケロ」


 言霊って知ってるー?言葉に魂が宿ってることさ! えへへ。おかしいなー? 鼓膜を破らんばかりに音楽をかけているのにね?


 噛みしめた唇から血が滴る。全力で握りしめた拳からは血の気が引いている。心臓がバクバクする。目はチリチリする。喉がカラカラで痛いんだ!


 暫くすると、この世の者とは思えない静謐な殺気を放っていた存在がゆっくりと階下に移動していった。


 …………俺は勝った。


 喜びとも安堵とも云えない息を吐き出し、弛緩した体から力が抜けていく。どれくらいそうしていたか? おそらく数分だ。漸く湧いてきた喜びに顔に笑みが浮かぶ。


 カラカラカラカラ



 ゆっくりと開けられた窓に振り向くと、――――モンスターが嗤っていた。


 あれれ? ここ二階だよ?






 こうして、俺の二度目の世界大戦は終わりを迎えた。

 意識を取り戻すと、何故か次の日の夕方だった。

 呆然と佇む俺の目に入ってきたのは、無くなってしまった食糧とお土産のケーキ、荒らされたバリケードに爆心地の中心の様な俺の部屋の惨状だった。


 部屋の片付けやら食事やら、やることは山のようにあるが、俺はゆっくりと目を瞑り、深い眠りにつくことを選んだ。なんせ今日はまだお休みなのだから。



 いつの日か来る平穏を願いながら、――俺は安息の地へと旅立っていった。

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